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《Ride On The City》-硝子色の夕空- part22

強き心を取り戻せ、そして失った心を呼び返せ。
目醒める時は今なんだ!!!!

すべて明らかになったのは朝の陽ざしが射しこんだ時だった。
ロックが形見のプレートをなくしたこと、その形見はおそらくヒガナが奪ったこと、そしてボクたちが眠った夜な夜なグレアを振り切ってでもどこかへ旅立ったこと。

ビアンカ「ロックさん、思いつめてたのかな」
ゆん「素直に申し出てくれればよかったのに」
目を伏せて心配をするふたりをよそに、ボクはグレアの前に立って両手で思いっきり巫女衣装の結びきりを掴んで彼女に対して激昂した。
アリス「どうして追いかけなかった!!!」
イリュージョンに惑わされていたといってもたかだか一分程度、重ね掛けをされていたとしてもそれでも十分あるかないかの時間稼ぎに過ぎないだろう。グレアの飛行を持ってすればすぐに追いつけたはずだ。
言い寄られたグレアは、臆するわけでも逆上するわけでもなく、掴んだ手を離すことなく器用にまっすぐとしゃがみこんでボクと視線を合わせると、真顔で距離を詰めてきた。柔らかい表情にほんのちょっとバツの悪そうな雰囲気を含ませながら。

グレアット「あなたを置いていけなかったからですっ!」

モンスメグ「……グレアたんってばイケパラ★」
グレアット「茶化さなくて結構ですっ。6号ちゃんを追うのは簡単でした、ですけども親友相手から面と向かってあれだけ思いをぶつけられて、はいそうですかと連れ戻せるほど私は無神経じゃありませんっ……それに6号ちゃんだけじゃなくて私までもアリスちゃんの前から居なくなったら……ひとりぶんの辛さが倍になっちゃうじゃないですかっ……!」
その台詞からは親友への思いとボクへの思いを両立させようとしていた優しさが見える。それでもグレアは気丈さを保ち続けていた、きっとこいつもいっぱいいっぱいで溢れそうになってるだろうに、決して灼眼の瞳が潤んではいなかったのだ。
ボクはそっと掴んだ両手を緩めて、彼女の頬を包んでやった。
生八つ橋のように柔らかくも、それでいて熱い熱い体温が手のひらに広がった。

アリス「そらのはしらに行くぞ、案内してくれビアンカ
ビアンカ「ふぇ?」
グレアット「アリス、ちゃんっ……?」
ボクの先導にメグですらもきょとんとして困惑する一同を、ボクはみんなの指揮官として一喝した。
アリス「聞こえなかったか?いますぐレックウザに会うんだよ、ボクたちが動いてやらなきゃロックの勇気が無駄になっちまうだろーが!」

ゆん「ふふ……ええ、よくってよ!」
モンスメグ「愛と勇気の大作戦☆彡」
ビアンカ「よーし!ビアンカ張り切っちゃうよ♪」
他の仲間がぞろぞろと動き出すなか、未だにボクを掴んで離さないグレアにさらに勇気づけてやった。
アリス「イの一番にロックへ見せつけてやろうぜ、やっぱりアリスさんがいないとダメです~ってな」
グレアット「うふふ……もう、アリスちゃんはほんとういっつも……んぅっ」
アリス「んっ……ほら、急いだ急いだ!フウ、ラン、世話になったな。ナツ姉によろしく頼む」
家主だというのに一室の片隅からこの一連の騒動を見守っていた双子から見送ってもらうと、ボクはビアンカの翼に乗って天空の彼方・そらのはしらへと上昇した!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

それよりも数刻ほど前、夜空が白みかけ明朝との狭間……。
-ミナモシティ-
陸地の最果て、海の始まり。コンテストライブによって町おこしをしている都市。

6号「運搬してくださって感謝します、うみねこ
私はペリッパーから降りて軽く手を振ってあげると、三角帽子をきちんと被り直して朝いちばんに出航する予定のシンオウ地方ミオシティ行き客船への当日チケットを買いに船着き場まで移動していると、グレアよりも付き合いの長い顔馴染み2人組の姿があって思わず足取りが軽くなっていました。

