Wonderland Seeker

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《Ride On The City》-硝子色の夕空- part18

「ここは時間も空間も超えたわたしの宇宙……よく導いてくれました。
わたしの道標、あなたたち人がそう呼ぶ者……」

「はじめまして」したその日から
ずっと待っていた
この日を想っていた
キラキラその目に宿った
光を見たんだ

広がるこの大地を歩いて
新たな出会いに触れてきっと
見つけ出せる
きみだけのジュエル
その軌跡をセーブ
全部全部

HurryUp!
赤青緑色とりどり
宝探したまに寄り道
手合わせ願うそれじゃ一緒に
3.2.1!

シロナ「あなたがアリスちゃんね。話は伺っているわ、あたしはシロナ。ポケモンの神話を調べてる物好きな考古学者よ」
膝まで届くほど長いボクと同じ金髪を伸ばし真っ黒いファーコートを着込んだ美女が、中腰になってボクと視線を合わせて丁寧にあいさつをした。
非常に美麗なクールビューティといった印象で、長い金髪で左側の銀色の瞳は隠されているのもあってより魅惑的に映った。


幼い頃からずっとエリカお姉様を中心に、ゆん達やナツ姉といった麗女に囲まれて過ごしてきたけれども、シロナの美しさは別格だった。
これまで出会ってきたギンノやスイ、ホウオウも非の打ち所がない天女だし、もちろんボクにとっての一番はエリカお姉様。それなのに、ここまで惹かれるのはきっと同じ金色の髪を靡かせているからだろう、将来の理想像が目の前に現れたからに違いない。そう見惚れていたまま、挨拶を返したものだから欲望が口から漏れてしまう。

アリス「シロナ姉様、ようやくお逢いになれましたね」
シロナ「へ?」
ゆん・グレアット・モンスメグ「アリスちゃん!?」
6号「著名なお方に何言ってんですか」
あれ?もしかしておかしなこと言っちゃいました?仲間たちがどよめく中、眼前の端麗美女はプッと吹き出すと、あどけなく高らかに大笑いをしてくれた。
シロナ「よし決めたわ、アリスちゃんは今日からあたしの妹になりました!なんでも姉様に頼っていいわよ!」
グレアット「えーーーっ!?」
モンスメグ「想像してごらん、イマジン……☆」
ゆん「もうなにがなんだか……」

見た目からは想像もつかない、シロナ姉様の茶目っ気さがアピールされたことで急に親しみを覚えるようになった。これだけは言える、この方は絶対に悪い人じゃない。みんなが落ち着きを取り戻し、ゆんとグレアがシロナにクッキーとローズティーをおもてなしてあげた所で、本題に入った。

ボクが帰ってきてからしばらくして、全国各地で大団円による影響かどうかは定かではないものの、生態分布が大きく変化してしまったらしく連日報道で取り上げられてポケモン学会を震撼させており、ナタネやコルサと共に植物を専門分野とするエリカお姉様の実妹ということで、地層や化石等から今回の異常性を研究している考古学者であるシロナが代表してボクの自宅まで足を運んできてくれたのである。

さっきの一連で心の距離感が一気に縮まったのか、シロナがぴったりと隣にくっついてきてジッと見つめてくるおかげでちゃんと話の内容が頭に入るかだけが不安材料です。

シロナ「あたしがこの目で見てきた調査の報告をまとめるわ。こういうことって自分で見ないと信じられないのよね。まず突然発生したポケモンについてだけれど、不思議と既存のポケモン達と馴染めていて生態環境を壊すどころか、むしろ適応された新しい生態系が出来上がろうとしているわ」
真剣なまなざしで淡々と現状報告をしてもらい、ひとまずは安全そうで胸をなでおろせた。まあそれについてはなんとなく予想がついていた、あいつらは進化形態だったり共通した特徴も見受けられていたし、おそらく遺伝子そのものは同一だろうから。
グレアット「それならひと安心ですっ」

