Wonderland Seeker

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《Ride On The City》-硝子色の夕空- part26

「空と君のあいだには、今日も冷たい雨が降る……君が笑ってくれるなら私は悪にでもなるっ」

「あ……あっ、あぁっ……!そんな、どうしてですかっ!」
「高潔な貴女が手を汚すことなんて、ないわ……」

・・・・・・ちゃぷん・・・・・・

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

グレアット「おかしいですね~っ、この近くに潜んでいるはずなんですけどっ」
炎の化身といえどさすがに寒さが堪えるのか、巫女衣装の上から翼を隠すように耐火製の黒いローブを羽織って飛ぶ彼女のあとをゆんに乗りながらついていくも、ハンターJとお見合わせることには為らずいたずらに飛行距離を稼いでいるだけだった。
6号「まあまあグレア、勘違いは誰にでもありますよ」
グレアット「フォローになってませんっ!」
ビアンカに乗るアークが親友を慰めようとするも逆効果だったようで、より躍起になって砂漠の中の米粒を探すようにしてグレアはクイックターンしてしまった。そんな彼女の背に乗るメグはテーマパークに来たようにテンションが上がったようで、より回転力を上げるために電撃を発してくるくると回転していくサマを、ボクたちはおやつの洋菓子を口にしながら後ろから眺めていた。

モンスメグ「グルグールッグールグルと巡るグーレーアーの上では♪サタンのことばかり考えてるんだ☆」
6号「天使違いですね」
ゆん「え、サタンって天使なんですか?」
6号「もとはルシファーという熾天使だったんですが、神を欺いてサタンを名乗ったと旧約聖書をもとにした解釈で黙示録に語られていますね」
さすが厨二病、こうした知識に関しては知見が深い。神様に逆らうなんてグレアからすれば到底許されないだろうな。
ビアンカ「欺く……?」
グレアット「ビアンカちゃんも興味がおありでっ?」
ビアンカ「ううん全然。ね、もしかしたら感知されないように隠れてるかも!アークさん、いちどイリュージョンを応用してみんなの認識を惑わしてくれる?」
6号「お安い御用です」
さっきの取り留めもない会話から、なにか閃いた様子の鬼畜ウェイトレスに賛成を示したアークは詠唱を唱えると、勧誘を拒否されて落ち込みながらメグからくるくるされているグレアも巻き込んで、ボクたちの視界と脳の認識神経を幻術によって化かしてくれた。
するとどうだ、さっきまで肉眼では見えていなかった飛空艇のような乗り物が近くに浮かんでいるではないか!
アリス「総員突入!」
ゆん「よーそろー!」

-戦闘飛空艇-

機体の中には人の気配がなく、もぬけの殻のようだった。カモフラージュしてまで捜査を難航させている手間の割には本体そのものは無防備、腋が甘いのかそれほど過信しているのか。ギンノあたりなら「これは余裕のあらわれよ」なんて言い出しそうだな、などとつまらない思考をしながら探索していると、皆の探索から分かったことがいくつかあった。
全幅はだいたい70m程度にも及び、乗り物と生活スペースも兼ねられそうな大きさがあり食糧を積んでいる部屋もあったため、ハンターJの隠れ家にもなっているとみて良いだろう。また外装からは分からないがいくつか砲門もあるらしく多銃身のレーザー?とやらが構えられているとか、アークが一人ではしゃいでいらっしゃった。

しかし不思議なことに数人がかりで探索しているにもかかわらず、肝心のコックピットが見つからない。動力源も見つからず今のところどうやって動いているのかが謎であったが、想像しているよりもずっと内部が広かったのもあって休憩しようと適当な座席に腰かける。
アリス「ほーら探せ探せ~、ボクは現場監督として監視しておいてやる」
グレアット「巫女遣い……いえ、ポケモン遣いが荒いんですからっ」
ビアンカ「リースお姉ちゃんって呼びたくなくなってきた」