スチル「ロックじゃないのよッ!なにしてんのよこんな時間にッ!」
アイス「……ロックも……開凸……?」
6号「まーたルチア目当てですか。シロナの研究は終わったんですね」
聞き馴染んだ話し声のおかげで、都合のいいことに私の感情は朗らかになっていたと思います。我ながらズルい女ですね、だけどちょっといい女。

アイス「……胃カメラまで撮られた……今度配信で映そう……」
スチル「やめてちょうだいですわッ!?」
6号「すっかり電子の海の住人ですね。じゃあ私は急ぎですのでこれで」
スチル「待ちなさいよッ!アタシらに隠し事が通じるとでも思ってんのッ?」
アイス「……ロック……プレートはどうしたの……?」
6号「!」
やれやれ、なんでもお見通しじゃないですか。私はつい無意識のうちに後ろ髪を指先で掻くと
、端折りながらグレアやヒガナとの一連を打ち明けました。
するとどうでしょう、てっきりスチルからの怒号やアイスからの蔑みが飛んでくるかと思って、腹と拳に力を握り固唾を飲んでいると返ってきたのはふたりからの抱擁だったじゃないですか。
6号「わぷ!なんですかちょっと」
アイス「……ロ…………アークには……背負わせ過ぎた……」
スチル「バッカねぇアンタ、アタシとアイスの前でくらい素でいなさいよッ」
私は偽りの存在だというのに、まるでほんとうの家族みたく温かく受け入れてくれたこのふたりに、どうしていいか分からなくて感情が混乱しちゃって、いい歳をして大人げなく大声を上げて泣きじゃくってしまいました。

6号「んぐ……すみません、内なる魔力が悲しみの海へと溢れ出てしまいました」
スチル「ハイハイッ。で、ママが起きそうな感じは確かにしてるけどさ、今からミオまで行ってちゃキッサキ着くころには日が暮れるわよッ?」
アイス「……シロナも……意地が悪い……」
出航を待つまでのあいだ、あっちでどうすべきか計画を練っているとこっちもこっちで聞き覚えのあるハイヒールの足音、それもあまり会いたくない相手がお出ましになったのです。

ギンノ「シロナ、ですって?」
6号「げぇっ!ギンノ!!」
神出鬼没と謳われていた通り、明け方だというのに無駄に銀髪とドレスの装飾をキラキラさせながら、ホウエンチャンピオンさんとやらが現れました。
ギンノ「あら、出てきちゃ悪いかしら?ここは私の庭なのだけども」

アイス「……おお……アルトマーレのご令嬢……」
スチル「芸能人様が何の用かしらッ」
え、タレントだったんですかギンノって。まぁ確かに初めて出会った時からただならぬオーラ出してましたし、黙ってさえいればお人形のように見えなくともありませんが。ええ、黙ってさえいれば。

ギンノ「シロナが何か目論んでいるのかしら?」
こっちの話聞く気ゼロなスタンス、相変わらずでなによりです。まぁ今回に限ってはこの方のようなナルシスト性質な相手のほうが接しやすいやもしれませんね。
よく見れば片腕になにかのぬいぐるみを抱いてらしてて、お可愛らしい少女趣味ではありませんか。……そういえば、おいくつなんでしょうかね。
私はあくまでも要点だけをピックアップして伝えてあげました。

6号「レジギガスさんの覚醒阻止ですよ」
ギンノ「あっそ……おおかた大団円でやらかしてくれたおかげで、天変地異の前触れでもありそうかしらね」
アイス「……洞察力カンスト……」
ギンノの洞察力が達観されているのは話が早くていいんですけども、実を言うとどうして大団円側のバランスが崩れていたりとかこの世界に異変が起き始めてるのかって分かってないんですよね。知ってそうな人々は黒歴史ノートの文章に書かれてそうな難解な言葉ではぐらかしてきますし。
スチル「アタシらは、おんなじレジスタンスとしてママのとこに逢いに行くのよッ!」
6号「そういうことです。無関心なんでしたら突っかかってこないでください」
苦手寄りの部類なので、ケンカ腰になって突っ撥ねておきます。