シロナ「とはいえ懸念点もあるわ。コレクターやトレーナーたちが物珍しさに乱獲したり、サファリじゃもう展示されていたり自分たちのエゴでそのポケモン達が脅かされようとしてるのも事実。皮肉な話ね、昔から共存して溶け込んできて今の生活があるというのに、その有難みを分からないのも結局は人間だもの」
6号「むむむ……他人事とは思えませんね」
そういえばロックはかつて生存競争の環境から淘汰されて逃げ落ちた先で、古代人が引き起こした戦争に巻き込まれたんだっけか。その心中は複雑だろう。

シロナ「ま、そこは地方のお偉いさんたちの管轄。あたしたちはあたしたちでするべきことがあります」
ゆん「それがアリスちゃんへのお願いなのね、何なのかしら?」
シロナ「あなたたち、大団円を見てきたのでしょう。その影響でこっちの世界の均衡が崩れつつある……でも、ホウオウに認められたアリスちゃんだったら止められるかもしれない」
モンスメグ「日本語でおk!」

シロナ「あらいけない、文献を書くときの癖が出ちゃったわ。こうやって新しいポケモンたちが育んでいったのって、かつてのカントーとかイッシュに別の地方から生息地を広げたり、新しい地方で新しく進化を遂げたケースもあったから本来なら喜ばしいことなんだけれどもね、そう手放しで喜べないのよ」
グレアット「何か問題がおありでっ?」
シロナ「大団円の影響で、ビオトープの急激な変化とプレートテクトニクスが大きくズレてそれぞれを司るポケモンが目覚めようとしてるわ」
6号「……!そ、それってまさか」
ただならぬ顔でロックが震え出した、思い当たる節があるのか?
シロナは仰々しく腕をかざして標榜してみせた。

シロナ「そのまさか、よ。自然環境の女神・シェイミと、大地創造の巨神・レジギガス!この2体を鎮めさせてあげることこそアリスちゃんの使命です!」

何故かどこかしらから後光が射す。あと近いです。
指名されたボクはというと、そのスケールの規格にヤバチャデザインのティーカップから紅茶をダバダバこぼしていた。グレアが「しっかり気を持ってくださいーっ!?」とハンドタオルでこぼした液体とスカートを拭き拭き。
その傍らで、ロックはレジギガス、ですか……とひとり物思いにふけていたのだがボクはそんな端っこに気づく余裕もなく、シロナがさらに追って説明していく。とりあえず秒速フルスロットル情報整理(コンマ5秒)

:大団円のバランスが崩れちゃった!
ポケモン達のエコロジーが大変貌!
シェイミレジギガスお怒り!
:止めれるのはボクしかいない!(なぜ)

まとめるとこんなところか、そうやって思考を重ねることで我を取り戻すと、いつの間にか説明は終わっていてボクの部屋Withマンションを興味深そうに物見してらっしゃった。ひょっとしてこの考古学者は自由奔放なおちゃめ機能さんなのか?

シロナ「アリスちゃんのお部屋、まだ小さい子なのにすっごい綺麗で可愛くって羨ましいわ~!あたし整理整頓出来なくて……そもそも片付けって何が正解かよくわからないのよね」
ゆん「意外ね、シロナさんはプライベートもパーフェクトってイメージしていたわ」
モンスメグ「ここのインテリアはメグが1日でやってくれました☆」
グレアット「私が毎日ほぼ全てしてあげてるのにっ!?」

なんかお姉ちゃんたちがハウストーク始めちゃったよ。アレか、シロナも緊迫感消しちゃう系なのか、おかげでただでさえ現実味がないのに絵空事じみてきたんだが。
ボクはロックを気にかけて話しかけてみることにした。
アリス「レジギガスに思い当たりがあるのか?」
6号「そりゃあまあ……私は本物ではないとはいえレジ一族と馴染み深い立場ですからね」
そういえば、ロックの過去についてざっくりとは聞いてはいるものの、踏み入った話はしたことがない。この機にそれとなくメスを入れてみよう。
アリス「一度聞いてみたかったんだけど、そのとき何があったんだ?」
あっちはあっちで盛り上がってて輪に入りにくいし、レジギガスが絡むというのであればこれからのためにも今のチャンスにしっかりとロックのことを理解しておきたい。ロックはこほんと咳をつくとコスプレの三角帽子を深く被り直して語り始めた。

