Wonderland Seeker

スマホの子はTOPを見てね

《Ride On The City》-桜花の虹彩- Part1

グレアット「……帰ってきませんねっ」

窓から眠らない大都市の風景をぼんやりと眺めながら、ため息交じりに呟く灼眼赤髪の翼女。
巫女衣装を基調とした服装には背中から生やす大きな翼のための隙間がいくつも広がっており、風が吹くたびに肌寒さを解消するために小さな炎を煌めかせていた。

6号「もう一週間になりますね」

そう返す少女。彼女の纏う、紫をベースとしたローブは魔女をイメージさせ、深くかぶる帽子がそれをより一層強調していた。
この姿は本来の恰好ではなく、時折落とす小さな紅白の毛が正体を唯一アピールする。

モンスメグ「あ!このアクセおしゃれー☆」

雑誌を両手にはしゃぐ長身の銀髪少女。デコレーションをいくつも装飾して着飾っており、常に流行の先端を走り御洒落に手を抜かないことが一目で分かる。

6号「もう!メグさんはマイペースすぎます!」
グレアット「…………」

ゆん「メグちゃんは彼女なりに気を遣ってらっしゃるのですよ」
グレアットとは違い、地味なローブから茶色の翼を羽ばたかす大人びた雰囲気の少女が料理を用意しながら、メンバーを諭す。

彼女ら4人はみなポケモンであり、技術の結晶によって少女の姿をしている。
そして当然ポケモンということは、マスターであるトレーナーがいるはずなのだが……
ホウエン地方での旅路を終えた道中、タマムシシティに立ち寄ってから一切の連絡がなく一週間が経過していた。

そのトレーナーの名は、アリス。
その名の通り、エプロンドレスと大きなリボンを着た9歳の少女であり、困難を発想の転換や深い信頼で乗り越えてきた、彼女たちにとってはパートナーと呼べる存在だ。
アリスは、ロケット団に協力しており、特に最高幹部であるエリカから寵愛され事あるごとにエリカからの指令によって動いている。どちらかといえば、組織のためではなくエリカのために動いているというほうが正しいだろう。

しかし、連絡をこまめに取るようにと普段から発する彼女から何の音沙汰もなく、ポケギアも繋がらない現状。
いざとなれば、コガネシティからはるばる直接タマムシシティまで飛べばいいのだが、そもそもタマムシにまだいるという確証もなく、勝手な行動をとっている間に帰ってくればそれこそ窘められてしまうだろう。

ゆん「風の便りがないのは元気な証拠ですわ」

オニドリルであるゆんがそう言うのであれば、としばらくは大人しくしていたがそろそろ我慢の限界も近い。6号とゆんはまだ平静を装っているものの、メグは時折寂しそうに6号に甘えてくるし、グレアットに至っては祈祷の時間が非常に長くなり、さらにその最中に不機嫌そうに炎の渦を巻くことまであるため、このままではいずれ近隣に迷惑がかかってしまうのも時間の問題であった。

グレアット「うるさいなあ……野鳥風情のくせしてっ」
6号「ちょ、グレア!」
ゆん「あらあら?グレアちゃん、いつものおしとやかさまで燃やしてしまわれたのですか?」
6号「ゆんさんも!」
お互い、風を逆巻いて一触即発の状態であった。
どうにか止めようとする6号。無情にもますます強まる風圧。

グレアット「庭に出ろ……野鳥ちゃんっ」
ゆん「望むところですわ」
6号「あわわ……メグさんどうにかしてください!」
抵抗を頼む6号をよそ目にぺらぺらと雑誌をめくるメグ。
モンスメグ「メグが出たところでさ、この状況って解決するかなぁ?」
それもその通り、結局のところアリスが帰ってこない限りこの殺伐とした雰囲気は終わらないだろう。それが分かっている6号はただただ唇を噛みしめることしか出来なかった。