ギンノ「ふぅーん、そんな大ケガ負って戦力になるのかしらねえ」
6号「何を~!これくらい唾つけてりゃ治ります!」
洞察力とやらで痛い所を突かれてしまって、ついムキになって反抗してやりました。地団駄を踏んでやると両腕からそれぞれふたりに抱えられて、どうどうとされましたが。対面相手はというとぬいぐるみを抱えていない方の手で口元を覆って、
ギンノ「あらやだばっちぃ……」
などと神経を逆撫でしてきやがりました。やっぱり苦手です!

スチル「それでギンノはどうするつもりよッ!」
ギンノ「そうね、あまり好き勝手されても腹立たしいし……ここはシロナに恩を着せてあげようじゃない、私も神殿へ行くわ」
6号「ハラデイ」
この方と戦線を組むだなんてまっぴらごめんなのですが、アイスがこそっと耳打ちしてきました。吐息がひんやりしててくすぐったいです。
アイス「……正直私たちだけじゃ……ママと、ヒガナに太刀打ちできない……ここはギンノを立てておいて……MVPだけアークが持っていけばいい……それに私とスチルのプレートもなかったら……神殿に行ってもママは目覚めないし……アドバンテージはこっちにある…………ふぅ~♡」
6号「ひゃん!?……分かりました、ここはいったん合わせてあげましょう」
あまり乗り気ではありませんが、実際問題今の身体ではどこまで戦えるのか不安が残りますし、悔しいですがギンノは一流のトレーナーにしてラティオスを我が物にしてしまえるハイクラスの祈祷師です。アイスの言う通りぼろ雑巾のように利用させてもらって、憎きヒガナから大切な忘れ形見を取り返しましょう。

ギンノ「決まりね、プッチー!この子たちを乗せてあげなさい」
プテラ「がぅがぅ!」

協力するとなった途端に、なにやら通行手段まで手配してもらえました。この切り替わりの早さと懐の広さが祈祷師業しかりタレント業しかり一流の秘訣なのかもしれませんね。私たちが3人まとめて背中に乗っても、プッチーはまるで綿でも乗せてるつもりなのか平気そうにくるくるとストールターンをお披露目してくれました。
ギンノはというと、やはりというべきかお気に入りっぽいマダームの上で片脚を組みながら優雅にお空へ浮かんでいました。そういえば太陽が昇ってきたことで細かい視点に気づけたのですが、クオーレは勿論のことながら今乗らせてもらってるプッチーも、あのマダームもどうやらオス……もとい性別が男の娘っぽいんですよね。人間の女性の格好を好んで振る舞う習性がある、私たちポケモンですがその習性もあってかあまりオスの個体は人間に擬態せずにありのままの姿で生きているほうが多いんですけども、それなのにこうやって遜色ない可愛らしい格好をさせているあたり、もしかしてギンノってそっちの趣味が……。

ギンノ「何よ、ジロジロ見ないでもらえる」
6号「あなたって彼氏でも募集してるんですか?」
ギンノ「あ?」
6号「プッチー、キッサキまでお願いします!」
ぴゅーん!
アイス「……しゅごい……男の子の骨格に合わせてデザインされてる……」
スチル「アイス、あんまからかうんじゃないわよッ」

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そしてアリスがそらのはしらへ向かうと同時刻のこと。
6号とギンノ一行は朝のうちに無事到着できたのです。

-キッサキシティ-
立ち並ぶ樹木も建物も降り積もる雪に厚く覆われ一面銀世界となった氷きらめく冬の街

6号「あぁ……帰ってきちゃいましたね」
このような形でシンオウ、かつてのヒスイに再び地を踏み入れることになろうとは。念には念を入れて、さらに自身のカモフラージュをより一層ファンデーションしておきました。過去の私を追いやったゾロアークはもう既にシンオウには生息しておらず、居場所を変えていることは知ってはいますけども、それでも恐怖心には勝てません。
アイス「プッチー……さんきゅー……ちゅー……♪」
プテラ「~!」
スチル「ヒトのポケモンで遊ばない遊ばないッ!」
なんでしょうか、これから最悪血生臭い展開が待ち構えている可能性があるというのにこのお気楽さは……もうすっかり毒されちゃっていますね。
130族を誇るジェット恐竜に遅れる形で、ギンノも雪道へと降り立ってきました。