6号「そうですね……お話ししましょう。私がアークと名乗っていた時代、ヒスイからはるばるホウエンまでランナウェイをしていた頃です。レジギガスによって生まれ落とされた伝説の巨人たちは恐怖の対象として人々は争っていていました」

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古代ホウエン地方

アーク「空が------紅い」

ヒスイゾロアーク@うまお様 よりお借り致しました

どれだけの大陸を渡ってきただろうか、かつて住んでいた場所と違ってここは温暖で太陽が眩しい……眩しい、そんなに光るなよ。私のダサい影がより色濃くなってしまうだろ。ここまで来ると、だいぶポケモンの生息範囲も違う。私を知る生物もおそらく少ないに違いない、今日はびくびくと怯えずに眠れそうで胸を撫で下ろした。

アリス「STOP」
6号「なんですかまだ回想のプロローグというのに」
アリス「誰だこいつは」
6号「私ですよ!真の姿を前にしてビビりましたか?」
アリス「……メイクのちからってすげー」
モンスメグ「Make☆it!」
6号「パキりませんから。続けますよ」

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麓まで降りると、そこは火山灰が雪のように降り続ける地帯だった。柔らかい平地に刺された看板を読むと”ハジツゲ”と記されていた。特技である幻影のクオリティを高めるべく難解な人語を何年もかけて勉強した成果が如実に出ていた、おかげでこうして一人であっても言葉の壁にぶつからずに済む。
知識はどれだけ有していても良い、寂しさを紛らわせるし誰かの助けにもなれ、決して裏切らないのだから。
木の陰に潜んで遠くから町を覗くとまばらながらも居住地として発展しており、絶えず火山活動の影響にあるこのような過酷な環境であってもそこで生きる人々のたくましさが垣間見えた。山岳を越えてきたため小腹が減ったのだがこの土地には自生できる木の実は無く、川辺にも魚一匹泳いですらいなかった。小さき自然は大きな自然に巻かれるほかなく、痩せた草を見てつい自分の境遇と重ねてしまった。
センチメンタルになっても仕方がない、思い出では腹は埋まらぬ。私は少女に擬態してハジツゲと名付けられた集落に足を踏み入れることにした。

-ハジツゲタウン-

アーク(通貨というものが必要なんですね……)
美味しそうな木の実や料理が並ぶ店の前に立ったはいいものの、人々が物々交換するために必要な代物を持ち合わせているわけがなく生殺し状態になってしまった。
どうしようもなく立ちつくしていると、登山に適したダウンベストを着た丸眼鏡の青年に声を掛けられた。
????「おやお嬢ちゃん、そのフルーツが欲しいのかい?」

その青年は見たところ悪人とは思えなかった、しかし人間という生物は本能や感情を腹の底に隠している、私は警戒して身構えた。
そんな振る舞いを怖がったと解釈したのか、青年は朗らかな笑顔を見せて両手を上げながら話をしてきた。
????「おおっと僕は怪しい奴なんかじゃないよ、きみが困っていそうだったからつい助け舟を出したくなったのさ」

……どうも嘘をついていたり裏がありそうとは思えませんね。

アーク「それはどうも」
とは言っても私は逃亡中の身、あまり深入りするのもなんなので会釈だけすると踵を返そうとしたとたんに呼び止められてしまった。
????「お腹すかせてるんじゃないかい、見ればわかるよ」
そう言うと財布を取り出してお店の商品をいくつか購入して、買い物袋を私の方へと差し向けてきた。ここまでしてもらっておいて拒むのも心が痛むし、自分の身体はいやらしくも素直なもので無意識のうちにその袋を手に取ってしまっていた。