モンスメグ「航海士っていいよね~、自分の命令一つで船員みんなを自由自在に動かせるもんね」
6号「責任感ないんですか」
モンスメグ「だいじょぶ、危ない海域は迂回するから」
ゆん「責任感ないのに危機感はあるのね」
モンスメグ「海では腰抜けのほうが長生きするのさ」
グレアット「メグちゃんが海の何を知ってるんですか、サトミさんに笑われますよっ」
モンスメグ「腰抜けの航海士だから迂回するってね☆」
6号「余計なこと言ってないでコックピット見つけてください」
モンスメグ「航海士が余計で、公開処刑!?」
ゆん「頭の回転は速いわよね」
ビアンカ「あのプロペラって回るのかなぁ?」
グレアット「紅のブーピッグが乗ってたみたいな飛行船なのかしらこれ?」
6号「いいえきっと永久機関ですってば!」

ボクはグミを片手にそう戯れている光景を眺めながらくつろいでいると、突如として誰か複数人から両肩と両足を同時に掴まれてしまい、ボクは一瞬にして自由を奪われてしまった!
ダークA「フン、小娘一人が偉そうに」
ダークB「J様の居ぬ間に潜伏など言語道断」
ダークC「我等ダークトリニティが成敗いたす」
ボクを拘束したのは黒い忍装束に身を包んだ、細身ながらも筋肉質な3人衆のようだった。ハンターJを様付けしているということは部下か護衛か。
こういった裏稼業のプロなのか、メグやグレアが対抗するよりも手早くあっという間にボクは飛空艇の壁に取り付けられていた鎖と錠前で手足を結ばれてしまい、捕虜の身にされてしまった。
何か特殊な素材で作られているせいか、メグの電撃やグレアの念力等をもってしても外れそうになく、それどころか彼女の攻撃が跳ね返ってきて全身に痛みが走る始末だった!
アリス「んぁ……っ!!!」
ゆん「アリスちゃん!!」

ダークB「闇に紛れ、あえてお前等が気を抜くまで泳がせておいたのだ」
ダークA「じきにJ様が御戻りになる、それまでの風前の灯火だな」

ビアンカ「うっるさいなぁ!ウェイトレスに手を出すような人は出禁だよ出禁!ビアンカが社会の掟を教えてあげようか!!」
6号「別に、飛空艇を壊してしまっても構わないでしょう?」
ダークC「闇に滅するがよい……」
ダークトリニティが しょうぶをしかけてきた!


ダークトリニティ
コーシャンを くりだした!

ファントマを くりだした!

ヒササビを くりだした!

モンスメグ「その首置いてけ~★」
ビアンカ「艱難辛苦を振り払うよ!」
ゆん「このわたくしの前に立ちふさがりしこと、後悔させるわ」
三人がそれぞれ繰り出された三匹の相手になって前線に出、グレアとアークのふたりは相性の問題もあってか後方支援に取りかかる陣形となった。

グレアット「邪炎相手では私の力は届きませんねっ……」
6号「ここは三人に任せましょう」

ダークA「コーシャン、辻斬り」
ダークB「ファントマ、煉獄」
ダークC「ヒササビ、攪乱飛行」

邪炎三人衆がメグ達に切りかかるも、まっとうなポケモン勝負であればこちらに分があるだろう。ボクは四肢の手足首に括りつけられた鎖・手錠からどうやって逃げ出すかを思案することにした。なるほどシンプルながらも合理的な拘束だ、飛空艇そのものの壁にくっつけられていることでこの飛空艇ごと破壊しようものなら、ボクも一緒に共倒れしてしまう形になってしまう。つまりアークのエクスプロージョンは事実上封印されてしまったわけだ、これがハンターJからあらかじめ受けている指示なのであったなら一度対戦した相手のことを良く見抜いている。
聞いた限りの話から統合するに、ハンターJはおそらくターゲットと二度出会うことはないのだろう。それゆえに二度目という稀なケースを引いた場合のケアも自身の豊富な実戦経験と観察眼によってしっかりと練られているわけだ。

問題は、この手錠を外す鍵のような何かがあるのかどうかよ。本来の捕虜であれば用意されていて然るべきなのだが今回の相手はWANTEDと来ている、生かすつもりがなければそのような甘い手段など無いと思った方が早い。だとするなら……。

ダークA「不覚……!」
ダークB「我等を手中に取るとは……」
ダークC「命あっての物種、ここは一旦撤退よ」
なんか考えている間にあっさりと勝敗は決していたようだった、さすがボクの仲間。
このぶんだったらシンオウリーグだっていとも簡単に制することができるんじゃないのか?
ダークトリニティは忍びらしく煙幕を焚いて退却したのだった、が。
次の瞬間、その三人は冷たい床に倒れて息絶えていた!