『緊急事態です。緊急事態です!ただちに市民は地下通路まで避難してください!』

コガネシティ全体に警告のアナウンスが入る。その緊迫な声の持ち主はコガネシティでラジオのパーソナリティを務めるアオイであった。

ゆん「なんですの……?」
6号「ただごとではなさそうですね……いったん様子を見て」

モンスメグ「ハラハラドキドキの予感だー★」
グレアット「チッ……鬱陶しいですねっ!」
聞く耳も持たず、外へと飛び出すグレアットとメグ。
すぐさま追いかける6号とゆん。
街に出ると、騒動の真っただ中にあった。皆一様になって、地下通路やコガネジムに逃げ込んでいくその異様な光景は彼女たちにとってはじめてのことだった。

アスカ「あ!キミたちええところに!」
コガネジム代理を務めるアカネの側近・アスカと目が合った。
6号とゆんは、2人を差し置いて状況の整理のためアスカとの会話を選ぶ。
6号「アスカさん!なんなんですか、この騒動は」
アスカ「エンジュ組とヒワダ組が攻め込んできたんよ!」
ゆん「なんですって……!」
エンジュ組とヒワダ組とは、ジョウトロケット団直系の組織であり、それぞれジムリーダーのマツバとツクシがトップを務める、いわゆるサカキの傘下である。
6号「ど、どうしてそんなことに」
アスカ「アカネちゃん、さっきまでヤナギさんが開いてた幹部会に行ってたんやけれど、そこでヤナギさんに逆らってもうたらしいねん!」
ゆん「……もう少し詳しくお願いできますか?」

ジョウトロケット団を束ねる、チョウジ組のリーダー・ヤナギ。
彼のもとで7人のリーダー達はロケット団の組織員として従事していることはアリスから聞いていた2人だったが、いくら鉄砲のような性格をしたアカネとはいえ、考えなしに歯向かうとは考えにくい。そう思ったゆんは冷静にアスカへ訊ねる、しかしアスカは手一杯といった様子であり、まともな返答は期待できなかった。

アスカ「わからへんよ!とにかくもうすぐアカネちゃん戻ってくるさかい、それまでどうにか持ちこたえてくれへん!キミたちの力が必要なんよ!」
6号「わかりました。南のヒワダは私がやりますのでゆんさんはエンジュをお願いします!」
ゆん「かしこまりましたわ!」

 

ーしぜんこうえんー

ゆん「なんという数……!」
争いの中心となっている自然公園へ出向くと、大量のゴーストポケモンが襲撃を行っていた。その様子からして、マツバが動かしていることは容易に想像がついた。
モンスメグ「エレキテル☆エレクトリック!」
メグの強力な電磁砲によって、交戦しているゴースト達を蹴散らしてはいくもののキリがなく、彼女からはやや疲弊した雰囲気が感じ取れた。
ゆん「助太刀します!疾ッ!」
ゆんも広範囲のふぶきとエアカッターを用いて、少しずつ数を減らしていく。
しかし実体を持たないゴースト達が何匹かすり抜けてコガネへのゲートをくぐろうと図っており、視界の広いゆんは阻止するべくそちらの相手に専念していった。
メグは、エンジュ側のゲートで次々と出現してくるゴーストを片っ端から撃墜していくと、そのゲートの扉からバンダナを巻いた青年が妖しきオーラを纏いながら出てきた。

マツバ「おや。あれはぼくが崇拝するホウオウに泥を塗ってくれた聖獣ではないか」

f:id:Alice_Wreath:20211109165846j:plain


ジョウトロケット団直系・エンジュ組リーダー
マツバ

ー34ばんどうろー

6号「うわっぷ!なんて虫の数ですか、まるで昆虫博物館ですね!」
育て屋を構える34ばんどうろへ向かうと、そこにはスピアーやアリアドスヘラクロスなどといった戦闘に特化した獰猛な昆虫ポケモンたちが周囲を襲っていた。
6号「イリュージョン!」
幻影を見せて、敵たちの精神を再起不能にさせていく6号。
だがその数に圧倒され、あっという間に囲まれてしまう。
こうなればと、爆裂魔法を唱えだす6号を尻目に業火の炎があたりを包み一気に焼き払う光景が目に映り詠唱を中断した。