ギンノ「プッチーご苦労さま。あら……女の子3人乗せて照れちゃったの?可愛いんだから、もう」
それたぶん違う意味で照れてるんだと思いますよ。言わぬが仏。
キッサキは北国の大陸の中でも最も最北に位置する氷点下の街、その街の北に数千年以上もそびえ立つのがキッサキ神殿でございます。
ですが、一切の観光を認められていないこの聖域に許可なく立ち入ることなど到底できるはずもなく、この街のジムリーダーが神殿番人の役目も担っ
ているのです。
物は試し、さっそく入ろうとずけずけ進んでみましょう。

???「ちょーっと待ったぁ!」

日夜問わず北風が容赦なく吹き込むこんな雪国でありながら、まさかの半袖ミニスカートという闘魂注入された格好の少女がどこからともなく出現してきました!
メグさんと色んな意味でいい勝負できそうですね……お胸のふくらみも。

スズナ「気持ちが合うと書いて”””気合”””と読む!!!あたしはスズナ!このキッサキのジムリーダーにして神殿の入り口をオシャレに守るダイヤモンドダストガールよ!!」

あ、暑い!暑苦しいです!?見てるこっちが凍えてきそうなファッションのはずなのに、一字一句一挙手一投足すべてにおいて気合いが込められすぎててなぜか汗が出てきましたよ!?
ギンノ「御機嫌よう、スズナ
スチル「元気にしてたかしらッ!」
アイス「……先週の……ファッション動画……高評価押しまくった……!」
あれ?この気に圧されてるのは私だけ???
どうして私が蚊帳の外状態に?????
くっくっくっ、こうなっては私も対抗するしかありませんね。この邪王真眼-イービルアイ-で!

6号「我が名はロック、爆裂魔法を」
スズナ「あー!本物のロックちゃん~!生ロックちゃんじゃない!!コスプレチャンネル通知ベル入れてるよ!時代を先取りしてるスタイル憧れちゃう~!!」
6号「……私のリスナーでしたか。どうも、はじめまして」
なんだか私が気合いを入れて着飾っているコスプレを純粋に褒めてくれる方と出会えたのははじめてかもしれません。とてもいい気分ですね、天にも昇る気持ちです……。サイン色紙を持ち歩いていても良いですね。あと生て。
スズナさんとの握手を交わすと、暖を取れてしまえるくらいにこの暑い手の温度との触れ合いも名残惜しいですが、早速本題に入ることにしましょう。

ギンノ「ちょっと神殿に入れてもらってもよろしくて?」
6号「なんであなたが仕切るんですか!」
スズナ「もちろんオッケーよ!でーもー……ロックちゃんはスズナに挑戦!!あたしの気合いを越えてみせろっ!!」
……あ、やっぱりなんだかんだこういう展開なんですね。
仕方ありませんね、やるからには全力を刮目させてあげましょうか。私は足元に魔法陣を展開して、美しき爆裂魔法の準備を……
スチル「こいつがぶっ放したらこの街消し飛ぶわよッ?」
アイス「……エイチ湖まで……消えるかも……」
スズナ「えぇーっ!?大事な文化財が同時に消えちゃうのは困る!!だったら代わりにこの特訓衣装を着てもらって神殿に挑戦よ!!」
6号「とっくんいしょう……?」