J「無能にも劣る塵屑が……!」
ダークトリニティの上司である飛空艇の持ち主が帰還してきたようで、彼女の非情な一撃によって部下は再起不能にされてしまったようだった。
話し合いはおろか、正攻法も通用しそうにない相手だな、こりゃ……。

グレアット「ひ、ひどいっ!」
ビアンカ「噂通りの冷酷さんだね」
部下すらも一度ミスをしただけであっさりと懲罰を与えてしまうその冷徹っぷりに、常識のないこいつらでさえも息を呑んでしまった。
J「どうやってわたしのシマに入り込んだか知らんが……害虫は駆除せんとな」
彼女の衝撃的な登場に、真っ先に食いついたのはやはりというかこいつだった。

モンスメグ「奢るなよ、悪党」

6号「メグ、さん……!?」
普段の発言からは似ても似つかぬ暴言を吐き捨てるとともに、全身を発光させて音速でJめがけて電撃を放つメグ。ベースボールのユニフォームなんぞ着ていなければもっとサマになったろうに、そういうところがあいつらしいというか。
普通の人間では太刀打ちどころか、反応すら間に合わないような超スピードでエレキテル☆エレクトリックがJに直撃した!
いいぞ、やったか!?
しかし次に見た光景は目を疑う……いや、脳を疑うレベルの光景だった。
J「その程度か」
こともあろうことか、あのメグの超電磁砲を生身で受けたうえで片腕をがっしりと掴んで容赦なく投げ飛ばし、メグは金属で出来た大きな部品にぶち当てられてしまい、思わず耳をふさぎたくなるような鈍い音が鳴り響いたのだ……。

グレアット「メグちゃん!?……許しませんっ!!」
人畜非道なカウンターを目の当たりにして、神の使いが翼から巨大な火柱を立てて怒りを露わにした。
愛の源である神よ、
限りなく愛すべきあなたを、
心を尽くし、力を尽くして愛します。
また、あなたへの愛のために人をも自分のように
愛することができますように、
神よ、私の愛を燃え立たせてください。
Amen.
送り火という名の神罰が、Jに逃げ場を与えず全身を焼き焦がしていく!
いくら超人であろうと、あの焚刑を消したりかいくぐることなど到底不可能だろう。せめて安らかに眠るといい。

グレアット「っ!!!」
J「生温いな、焦熱地獄というのは」
絶句するしかなかった。ゆうに1000度は超えているクラスの業火に確かに包まれたにもかかわらず、紅蓮の炎に焼かれたはずの彼女は微動だにせず一直線にグレアの急所へとタックルをお見舞いして、脱すると同時にグレアを瀕死に追い込んだのだ。グレアはまともに力が入らないのかうずくまることしか出来ず、肩で息をする始末だった。

ゆん「……化け物ね」
J「化け物?心外だな、モンスターの貴様らが化け物だろう」
こちらの主戦力たるふたりが初手全力をぶつけても、生身一つで返してしまうような奴は人間とは呼ばねえんだよ。あまりにも非常識じみたその強さに、ゆんもビアンカも足がすくんでしまっていた。指示を送ってやろうにもこれじゃあまともに……。
アリス「およ?」
メグの稲妻が通って抵抗がゼロになったところにグレアの火炎によって変形してくれたのか、するりと拘束が外れてくれて晴れて五体満足になった。
それにまだ眼前に3人を残している手前、Jはボクの自由が解放されていることに気付いているような素振りはなかった。
大事な大事な、アタックチャーンス!
エリカお姉様から譲られし明鏡止水の心得で完全に気配と感情を殺して、ボクは目星をつけている場所へと向かった。

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一体なんなのよ、あの女性は!?
メグちゃんとグレアちゃんの会心の一撃が完全に入ったのに、それを無傷で切り抜けて生身一つでノックダウンまでさせちゃうかしら普通?
ビアちゃんも悟られないように気を張ってはいるけれども、絶望的な力の差を前にしちゃって闘志が消えちゃっているし……アークちゃんも手立てを考えているのかは分からないけどずっと黙りこくっちゃってるわ。かくいう私(わたくし)も、ちょっとどうすればいいのか分からないわ……。
こんなときにアリスちゃんが居てくれれば、って……あら?
……あらぁ?あの子、いつの間にか抜け出しちゃってるじゃないの。どんなトリックを使ったのかしら、将来エリカちゃんの後を継ぐよりもマジシャンになった方がいいんじゃないのかしら。
いけないわ、とりあえずあの人に覚られないようにしなくちゃ。
きっとあの子だったら、突拍子もつかないアイデアを閃いてくれるはずよ。だったら、私たちに出来ることはせめてもの時間稼ぎ!