……このピンク色のしっぽ、カレーのスパイスが効いてて美味しい。
アーク「はっ!」
気がつけば私は袋をからっぽにしてしまい、顔がほころんでしまっていたようだ。そんな無防備な姿を微笑ましそうに見てくる青年から背を向けて顔を隠した。
????「訳ありなんだろう?僕の家までおいで、ゆっくり休むといい」
決して私の事情を探ろうとはせず、それどころか素性も分からないというのに自宅まで迎え入れようとしてくれていた。その滑稽さに、つい気を許してしまったのか私は彼の後ろをついていって雨風しのげる屋根の下まで歩み寄ったのだった。

これが人間の家というものなのか。中は大量の紙やよくわからない機械などで散乱しており、その中でもひと際目を引いたのが隕石の入ったカプセルであり、その一見無機質な石ころひとつに私は気を取られていた。
????「はは、それが気になるかい?いい目をしてるね、そいつは僕が見つけた隕石の破片なんだよ」
アーク「この原始生命態はなんです?」
????「調査してる途中だけどね、きっとこの世界には無い新しい物質だと思うんだ」
ダークマター、ということか。外宇宙から落ちてきたのだし、その可能性は十分にあり得る。それに他のガラスケースなどを見る限り、おそらくこの青年は研究者かそれに近い仕事をしていると想像がついた。とすればこの手の発言に関してはある程度の信憑性は持てるだろう。

ドロッセル「ああそうだ、自己紹介が遅れたね。僕はソライシ・ドロッセル、学者を代々やっているんだ。ドロッセルと呼んでくれ、きみは?」
サラブレッドの学者だったか。なおのこと筋金入りの研究バカだと発覚した。さて、どう名乗ろうか。ポケモンですなどと正直に告白するわけにもいかない、白衣を着た人間から命名された名前から拝借させてもらおうか。
アーク「……アークです」
ドロッセル「アークちゃんっていうのか、ああきみが誰であってもいい、一人じゃ危ないだろうし行く当てがないんだったら狭いけれども、この一室を自由に使ってもらっていいからね」
どうして見ず知らずの少女相手にここまで献身にしてくれるのか、まぁそんなことはどうでもいい。その優しさを利用させてもらうだけだ、何かあればすぐに立ち去ろう。それまでのあいだはここの部屋を一つ借りることにしよう。
アーク「どうも」
ドロッセル「よろしくね!じゃあ僕はフィールドワークしてくるから、大人しく休んでるんだよ!」
彼はそれだけ言いつけると、リュックサックを背負って慌ただしく家を出て行った。
やれやれ、私はあなたのポケモンになったつもりはないのですがね。ベッドとやらに横になってみると、その柔らかさと温もりに虜になってしまってすぐに微睡んでしまった……。

それから勝手に冷蔵庫のなかの食糧を漁ったりシャワーを浴びたりしながら何日か待っていたのだが、一向に帰ってくる気配がしなかった。かと言って心配などはしなかったものの、彼には一食一泊の恩義がある。もしも事故などに遭ってしまったのだったら後味が悪い、私は退屈しのぎの書物を閉じると外へ出ることにした。

地図を確認したところ、ハジツゲの東にはここ以上に火山灰が多く降り積もる地帯が広がっていて、その先に抜けると砂嵐が吹き荒れる砂漠に出るらしく
ハジツゲの西に出ると南に向かって一本道があり、その先は流星の滝と呼ばれる洞窟が広がっていることが分かった。どうやら流星の一族と呼ばれる民族がそこで暮らしているらしい。
なんとなくだが、彼の研究している分野的には流星の滝に向かったのではないかと予測をつけてそっちまで向かう。