ぼくもえ沼勢データベース ▲様より

6号「ささささささ寒い……!」
スズナ「きゃー!すっごく似合ってる!!オシャレは気合いよロックちゃん!!」
スチル「その胸に巻いてるのって包帯よねッ?」
アイス「……つまり……傷が治ったら……ぽろり?」
6号「んなわけないでしょうが!このかぼちゃパンツについてる尻尾からして、エーフィのコスプレっぽいですね」
スズナさんから渡された衣装に着替えたのはいいのですが、別に肌の露出自体は慣れているからいいとしても、この極寒の地においてノースリーブへそ出し短パンはもはや処刑レベルの仕打ちですよ!気合いなんかでどうにかなれる範疇を明らかに超えていませんかこれ……?
スズナ「じゃあこの服は神殿攻略のあいだ、責任もってあたしがお洗濯しておくね!行ってらっしゃーい!!」
神殿の重々しい入り口が開られて、ズルズルとスチルに引っ張られるまま中へと連れ込まれていきます……お家に帰りたくなってきました。

-キッサキ神殿-

建物の中に入ってしまえば、雪風をしのげて多少なりとも寒さ対策できるんじゃないかと思った私。非情にも、内部は氷柱張りの構造となっていて足元から壁、天井にいたるまで冷凍庫の中かのように冷え切っていました。
ギンノは分厚そうな上質の生地で編まれたドレスを着ていますし、スチルもニットとマフラーを巻いてばっちし暖房着。アイスに至っては問題外ですね。
そして袖なしへそ出しもも出しで唯一取り残される私なのである。しかも昨日深い傷を負った身ですよこちとら、傷口凍傷されて心臓ごと凍りつきそうなんですけども?!

しかしそんな私を気遣うことなく、自分の歩幅で地下へと降りていく一行。あの令嬢はそういう奴でしょうからいいとしても、どうしてふたりまで放っていくんですか……?
納得いかないまま気がつけば、寒さをこらえて地下最深部に差し掛かる階段の踊り場まで何事もなく辿り着きました。

……が、こんな些細な問題など比じゃない衝撃的な光景が私たちを待ち受けていたのでした!!

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-ホウエン天空・そらのはしら-

ビアンカ「リースお姉ちゃんしっかり!もうすぐそらのはしらだよっ」
アリス「もうすぐ三途リバーショット?虫唾が走るわぁ!」
ビアンカ「はうあう……お姉ちゃんが壊れちゃう」

もう成層圏あたりまで高く昇ってきたんじゃなかろうか。ホウエンの南海に浮かぶキナギタウンの諸島から、真っ直ぐにロケットのように突きあがるようにして上昇し続けること早数分。厚く覆われた雲よりももっと上まで来ると、雲で隠れて見えなかった細長いタワーがお出迎えしてきてぼんやりとした視界に入ってきたのだった。
セルリアンブルー色のリボン付きボリュームファーフードケープコートを着て耐寒しているが、気温の低さはカバーできても空気の薄さだけはどうしようもなく、ボクはぐったりとビアンカの背中に頭をくっつけて耐えしのいでいる有様だった。

モンスメグ「流派!メグちゃん不敗は!ゆんゆんの風よ!
全新!系列!天破侠乱!
見よ!グレアたんは赤く燃えている☆」

グレアット「メグちゃんあんまり暴れないでくださいっ……」
ゆん「よくなくってよ……」
低酸素状態に陥って朦朧としている中、やけに澄み通っている脳内へ一直線上に突き刺さる電波が駆けつけ一本。ビアンカの背中に頭をくっつけたまま視線だけを電波の方向に移すと、そこには組体操の三人ピラミッドのような形で、茶羽と赤羽の上に片足ずつ跨ってポージングを決めている阿呆の姿があった。
モンスメグ「ふわふわ~ぴゅあぴゅあ~♬みらくるきゅんッ☆
アリスちゃんっ!元気になぁ~れ♡めぐーん♥」


アリス「ゆん、グレア、はねやすめ」
ゆんは はねやすめをした!
グレアットは はねやすめをした!