J「どうした?動かないのなら、わたしが動けなくしてやるぞ」
ゆん「動いていないだけよ」
J「詭弁を」
Jが果敢に突っ込んでくる……速いわ!でも、それくらいの速さだったらスイちゃんの方がよっぽど上だったわよ!
私は乱気流を巻き起こして、竜巻によるトルネードウォールで簡易的な足止めを試みる。さらにビアちゃんが即時にサイコアシストによるバリアーをそこに重ねてくれて、強固な防護壁へと姿を変えた。どんな超人や化け物だって、両脚で動いているのだったら軸となる足元を揺らがしてしまえばおのずと減速されるわ!

J「小癪な……!」
グレアちゃんの炎熱を突破しちゃうくらいの相手だったから、正直これでもダメもとだったけれども、やっぱり軸が歪んだら態勢を整えられないのか意外と足止めとして、ちゃんと効いているみたいね。
でも防戦一方なだけじゃいずれブレイクスルーされてしまう、ここはどうにか痛烈な一発を与えてあげたいのだけれども、メグちゃんのレールガン以上の威力だなんて私じゃ出せっこないのよね……。ちらりとアークちゃんへアイコンタクトを差し向ける、アリスちゃんの自由が戻った今だったら、この飛行機ごと爆破させちゃっても問題はないはず。
6号(間に合うかどうか……信じるしかありませんね!)
詠唱を完全にし終えるまでのあいだを私とビアちゃんで紡ぐしかないわ!

J「小賢しい」
ゆん「あれは石化レーザー!」
こっちの企みに感づいたのかはたまた強行突破に出たのか、武器である左腕に装着させているレーザーを発射する構えを取るJ。いけないわ、詠唱中のアークちゃんは無抵抗、どうにかしてでも止めなくちゃ!
そう思って、アークちゃんを庇うべく身を乗り出したその時だったわ。
ゴオォォォォォオ!!と噴射音を立ててこの飛行機が推進しだしたのよ。
J「ガキの仕業か!」
コックピットを見つけ出したのね、アリスちゃん!
おかげで一瞬だけでも隙を見いだせて、アークちゃんをトルネードウォールによって守ってあげられる時間を作ることに成功する。
さぁ、覚悟しなさい悪党!
そう意気込んだのも束の間、標的をアークちゃんからアリスちゃんに移し替えてこの場から風のようにJは消えてしまったわ!
それにエクスプロージョンが打てたとしても、このままじゃ位置取り的にあの子を爆風から守ってあげられる見込みもないし、どさくさに紛れてサトミさんの時よろしく拉致されてしまう危険性だってあるもの。私はアークちゃんに詠唱を止めてもらって、三人でJを追いかけに走った!

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戦闘飛空艇・コックピット

まさか動力源が金剛玉と白玉だったとは恐れ入ったぜ。このふたつを所有していてなおかつ飛空艇を所持しているから、ある種の永久機関として活用しているんじゃないかと思っていたら案の定。もともとエンジンとして使用されていた形跡があるロケットエンジンの数からみて、だいぶ燃費の悪い乗り物だったのだろう。カモフラージュシステムに使っているからというのもあるだろうが、それを差し引いてなおアシとして使おうとするとなるほど問題点だらけのアーティファクトだよこれは。
適当にガチャレバしまくって動かせたはいいものの、さてどうしようか。飛空艇の操縦技術なんて持ち合わせているわけもなく、このままじゃ墜落待ったなし。
そうだ、そもそもボクの目的はJなんていう危険因子を捕縛することなんかじゃなくて、今目の前で光ってるこいつじゃないか。