-りゅうせいのたき-
民族が住んでいるからか、至る場所に松明が飾られていて洞窟というのに中は明るく灯されていた。滝のくぼみには湧水を汲むための装置もつけられていて生活感があふれていて、先のハジツゲといい人間は生きていくための努力を惜しまない逞しい種族なのだと実感する。
歩いていくと人の声が聞こえてきたので私は気配を殺してその様子を窺った。

ドロッセル「アマリリスさん、何も僕は変なことをしようとしてるわけじゃないよ!」
マリリス「どうだかね。隕石飛来をヨシとしてる奴等だっている」
どうやらドロッセルがアマリリスという、マントを羽織った強気そうな女性と話し合いをしているようだ。隕石飛来とはいったいどういうことなのか?

ドロッセル「確かに隕石には興味がある、でもそれはあくまで僕の仕事の一環で僕自身は隕石で罪のない人たちが傷つくのはまっぴらごめんだよ」
マリリス「ふーん……口じゃなんとでも言えるし隕石学者だなんてわたしからするとはた迷惑さ」

うーん、あのままでは埒が明きそうじゃないですね。察するにここでフィールドワークしていたらここの民族であるあの人に止められて今に至るということでしょうか。何日も帰ってこないというのは納得してもらうまでずっと交渉してると予想できます。
まあ人間同士のイザコザなんて興味ないし知った事ではないので、ドロッセルの安否も確認できたところで帰ろうとしたら足元の何かに引っかかってしまって躓いてしまった。
アーク「ぎにゃ!」
マリリス「誰だい!!」
しまった。私としたことがドジを踏んでしまった、アマリリスに気づかれて下から猛ダッシュで駆けつける足音が近づいてくる。
マリリス「女の子がどうしてここに」
ドロッセル「アークちゃんじゃないか!」
マリリス「なんだ知り合いかい」
面倒なことになりました、一刻も早く立ち去らなくては。私はイリュージョンを発動してふたりの目を晦まし、その隙を突いて足早に洞窟の外まで逃げ出した。

どれだけ走っただろう、ちょうどハジツゲと流星の滝を結ぶ中間地点である桟橋のあたりまで逃げてきて、息を切らしているとその瞬間にゴウウウウウウンッ!!と鼓膜が破れるくらいに大きな轟音が後ろから響いてきたのだった!
アーク「……え?」
それは遥か西の方角からだった。
隕石、とまではいかないまでもそれに近い何かが爆発したに違いなかった。幸いにも流星の滝には被害は及ばなかったものの、衝撃の余波で地震が起き轟音を聞いてから数分近くも揺れが続いていた。
揺れがおさまると、私は何があったか情報を募るために西へ向かおうとするもそちら側はとても登れそうにない断崖絶壁となっていて手足も出なかった。こういう緊急事態に陥った際は人間のコミュニケーションとネットワークというものは迅速だ、人が多く集まっていそうな場所を探すべく単身駆け抜けることにした。

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シロナ「流星の民が栄えていた頃の話ね」
ロックの昔語りを聞いていたシロナが口を挟んだ。どうやら考古学者であるシロナは詳しく勉学していたらしく、その辺りについて補足をしてくれた。
アリス「流星の民って?」
シロナ「メガストーンと密接に関わっていて、そのエネルギーを使って隕石落下の予言をしたりメガシンカに携わったりしていた部族ね。今はもう跡取りがいなくって一族が衰退しちゃったんだけど、彼等が生み出したメカニズムは現代でも役に立っているわ」
グレアット「メガシンカってあっちの世界の代物じゃなかったんですねっ」
ゆん「そうなるとますます不可思議ね」

6号「ちょっとそこから年代ジャンプするんですけど、それから技術が発展していくにつれて超自然現象であるグラードンカイオーガの脅威を恐れて、復活しないようにあるプロジェクトを打ち出したんですが、それを機に戦争が起きてしまってとうとう超古代文明を利用してしまいました」
モンスメグ「アーキテクトの思うがままに★」