わざの命令は絶対である、ゆんとグレアは翼を畳んで浮力だけで空に浮く体勢となったことで、足場をなくしたメグは重力に逆らえなかった。
ふぅ、これにて一件落着。

モンスメグ「くわ!甘いわー☆」
なんと低気温の成層圏で全身から電流を発生させてきた。メグの身体が発光し自身を超伝導体に見立てることによって低気温によって冷却が始まり、自分が置かれていた外部磁場を記憶させる性質を利用して復元力を働かせることで、とうとう条件付きで空中飛行までも実現させてしまったではないか。正味の浪漫飛行ってね、やかましいわ。
グレアット「マイスナー効果って浮遊術にもなれるんですねっ?」
ゆん「あら、なんだか肩の凝りが取れたわ」
そんなこんなでボクたちはそらのはしらへと到着し、タワーの内部に入ると復活した酸素によってどうにか息を吹き返すことに成功したのだった。
ただそこらの床がところどころヒビ割れており、とてもじゃないが歩いて渡れそうになかったため引き続きビアンカに乗ってレックウザの待つ天上階へと飛んでいく。

このような極限環境に置いても生息できているポケモンを何種類か確認ができ、生命の根強さと多様性をこの目でしっかりと感じ取れた。そういえばロトム図鑑はリーリエに預けたけれどあいつはちゃんとやっていけているのだろうか?サイレントヒルで別れて以来まだ会っていないし、危険な目に遭っていないといいんだが……。
それにスズランともメグの一件以来ご無沙汰だ、ダークルギアと交戦した際にはなぜかもうその場には居なかったし、またボクの知らない地方を転々としているのかな?次に会った時はカルマからのミッションをこなせたかどうか聞いておきたいものだ。
などと一緒に冒険をしてきた仲間のことを振り返っているうちに、いよいよそらのはしらの天上へと差し掛かったのだった。
不思議とそこは足元が整備されてあったので、ビアンカから降りて先頭に立ちレックウザらしきシルエットへと近づくとあちら側から接触があった。

レックウザ「我が天空柱へようこそ!
ここまでは楽しんでいただけた?」

レックウザはフリルのついた緑色のサンバイザーを可愛らしく両手で押さえながら、こちらを歓迎しているかのような意味を併せ持つ問いかけを翔けられた。
敬意を払ってボクはカーテシーをして挨拶しつつ、会釈したまま落ち着いた態度で問いに答える。
アリス「ぜんぜん」

ゆん「ちょっと!」
ビアンカ「あはは~」
何を言うか、ここに来る途中であやうく意識を失いかけたのだぞ。ただの人間にこんなオゾン層近くまで来させておいて楽しめるかっちゅーねん。
そう素直な気持ちをストレートに伝えると、レックウザはくすくすと笑って翼も無しにステップひとつのみで遥か高くまで浮かび上がる。

レックウザ「それは失礼した。だが、もう楽しませる時間がない。
君の短い人生もこれでタイムアップなのだ。
さらばだ、童女
レックウザの スケイルショット!

アリス「のあー!ゴリゴリのバトル展開かーい!!」
ビアンカ「もう!言わんこっちゃないんだからぁ」
神速でビアンカがボクを掴んで宙へ舞い、打ち出された鱗の連撃を躱すとまんまるいバリアーを貼って備えてくれた。

モンスメグ「不本意な現状を変えるのは戦う覚悟だ★」
モンスメグの アサイラム×アーチェリー!

グレアット「幸せの福音はあなたとともに!とっておきのお知らせに参りましたっ♡」
グレアットの ワンダースチーム!

ゆん「時代の苦難から弱者を守ることこそ流派の理よ!」
ゆんの アマノムラクモ!

3人それぞれから、岩・妖・竜の属性を有した技がレックウザの弱点へと浴びせられた!キラキラと散っていって見栄えも抜群じゃないか。

「「「こうかはばつぐんだ!!!」」」

アリス「やったか!?」
三連撃によって立ち上がった乳白色の煙が晴れると、そこにはやはりというべきか傷一つないエメラルドグリーンのスカートが見え……。

レックウザ「ぐすん……えーんえんえんおいおいおい!!痛いじゃないのよ~!」

アリス「……へ?」
見えてきたのはよっぽど攻撃が痛かったのか滝のように涙を流してべそをかいているレックウザであり、伝説級のポケモンらしからぬその情けない姿に思わず面食らってしまった。
ビアンカ「あ。思い……出した!レックウザさんってば、すっごい泣き上戸でちょっとしたことで泣いちゃうから、数億年ものあいだ誰も好んで寄り付かなかったっていう逸話があって」
なにそれかわいそう。