アリス「げっちゅ!ルールにしばってピンチ!泣いたたたー♪
げんなりがっつりぷっつりCで飛んだかな♪」
くぼみに取り付けられている金剛玉と白玉を抜き出した直後にあら不思議、バランスを失った鉄の塊がみるみる失速していくではないか。
J「何をしている!」
アリス「無理心中といこうぜ、どうせ表舞台には出れぬ顔だろう?」
駆けつけてきたJの表情を見ればレーザーのサングラス越しからでも分かるくらい、彼女のポーカーフェイスは崩れていた。Jは素早い身のこなしでボクに掴みかかって身動きを封じようとするが、その瞬間に両手に持っていた2つの珠をポイっと空き缶を投げ捨てるような要領で海へ向かって放り投げてやった。

J「貴様!」
ゆん「アリスちゃん、大丈夫!?」
ビアンカ「リースお姉ちゃんヘルプに来たよー!」
6号「やれやれ、また何か悪徳ですか?」
アリス「そのまただよ、6号ちゃん」

実を言うと、このコックピットを見つけ出せたのはアークの協力あっての成果だったのだ、探索中にもイリュージョンをこっそりかけ続けてもらって、他の仲間にはバレないように自分一人だけがこの場所をマークしていた。ここがキーポイントになると踏んでいたから、慎重に石橋をたたいてJ相手を出し抜こうと画策しておいたのだ。
6号「いったいなにを……って、うわわわわぁ!?」
ゆん「落ちているじゃないの!?」
動力源を失った飛空艇はみるみるうちに落下していき、遥か上空から見下ろせていた景色はすでに間近まで迫っていた。完全に失墜するまで秒読みといったところ。

J「止むを得ん!」
ビアンカ「あ!」
Jはターゲットよりも神話の珠を優先して、深い海へとその身を投げ出した。だがそれも想定の範疇だった。その様子を確認した直後に、ボクはゆんの翼に乗って墜落していく飛空艇から脱出を図り安全な大空へと舞い踊り出る。
次いでビアンカがアークを乗せ、一刻を争う緊急事態にグレアも
よろよろとふらつきながらメグを乗せて空域にエスケープしていき、戦闘飛空艇は大きな波しぶきを上げて海底へと沈んでいったのだった。

アリス「ジャスト一分。いい夢を見ろよ、J」

6号「…………」
本物のボクは金剛玉も白玉も懐に仕舞ったまんま手放してなどいなかった。たったひとつの事実は飛空艇が墜ちていく一点のみ。ハンターだかカモフラージュだか知らないがこれが本当の”相手を欺く”という行為なのだ。人を石にさせていたり殺めてなどばかりいては、利用も駆け引きも、ましてや恐怖を理解することは到底できないだろう、その人として持っていて当たり前の意思と感情と知恵を忘れたのがおぬしの敗因よ。

グレアット「アリスちゃん?……ねぇ、アリスちゃんもしかしてっ」
アリス「エレエレとアヴェマリアを喰らって無傷なんだ、こんな程度で死にはせんよ」
ビアンカ「それはそうだろうけど……」
モンスメグ「早く帰ろ☆三十六計逃げるに如かず!」
6号「そうですね。……ああいう輩はロックさんの二の舞を生み出しますから、これくらいの仕打ちは然るべきでしょう。実際海の藻屑になったところでアレは死にそうにありませんし」
サトミを出し抜いたときもそうだったが、何者であろうとどのような局面にあろうと、命だけは絶対に奪わないしその保証が完全に取れてはじめて実行に移すのがボクのやり方だ……あくまでも懲らしめるだけ。だって童話や絵本でも悪い人は改心させてあげるか、追い出してやって、誰も不幸にならないハッピーエンドで終わるものだろう?

アリス「ゆん、行こう」

確かに受け取り方によっては後味の悪い結果になってしまった感も否めないが、極悪な犯罪者を相手にしたのだからこれだって立派な正当防衛。わだかまりを残しながらもボクたちは帰路についたのだった。
だがズイタウンに到着してボクがゆんから降りて地上に足をつけたその瞬間だった。
ゆんは思いつめたような顔をして、すぐさま上空へとフライハイし始めたのだ!