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あれから私は人々と友好的に接していくうちに、自分でも元の自分が分からなくなるくらいにはひとりの少女として溶け込んでいました。そうやって平和に暮らしていた最中、悲劇の引き金が引かれてしまったのです。

事もあろうことか、技術の結晶である製品の数々とDNAウイルスが融合した隕石の存在をめぐって様々な兵器やポケモンまでも駆り出される一大戦争に発展したのだ。
そして豊緑な大地を守るべく、レジロックレジアイスレジスチルが目覚めたところを利用されて、とうとう納まりがつかなくなってしまった。

私が居た場所はレジロックが守護していたエリアで、こんな愚かな争いを止めるべく私もイリュージョンを解除してゾロアークとして密かに参戦していたときだった。
アーク「ロックさん!こっちはもうダメかもしれません、せめて居住地帯だけでも守らなくちゃ!」
ロック「任せろ、俺の身体は鉛の弾など効かん」

レジロック @冷水ゆき様より

ロックさんの鉄壁ガードと投石爆裂の甲斐もあって、街の中までは敵軍をおびき寄せることもなくどうにか食い止めていた。この過程で大切な自然が壊れていく様を見るのは心痛いが、ポケモンと人々の命には代えられない。そう思えるくらいには私は人間たちと親交を深めていたのだ、あのドロッセルのおかげで今こうして元気にみんなを守れているのだから……。
イリュージョン、ルナトリガー、そしてロックさんのおかげで敵を殲滅でき今日の所は脅かされずに済んだものの、また明日になれば違う兵器を用いてこのカナズミまで攻めに来る。違う意味で安心して眠れない夜が続いたのだ。
それでもどうにか自我を保てたのは、毎晩ロックさんが私と衣食住を共にしてくれていてお互いに悩みを打ち明けられていたからだ。一瞬たりとも気が抜けない以上、この戦争が終わるまでは少女の姿になれず、そうなると大好きな人間と生活が出来ない。そんな私を見かねてなのか、ロックさんは一時的に一緒に暮らしてくれることとなった。

私の過去を話せば、ロックさんの過去も聞かせてもらえたし、私が強くなりたいと願えばロックさんは特訓をしてもらえた。寂しいときには添い寝してもらい、逆にロックさんが辛いときには私が支えてあげた。
もう、彼女とは立派なお友達だった。だからいつかこの戦いが終わったら、レジアイスレジスチルとも会ってみたかったしそう約束を取りつけてくれたのだ。
絶対、平和を取り戻そう。

しかし、現実は非情だった。
ある日新技術だかなんだかのせいで、あのロックさんに傷を与えてしまうような武器が開発されたのだ。その正体は分からずじまいだが、私はその様子を目撃して憤慨した。
アーク「ロックさん!?大丈夫ですか!!!」
ロック「案ずるなアーク。この程度傷にもならん」
心配かけまいと、そう彼女は気丈に振る舞って戦場に戻っていった。そして私はロックさんを過信してしまっていたがゆえに、大丈夫だとタカをくくって持ち場に戻ったのだ。ああ……これが運命のターニングポイントだと気付くこともなく。

しばらくして陽が落ちようとしていた頃、最悪の通達が耳に入った。

レジロックがやられたと。

アーク(信じない!信じられません!あのロックさんは最強なのです、私に素敵なことをいっぱい教えてくれたロックさんが負けるわけ……!)
その情報が入るやいなや、私は敵対している戦場をほっぽって、無我夢中でロックさんが倒れたという場所まで駆け抜けていった。そんなのは真っ赤な嘘だと言い聞かせながら、真っ赤な血が流れる大地を走ったのだ。

アーク「ロックさん!」
そこは砂嵐が吹き荒れる砂漠の楼上、装備していない人間は立ち入ることのできない自然に守られし区域。その砂の上で彼女は横倒れていた。私はその硬い身体を必死で揺すった。
ロック「……その声、アーク……か」
意識を取り戻し、らしくもないか細い声で私の名を呼んでくれた。もう頭の中が真っ白になってて無理に起こしたり喋らせてはいけないなどという医療知識のことなんて気にかけているような余裕などなかった。