グレアット「虫けらの分際でこのファイヤーに楯突こうなど……笑止っ!」
6号「助かりました……って、グレア!トレーナーさんも巻き込んでます!」
グレアット「信仰の生贄に気遣う必要なんてありませんっ」
そう言い捨てると、聖なる炎と神通力で敵味方・人間ポケモン問わず攻撃をしていくグレアット。アリスという監督がなければ彼女はこれが本来の姿であり、深く理解している6号は複雑な心情を抱きながらも、ただコガネに侵入しようとする虫ポケモンを止めることしかできなかった。
そこに、ひとりの女形の如き美少年が現れた。

ツクシ「大切な自然資料を、これ以上燃やされちゃ困るな」

f:id:Alice_Wreath:20211109171034j:plain

ジョウトロケット団直系・ヒワダ組リーダー
ツクシ

タマムシティー

 

エリカは、タマムシ内でロケット団と繋がりのない唯一の場所である、民間人専用の旅館の一室を貸し切ってそこである少女と2人、締め切ったカーテンの薄暗い部屋で思いつめた表情を浮かべながら、写真を眺めていた。

エリカ「必ず救ってみせますわ……」

f:id:Alice_Wreath:20211025040337j:plain

カントーロケット団直系最高幹部・タマムシ組リーダー
エリカ

そう呟きながら、アリスを抱きかかえるエリカ。
アリスは、完全に眠りについており、水色のエプロンドレスと頭の大きなリボンに身を包んだアリス衣装も相まって、さながら眠れる森の少女そのものであった。
エリカは自分自身のポケギアを手に取ると、ある人物へとコールを繋ぐ。

エリカ「ナッちゃん?わたくしですわ」
ナツメ「ええ。予感がしたもの」
エリカ「”レジェンズ計画”は中止、いいえ。永久凍結ですの」
ナツメ「……まさか!」
エリカ「最悪の事態が訪れてしまいましたわ」
ナツメ「分かった……貴女から例の二匹を預かった時に嫌な予感が走っていたわ」

息をのむナツメ。通話越しでも、お互い張りつめた雰囲気ということが痛いほどに伝わってくる。
ナツメ「任せて。その子をいいようにはさせてやらない」
エリカ「信じておりますわよ」
いつになく、弱弱しいか細い声色でそう告げると足早に通信を切るエリカ。
しかしまるで、誰かからのジャックを恐れているかのような鮮やかな手つきでもあった。

ヤマブキシティ・ジム一角ー

 

ナツメ「エリちゃん……」

f:id:Alice_Wreath:20211109200333p:plain

カントーロケット団直系・ヤマブキ組リーダー
三幹部・ナツメ

マナ「どうした」
紫を基調としたスーツのようなカジュアルな服の上から白衣と禍々しき強大なオーラを纏った、泣きぼくろが特徴的な強気の美女が心配そうに話しかける。

ナツメ「カルマと、あなたの母親を呼んできてちょうだい」
マナ「む……事を急くようだな」
そう言うや否や、どこからともなくカルマと呼ばれた、緑髪の俯いた顔つきをした少女と、ピンクとパーブルがかった幼い服装とステッキを持ったマナの母親ことうゅみが駆けつけてきたかのように、ひょっこりと現れた。

カルマ「時が来た…………ってか?」
うゅみ「あらぁ。ようやく動き始めたのねぇ」
真剣な眼差しで幻級のポケモン3人を見据えるナツメは啖呵を切った。
ナツメ「ふたりとも。いいえ、あなたたち3人。あの子の安全を確保してちょうだい」
マナ「無論」
カルマ「いつもやってるっちゅーの」
うゅみ「泣く子と地頭には勝てないわよぉ?」
ナツメ「そうね。今回は格が違う、それに……今までみたいに都合よくは演出をさせてもらえないでしょうね」

ーしぜんこうえんー

 

マツバ「ゲンガー、魂ごと奪うがいい。ソウルスティール!」
ゲンガー「ッシャァ!」

モンスメグ「見切ったぁ★」
いくつもの無数の怨念の手がメグとゆんを襲う。身軽なメグはぴょんぴょんと空を切りながらかわしていき、ゆんは遥か上空から巧みに翼を操って避けていく。
ゆん「ーーー殺し合いーーーですわね」
モンスメグ「メグのブラッドがダンスっちゃうぜぇ♬」