モンスメグ「ゆんゆんいじめっこ~!」
グレアット「いじめだめぜったいですっ!」
ゆん「このムーヴこないだも見たわね!?」
おまえら。
そうこうしているうちに、涙っ子がよろよろとうねりを巻きながらこっちまで降りてきて、木綿のハンカチーフを取り出して両目を拭きながら話しかけてきた。

レックウザ「ぐすん……ん、きみたちの実力はとてもよく分かった。わっちに何か望みがあって来たのだろう、申してみよ」
涙目だと口調のわりに威厳がないな……。まぁよい、伝説のポケモンというのは総じて難儀な性格の持ち主だ。ボクはフウとランからスキャンしてもらったデオキシスの写真をぴらりと見せて願い申し出た。
アリス「望みというのはほかでもない、こやつが地上に降りてくる事前に追い返してほしい」
レックウザ「ほうほう……こないだ塵にしてあげたというのにまた来るのか、性懲りのない」
ゆん「その話しぶりならパワーは折り紙付きね」
モンスメグ「ぶっ放せLike a 弾丸 Liner☆」

アリス「頼めるか?」
レックウザ「造作もなかろう。操り人相手からの願いとあってはホウオウへの貸しも作ってやれるしの」
なんか見抜かれていた、天空の神同士は惹かれ合うとでもいうのだろうか。いや、貸し借りとか言ってるしこの場合は磁石のように反発しあってるのか?
グレアット「厚かましいようですけど、今すぐに発つことはできますかっ?時間が押しているのですっ」
さらにグレアからの後押しも入る。さすが春を告げる渡り鳥、天空の覇者相手であっても一切臆することがなかった。
レックウザ「麗らの不死鳥までもわっちを買うとは面白い……この天空の観測者・ラルースに任せよ!世の人々はレックウザと呼ぶがの!」
どうやら伝説のポケモンにはそれぞれ固有名詞があるようだ、種族名というのはあくまでも研究者の博士が名付けた名前であって、それぞれは自らの真名を持っているものらしい。なるほど、ということはグレアも真名はグレアットで後世の人がファイヤーと呼んでいるようなものか。
またひとつ学習になった。アリス、覚えましたし……。

アリス「ではラルースよ、隕石の観測は任せたぞ。ボクたちはこれからレジギガスを止めに行って参る」
レックウザ「大地の創造神相手に立ち向かう気か?ならば是を持っていくといい、わっちには不要の産物ゆえの」

オリジンと呼ばれる、なにやら禍々しい鉱石を手渡される。ボクの手のひらに収まってしまうほどのちっちゃいサイズのわりにやけにずっしりとしていて重たかった。
アリス「これは?」
レックウザ「何世紀か前にオゾンで拾っての。そいつがあれば創造神相手から認められるやもな」
ゆん「なるほどわからないわ」
ビアンカ「ごめんねシンオウの神話はさっぱり……でもその石からはビアンカのしずくとおんなじくらいのマナを感じるよ♬」

一方的にこっちからけしかけたというのに、それほどの代物まで与えてくれるとはよっぽど買い被ってもらえている証拠に違いない。もしくはマジでさっきの攻撃が痛くて内心怯えちまったのか。
アリス「さんきゅー!よし、お前ら行くぞ!」
レックウザ「短い命の思い出にするがいい、さあ地上までお送りしよう!」
彼女のさらなる心遣いによって帰還まで手伝ってくれたその瞬間だった。
ボクたちに突如として災難が降りかかってきたではないか!

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キッサキ神殿・最深部
石像が奉られている祭壇に、私のメモリーを奪った仇敵・ヒガナの姿がありました。ですが彼女に対しての後ろめたい感情が塗りつぶされてしまうレベルの衝撃が目の前にあったのです。

6号「ロックさんと同じ……点字の身体?!」
スチル「誰なのよアンタらッ!?」
アイス「……ドッペルゲンガー……?」

ギンノ「私が知らない存在かしら、気に入らないわね」
ヒガナ「きみたちには想像力が足りないさ」


Part23へつづく!