アーク「なに寝てるんですか……もう……今日の夕食私が全部食べちゃいますよ?」
ロック「はは…………よく食べて備えろ、よ……」
どうしてこんな冗談めいた日常会話をしてしまったのだろう、きっと私は現実から目を背けたかったのかもしれない。そして彼女はボロボロだというのにそんな私のことを気にかけて、話を合わせてくれたのだ。
ロック「アーク……こいつを持っていけ……」
彼女からよろよろとした手つきで渡されたのは、点字の刻まれたプレートだった。それは紛れもなく彼女のアイデンティティである身体の一部。
アーク「これ、ロックさんの」
ロック「それがあれば…………アイスとスチルの馬鹿も……お前を迎え入れてくれる」
アーク「何言ってるんですか!こんなのなくたってロックさんと一緒に会いに行けば」
もう、自分でもわかっていた。これを渡してくれたということは、もう一緒にこれからレジアイスレジスチルには会えないということ。一緒にごはんをたべたり、特訓をしたり、暮らしてはいけないことが。

ロック「……アーク…………分かってるな……?」
アーク「分かりません!」
ロック「…………アーク」
アーク「分かんない分かんない分かんない分かんない分かんなーい!
ロックさんの言うことなんてこれっぽっちも分かんないです!」
また強がりを叫んでしまった。最期の最後だというのに、自分にこれから立ちはだかる現実から逃げるように分からないと嘆きをぶつけてしまった。
そんな私を見て、ロックさんは痛みをこらえてでも笑いかけてくれた。
ロック「分からなくて……いいさ…………アーク……お前は絶対に、何があっても…………生き延びて……可愛くあれよ」
それが、私の聴いた彼女の最期の声だった。
泣きたいのに、どれだけ泣いても乾燥した砂嵐が涙を流すのを許してはくれなかった。まるでこの砂一粒一粒に、ロックさんからの意思が伝わっていたかのように。

私は自分が自分じゃないように身体が動き出していて、気がつけば戦争を引き起こした発端まで流れ着いていた。
その身を、イリュージョンで彩って。”レジロック”の姿としての幻影を重ねて。
アーク「我こそは偉大なる三大ゴーレムが一人、レジロックなり!」
「そ、そんな……あいつはあのとき死んだはずじゃ」
アーク「我と共に究極の深淵を覗く覚悟をせよ、深淵より来たれ!これがポケモン最大の威力の攻撃手段、これこそが究極の攻撃手段!」

アーク(嗚呼……やっぱり、ロックさんほど上手く爆裂できませんね。欠片がいっぱいこんなにも残っちゃいました。でも、いつか必ずロックさんがあっと驚くくらいの爆裂魔法をお見せしてあげますから)

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6号「……それから私はアイスとスチルのもとを尋ね、ロックさんのプレートを証明に親睦を深めてアークという名を捨て今ここにロックさんとゴーレムを重ねた6号という名前で立っている訳であります」
モンスメグ「う……うぐっ!ろっくん……ううん、あーくん……!!」
6号「げ、なにぼろぼろ泣いてやがるんですか離れてください濡れちゃいますからぁ!」

まさかそんな生々しい体験があったとは、ついつい同情したくなってしまった。今やレイヤーとして輝くロックや配信業にうつつを抜かすスチルとアイスを見ているだけじゃ分からない一面、まさしく深淵を覗いてしまった気分だ。
しんみりとした雰囲気の中、シロナは深く考え込んでいるようだった。
アリス「どうかしたのか?」
シロナ「ううん、もしかしたらレジロックを元に戻してあげられるかもしれないわ」
グレアット・ゆん「ええっ!!?」
6号「そ、それってどういうことですか!」

Part19へつづく!