マツバ「ふん。流石は”奇跡”と呼ばれたトレーナーのポケモンだけはあるね」
ポケモンバトルでのトリッキーなゲンガーとは程遠い、まさしく本性を露わにしたゲンガーには殺し屋という名前を付けるのが相応しい性能であった。
その特徴を最大限に引き出せるゴースト使いであるマツバは、自身の持つ千里眼と合わせ、確実に仕留められるであろう一撃を放ち続けているが、さらにそれを上回る洞察力と身のこなしを両立したメグとゆんには惜しくも届かない。

この違いは、ただ殺意を剥き出しただけに過ぎないゲンガーと、”希望”という看板を引き下げたゆん・”自尊”という唯一無二の看板を背負ったメグの気持ちの差にあった。

ゆん「マツバさん!どうしてこんなひどいことをしているのですか!」
思っていた言葉を吐き出す。彼女にとって必要のない戦いなどしたくはないからだ。
マツバ「フッ……キミたちこそ話の分からない子だね」
モンスメグ「(´へωへ`*)」
ゆん「どういうことか、ご説明願えますか?」
マツバ「教えたところでぼくのやることは変わらない。キミたちとやりあうかどうかが変わるだけに過ぎない」

ゆん「そうですか……でしたら、ここであなたを止めて訊き出しましょう!」
強烈な風刃ーエアカッターーをゲンガーめがけて撃つゆん。
その音速にも近いスピードから繰り出された物理攻撃を止めきれずモロに食らう。もともと物理的な痛みに耐性のないゲンガーはひるんでしまい、動きが止まったその一瞬をメグが逃すわけがなかった。
モンスメグ「神の裁きーエル・トールー」
出鱈目に放たれたでんじほうが急所めがけてゲンガーを穿つ。
神経が痺れたゲンガーはそのまま倒れこんでしまい、再起不能となった。
マツバ「ほう!」
目を丸くして、倒れたゲンガーを介抱代わりに即座にボールへ戻すマツバ。
ゆん「さあ、答えてもらいましょうか」
マツバ「確かにぼくにこいつ以上の手持ちは居ない。そう、ぼくにはね」
まるで来ることが読めていたかのように、彼の後ろから清楚な格好をした少女が登場する。

ミカン「アカリちゃんの看病に時間がかかってしまいましたの」

f:id:Alice_Wreath:20211109204050j:plain

ジョウトロケット団直系・アサギ組リーダー
ミカン

ミカン「無為な戦闘は心苦しいですけども、衝突するというのであればこの鋼の重圧で潰すだけですの!」
ゆん「く、援軍ですか……」
ハガネール「グオオオッ!」
ミカン「やっちゃって!ハガネール!」

ー34ばんどうろー

ツクシ「きみがファイヤー?話と違ってずいぶんと乱暴だなあ」
6号「そ、それは深いわけがあるんです!」
グレアット「そこの森ごと燃やしてあげてもいいのですよっ?」
熱く燃え盛る翼とは対照的な冷徹の視線でツクシを睨むグレアット。
その姿を見て、肩をすくめながらやれやれとほくそ笑むツクシ。

ツクシ「さすが悪者、言うことが違うね」
グレアット「神聖たる私に対して、悪呼ばわりっ?」
ツクシ「アカネ姐さんの肩を持っているんでしょ?じゃあ、悪だ」
6号「……それについて、詳しく教えてくれませんか」
アカネを悪呼ばわりすること、アスカから聞いた幹部会でのアカネの態度。どうにも腑に落ちない6号は、話し合いを試みるがツクシは屈強なストライクを繰り出す、それはノーという返事代わりであった。

6号「やれやれ、血の気が多いこと」
ツクシ「きみたちを倒すことはコガネ組の殲滅に等しいからね!」
グレアット「ナメるなぁっ!」
グレアットの翼と全身から、神秘的な光とともに体積の何倍にも翼を広げ最上級の鳥のみに許されし神の翼ーゴッドバードーとともに、集められた信仰力をエネルギーに変換した超常能力・じんつうりきを同時に繰り出しストライクへとぶつける。
ツクシ「なめてるのはそっちじゃない?」
ストライクは精密機械のようにテクニカルな身体さばきでそれらを素早く回避しながら、鋭き死神のごとき鎌をグレアットへとお見舞いした。
グレアット「くうぅっ!」
炎のヴェールに覆われた巫女装束が無残にも切り刻まれ、腹部へ貫通する。
ぽたぽたと流れる血を即時に自分の火で焦がし傷口を塞ぐ。