ゆん「・・・いいえ、まだ終わっていないわ」
グレアット「ゆん、ちゃん……っ?」
アリス「おい!なんのつもりだ、遊羽!」
喉が枯れるくらいまで必死に呼び止めるも、パートナーは聞く耳持たずでそのまま今飛んできた道をトンボ返りしてしまう。
グレアット「アリスちゃん……どうか幸福あらんことをっ」
グレアはボクの両手を握って片膝をつき、手の甲に優しくて暖かな口づけを交わすと、もの悲しげな視線を送り残してそのままゆんの後を追いかけていってしまった。

アリス「追うぞ!」
ビアンカ「うんっ!……って、あれ……?」
元気よく返事をしたかと思えば、どさりと地面に倒れ込んでしまうビアンカ。めいっぱい身体を揺らすも、願いと反して完全に意識を失っていた様だった。
モンスメグ「なんだかメグも眠たくなってきちゃった~……NNN」
6号「ZZZまで倒す必要はないんですよ……うっ、頭が!」

後を追うかのように次々と倒れ込んでいってしまうふたり。
なにがなんだか意味が分からなくて、突然一人きりにされてしまった。
不安と心配と焦燥と寂しさがいっぱいいっぱいに心を覆いつくしてきて、
それは例えるなら、十四夜月だか十六夜月だかのような気色悪さが残る、気が狂いそうな月の光のよう。

スカラカ、チャカポコチャカポコチャカポコチャカポコ……


アリス「……イヤラッサナア……マアホンニ……タマガッタガ……トッケムナカア……ゾウタンノゴト……イヒヒヒヒヒ……」

……そのあとから追いかけるように、ボクのお腹の中でグーグーと胃袋が、よろこびまわる音……。そんなものが一つ一つに溶け合って、次第次第に遥かな世界へ遠ざかって、ウットリした夢心地になって行く……その気持ちよさ……ありがたさ……。

……すると、そのうちに、たった一つハッキリした奇妙な物音が、非常に遠い処から聞え初めた。それはたしかにサイレンで、大きな呼子の笛みたように……。
ピョッ……ピョッ……ピョッピョッピョッピョッ……と響く一種特別の高い音であるが、何だか恐ろしく急な用事があって、ボクの処へ馳け付けて来るように思えて仕様がなかった。
それが静寂を作る色んな物音をピョッピョッピョッピョッと超越し威嚇しつつ、市街らしい辻々をあっちへ曲り、こっちに折れつつ、驚くべき快速力でボクの頭の方向へ駈け寄って来るのであったが、やがて、それが見る見るボクに迫り近付いて来て、今にもボクのサラリとしたブロンズヘアーの中に走り込みそうになったところで、急に横に外それて、大まわりをした。
高い高い唸うなり声をあげて徐行しながら、一町ばかり遠ざかったようであったが、やがて又方向を換えて、ボクの耳の穴に沁しみ入るほどの高い悲鳴を揚げつつ、急速度で迫り近付いて来たと思うと、間もなくピッタリと停車したらしい。
何の物音も聞えなくなった。……同時に世界中がシンカンとなって、ボクの睡眠がシックリと濃まやかになって行く…………。

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気づいた時には、もう手遅れでした。逢魔が時とはよく言ったものです。まるで昼と夜のあいだで時が止まったようで、真夏の逃げ水みたいに視界……世界……境が不確かに溶けていき、永遠の夕暮れ時が訪れてしまったのではないかと錯覚しました。
だって、だって私がどうやっても手に入らない、憧れにも近かった彼女の清らかなその樺色の羽根は、私の翼よりもずっと鮮やかに紅く染められていたのですから……。

「あ……あっ、あぁっ……!そんな、どうしてですかっ!」
「高潔な貴女が手を汚すことなんて、ないわ……」

・・・・・・ちゃぷん・・・・・・


Part27へつづく!



























けどそれはなにも照らせない無意味な偽物の燈火で……
ひざまづき泣いて血を吐くの、オネガイ……赦してくださいっ……


夢、夢を見ている……。毎日見ている終わりのない夢。
赤い雪、赤く染まった世界、夕焼け空を覆うように、小さな子供が泣いていた。せめて、流れる涙をぬぐいたかった。だけど、手は動かなくて、頬を伝う涙は、雪に吸い込まれて、見ていることしかできなくて、悔しくて、悲しくて、大丈夫だから、だからなかないで、約束だから……それは誰の言葉だったろう……夢は別の色に染まっていく。