6号「なんですって!?」
その様子をみて驚きを隠せない6号。一番近くで彼女の試合を見ていたからこそ、相性的には非常にベストマッチしているはずのストライク相手に不覚を取った光景が信じられなかったのだ。
ツクシ「あれ。伝説の火の鳥って案外研究し甲斐がないんだね」
グレアット「……」
彼の安い挑発発言を沈黙と睨み付けで受け流すグレアット。
6号「つ、強い……」
ストライクの身のこなしは尋常ではなかった。
目にも止まらない、どころではない。
目に映りすらしなかったからである。
たとえ無詠唱であったとしても爆裂魔法が当たるかどうか確証が取れず、微動だにできなかった。ただ親友を信じることしか出来ない自分が悔しかった。
6号「……グレア!」
勇気を振り絞って、親友の名を呼ぶ。
無情にも、彼女にすでにその声は届いてはいなかった。
その伝説の翼を持つ眼光は、ただ一点にツクシを睨み付けていた。
ツクシ「くっ……なんてプレッシャーなんだ……!」

グレアット「灰となれっ」
闇のように漆黒に染まったリライブゲージから、赤と呼ぶにはあまりに黒く、黒と呼ぶにはあまりにも紅い、二対の火の玉が重なり、フィールド一帯を全て覆い包む巨大な炎がストライクもろとも灰燼に帰した。

ーーーーーダークファイアーーーーー

ツクシ「うわああああっ!!!!」

逃げ場のない火柱に包囲され、焼き尽くされようとしたその瞬間に上空からなにかが飛び立ち、それはツクシを空へと放り投げて救出した。

6号「やりすぎです!死んじゃいま……あれ?」
その刹那の光景を見逃さなかった彼女は呆気にとられ、天を仰ぐ。
ハヤト「なるほど、化物だな。刑罰対象だ」

f:id:Alice_Wreath:20211110024107j:plain

ジョウトロケット団直系・キキョウ組リーダー
ポケモンリーグ公認ジョウト警察警視長兼任
 ハヤト

風を切って宙を舞うムクホークの背中に乗りながら、ハヤトはツクシを後ろへ担ぐとガンを飛ばしながらグレアットを見下ろす。

グレアット「っ……!この春の象徴たる私を見下すなぁっ!」
対抗意識を全身とともに燃やしながら、遥か雲の近くまで高く高く飛翔するグレアット。もはや6号は地上から見上げて観測することすら適わなかった。
ハヤト「やれやれ。ルギアでも連れてこねえと鎮火できねえぞこりゃ」
燃え広がる大地と森林を哀しそうに見下ろし、そうつぶやいた直後に憐れな目つきで、怒りに身を任せるグレアットを見上げる。
グレアット「リーグの犬か……殿堂を制した私の敵ではないっ!」

ーチョウジタウンー

 

シジマ「しっかし突っぱねた小娘よ」

f:id:Alice_Wreath:20211110025412j:plain

ジョウトロケット団直下・タンバ組リーダー
三幹部・シジマ

イブキ「仕方ないわよ、アカネにとってあの子は大事な存在だもの。だからこそ利用しがいがあるのだけれどね」

f:id:Alice_Wreath:20211110025855j:plain

ジョウトロケット団・フスベ組リーダー
三幹部・イブキ

チョウジタウンのお土産屋に偽装した、地下アジトで開かれた幹部会。
そこで命令を下されたほか4人のリーダーを見送った2人は、豪華な椅子に佇みながら談笑をしていた。
シジマ「だが儂の師匠を脅かす存在とあれば、黙っちゃおけねえ」
イブキ「同感ね、私にも師匠と呼べる存在が同じ座に立っているもの」
それぞれが指す師匠とは、ポケモンリーグ総本部・カントー四天王がひとりシバとワタルのことである。シバの闘志を習ったシジマ、ワタルの意志を学んだイブキにとって、その2人の立場を揺るがす存在は敵……仇とも忌むべきだろう。

シジマ「ボス!儂もこうしちゃいれねえ、格の違いってやつぁ奴らに見せつけてやりますわ!」
イブキ「私も馳せ参じます。みな目的は違えど、潰す相手は同じ」
ヤナギ「フッ……勝手にせい」

f:id:Alice_Wreath:20211110031217j:plain

ジョウトロケット団直下・チョウジ組リーダー
ジョウトロケット団ボス・ヤナギ

ヤナギ「さあエリカ……決戦の時じゃな」

ー36ばんどうろ周辺ー

 

アカネ「はあっ!はぁ!頼むで、間に合ってや!!」

f:id:Alice_Wreath:20211110032445j:plain

ジョウトロケット団直下・コガネ組リーダー
三幹部・アカネ

息を切らしながら、チョウジから全速力で駆け抜けるアカネが、コガネシティと近接するしぜんこうえんへのゲートを開けたその時、彼女の目に映った光景は

ミカン「く……!なんてデタラメな強さなんですか!」
モンスメグ「ぜーんぶゲロってくれたら命までは奪わないよ?」
ジョウトの中でも指折りの腕前であるミカンのハガネールを完膚なきまでに叩きのめし、空の色すらも変えてしまう雷雲を掲げた聖獣の姿であった。
アカネ「ナイスやメグ!あとはウチに任せとき!」
相棒のミルタンクを繰り出すと、戦意喪失したミカンを抱きかかえさせる。
事件と大きくかかわるキーパーソンの登場に、ゆんは胸を撫で下ろすとアカネへと事情を訊ねた。
ゆん「アカネさん。この騒ぎはいったい」
アカネ「あとで話したるさかい、マツバを抱えてコガネに戻るで!」
モンスメグ「あ!南のほうでグレアたんとろっくんがバトってるよ☆」
アカネ「せやったら安心やな。合流しよか」

ー34ばんどうろ上空ー

 

ハヤト「うおおおぉ!俺は負けない!決して悪になど屈しないんだ!」
ムクホークの痛烈なインファイトも、捨て身のブレイブバードも、何もかもが天上の鳥獣には届かなかった。
それだけではない。父親から譲られたピジョットも、奇襲に長けたドンカラスも、持ちうる総力を上げてもその烈火の勢いを止めることも……弱めることすら出来なかったのだ。

グレアット「天に近づこうとした者には神より永遠の罰を与えんっ……身の程を知れっ!」
グレアットの ダークファイア!
ハヤト「……ごめんよ、父さん。俺は未熟者でした」
決死の覚悟を腹に据え、諦めて目を瞑るハヤト。
今にもその身が焦がされんとするその瞬間であった。

6号「その一線だけは超えるなああああああっ!!!!!!」
6号の イリュージョン!
グレアットからハヤトへと迫り広がる爆炎そのものを幻のうたかたへと変えたのだ。
それだけではなく、感情を爆発させていたグレアット自身にも幻影をかけ、動きを止めてみせた。
エクスプロージョンを使うにも等しいエネルギーを消費した6号は、そのまま地上へと墜落していく。その様子を見たグレアットは我を取り戻し、光よりも速く飛行し6号をすんでのところで救出に成功した。

グレアット「6号ちゃん……っ!」
6号「はあ、はあ……あはは、泣かないでグレア。あなたには笑顔が一番お似合いですから」
グレアット「わ、私……もうちょっとで取り返しのつかないことをっ!」
6号「グレア……私たちは親友です……この絆は絶対です。ですから、超えてはいけない一線を……闇へと踏み出すときは……一緒ですよ」
グレアット「うぅ……!ぐすんっ……ありがとう、ありがとうございますっ……!」

ハヤト「あの力、よもやゾロアークか?……いやいい、今のままじゃ勝てねえ。ツクシの容体も心配だ、ここは身を引く!」
旋回してそのまま自分の縄張り・キキョウシティへと帰路につくハヤト。
グレアットには6号の信念と自分への自責しか見えておらず、6号はそれを眺めながらも動けずに、ただ親友の涙を受け止めることだけが役目であった。

ーコガネジム・アカネの部屋ー

 

アスカ「ほんまお疲れさまやで、みんな」
ソファーへと腰を下ろすグレアットとゆん、アスカに介抱され彼女の太ももを枕にして横になる6号、そしてぐるぐると落ち着きなくうろつくメグ。アリスの帰りを待つ4人は、アカネの口が開くのをただ黙って待っていた。

アカネ「おっしゃ、ほな緊急定例会を始めようか」
アカネの傍らには、うつむくミカンの姿があった。
マツバは別室に幽閉されているらしく、アスカいわく事件が解決次第じきに解放する予定のそうだ。
アカネ「あたしまどろっこしいの苦手やから単刀直入に言うわ。ヤナギがサカキ様から寝返ったんや」
グレアット・モンスメグ・6号・ゆん「!」
アカネ「まあこれはアンタらにはどうでもええことやろうけど、ヤナギの狙いがアンタらにとっては最大のピンチやで」
その次に、アカネから発された言葉は4人の心を熱く揺れ動かした。

『アリスの力を狙っとるらしいわ』

動揺を隠せないメンバー。しかし言葉に詰まり、塞ぐことも忘れたその口から音を発せない。
アカネ「待ち!今から動いたとこでどうしようもあらへん、いや。正確には動いてまうことそのものがヤナギにとって思う壺なんや」
ミカン「え、えっと……ヤナギ様はアリスちゃんの行方を知りません。それどころか、エリカちゃんの徹底された秘匿主義によって、アリスちゃんが具体的にどのような行動を取っていたかも知らないはずです」
発言を許され、重たい口を開いたミカン。
アカネの説明だけではあまりにも大ざっぱ過ぎたため、我慢が出来なかったのだろう。

グレアット「……つまり、私たちの存在がヒントになってしまう。そういうことですかっ」
アカネ「ビンゴ。でも交戦した奴等はアンタらの異常な強さを見て、アリスとの繋がりを疑うかもしれへん。取り逃がしてもうたハヤトとツクシは早いとこ捕まえなあかんわ」
アスカ「一応うちから何人か行かせてるけど、間に合わんかったらアリスちゃんを見つけられるかもしれへんな……」
ゆん「でしたら、なおのことわたくし達があの2人を!」
焦って切り出すゆんを、アカネは大声で一喝する。
アカネ「アホ!それこそあいつらの手のひらの上や!ええか、ヤナギはまだ直接手を出してはこーへん。たぶんアリスを見つけるために、カントーに出向いてサカキ様と全面戦争を起こすはずや。そうなったらヤナギかて無事では済まへん。そこではじめてアンタらが行って食い止めるんや」
アスカ「わお、アカネちゃんにしては理知的~」
アカネ「せやろ?とりあえずアンタらはこの子とマツバが逃げ出さんよう見張っとくのが仕事や。ええか、勝手な行動はアリスを危なくさせるだけや、大人しくしとき」
そう命令を告げると、アカネはドアを開け、ジムから出て行った。
その後ろをついていくアスカ。部屋はポケモンと人質のみとなった。

モンスメグ「そんなうまくいくかな~?」
アカネがいなくなったことを確認すると、ぼそっと呟くメグ。
6号「……どういうことですか?」
アスカの代わりに、看病を得意とするミカンが心配して6号に膝枕をしていた。
モンスメグ「ミカンちゃん達が攻めてきたのって、一見反抗したアカネちゃんへの見せしめのために思えるけど~……ここにメグたちがいるってことを知っててけしかけたんじゃないかなーって☆」
『っ!?』
その意表を突いた考えに、みな驚嘆した。
そしてヤナギ側であるミカンすらも、驚いた様子だったのだ。メグはその表情の動きをしっかりと捉えていた。
モンスメグ「あれあれ~?なーんでミカンちゃんまでビックリしてるの~^^?」
ミカン「え……い、いえそれは、その」
モンスメグ「ふっふっふ、答えは単純。ロケット団以外の部外者に、内通者がいる!
真実はいつもひとつ☆彡」

次回に続く!

f:id:Alice_Wreath:20211110045111p:plain


NEXT