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《Ride On The City》-桜花の虹彩- Part12

ビアンカ「お姉たん!起きて!お姉たんってばっ!」

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甲高くも甘美な幼さが残る大声で、ボクの意識は覚醒した。
アリス「うーん……?」
ビアンカ「よかった~。気がついてっ♪」
目を覚ますと、彼女の太ももに頭を乗せていた。いつだったか、彼女と初めて逢った日を思い出す懐かしい感触だった。もうアレから一年以上か……。
ビアンカ「エクスプロってくれたおかげで、大変だったんだよ~っ!これからマサキさんも探さなきゃだし……聞いてるっ?」

どうも頭にカスミが残ったように、ぼんやりとしてはっきりと回転しなかった。
ビアンカ「お姉たんってばー……もう、こうなったら……むぅっ」
彼女は、ボクの胸元に手をかざした。
その構えは、より深く相手の心を読むために念能力を送るものだった。
だが、目の前で必死に瞑想する彼女の表情はだんだんと曇っていき、集中が切れたのかハッとして目を大きく見開いた。
ビアンカ「すっごい……お姉さんのことでいっぱいっ」
その名前を聞いた瞬間に、何かに取り憑かれたかのように脳がフルスロットルで回りだし、勢いよく上半身を起こすとお互いの頭をぶつけてしまった。ちりん、と鈴の音も共鳴して鳴り響いた。

アリス・ビアンカ「いたぁっ!」

涙目になって、おでこをさすりながらもボクの身体を引き離して立ち上がった。
ビアンカ「もー。起き上がるんだったら言ってよね、びっくりしちゃうからっ」
アリス「ごめんなさい」
ボクはドレスについた汚れをぱっぱと手で払い、また彼女もお気に入りのウェイトレス服の汚れをはたいていた。
やれやれ、この子が急に変なこと言い出すから……変なこと……アレ、さっきぶつかった拍子で忘れてしまった。とりあえずコブになっていなくてよかった。

ビアンカ「ね、ねぇ……お姉たんっ」
お次は急にもじもじと、スカートの裾を両手で握りしめて赤らめる。
ほんとーにころころと表情が変わるね。変わらない背丈ということもあって見つめていれば、表情の些細な移り変わりがすぐに理解できた。
アリス「どーしたの」
頭につけているリボンがズレていないかどうか確かめながら、彼女に聞き返す。
ふと思ったがさっきウェイトレスを手ではたいていたけれど、普段はサイコアシストを使って隅々までやりすぎなほど休憩時間や帰り際に綺麗にしていた覚えがある。今はそれが行えない事情があるのか?
などといった些末な疑問は、次の一言で頭から一瞬で弾け飛んだ。

ビアンカ「もうこのまま帰っちゃわないっ?」
それは、今回の事件から引き上げる提案だった。
責任感の強い彼女らしからぬ、弱音を吐いたのだ。
アリス「どうしてまた」
ビアンカ「だってなんだかよく分かんないし、マナお姉さんが来てくれなかったらピンチだったんだよっ?ビアンカたちじゃ実力不足だよっ」
冷静に分析してみれば確かにその通りだった。
これまでも危機的状況というのは、他の助力あって補ってきた事ばかりだった。
そういった経験を積んでいるあいつらならまだしも、殆どこういった任務には関わっていない、いちウェイトレスにとっては不安や恐怖が勝ったのだろう。
ビアンカ「そ、それに……今ならふたりっきりだしっ」
アリス「うん?まぁ気がかりなのは分かるけど、だからといってほっといて解決する話でもないだろ。トレーナー達が路頭に迷ったらレストランもジムも閑古鳥だよ」
エリカお姉様直々に依頼してきた、という事は秘密裏に動けるボクたちでないと解決しえないということなのだ。

ビアンカ「ふぅーんっ……マサキさんがどこにいるのかも知らないのにっ?」
アリス「う……それはこれから探せば」
ビアンカ「だれもここにいないのにっ?」

それを言われてハッとした。
そういえば、6号があの時爆裂魔法を打ってからその衝撃でボクは気を失っていたという素振りからして、それから合流ができていないということだった。
ビアンカ「ふふっ……目的を果たすための手がかりが見つからなくって、いまこうやってみんなとはぐれちゃってふたりっきりっ……」
アリス「ビアン……カ?……ビアンカ?」

含みがある言い方に、思わず名前を反芻してしまった。
ビアンカ「はぁいっ♬」

その無邪気な笑顔を見て思わず後ずさってしまった。
その笑顔は、心地の良いそれではなくて、
表面だけ取り繕ったような、見下すような蔑むような、腐敗した笑顔だね。
朗らかでもなんでもなくて、ただ不快に嗤う笑顔。
それは例えるなら、十四夜月だか十六夜月だかのような気色悪さが残る、気が狂いそうな月の光のようで。

一歩退くごとに彼女が一歩進んだ。常に同じ距離を取るようにしながら。スピードを上げれば、彼女のアクセサリーが静かな空へと涼しい音を奏でていった。
アリス「な、なんでついてくるのかな」
ビアンカ「お姉たんが先に動いてるんだよっ?」
そう言われてみればそうだった、ついビックリしてしまって最初に退いたのはこちらだった。つまり非はこちらにあったわけだ。
などと脳で錯覚してしまいそうになるも、体は勝手に動いてしまう。
筋肉が、神経中枢が、無意識のうちに逃げろと命令していた。

ビアンカ「そうやって、また逃げるのっ?」

ばちばち、と視界にノイズが走った。

ビアンカ「逃げないって約束したのにっ」

ノイズだけでなく、色味も徐々に赤く染まっていた。

ビアンカ「お姉たんのこと、逃がさないけどねっ」

あぁ、そういえばラティアスは赤い色をしていた。

ビアンカ「出来ない事は望んでも叶わないんだよっ」

強く人を惹き付けてやまない、深紅の赤だった。

ビアンカ「だって経験からしか想像はできないんだからっ」

違う。ボクの経験が告げている、この赤は借り物の赤。

ビアンカ「なんにも出来なくなった人が、最後に行うことって知ってるっ?」

ビアンカ「お姉たんは、出すことの出来る言葉がないっ!」

ビアンカ「お姉たんは、繰り出せる行動すらもないっ!」

ぐるぐる、だんまり。
足もぐるぐる、頭もぐるぐる。
口はだんまり、頭もだんまり。

ビアンカ「そんな人に残った、たったひとつの冴えない行動はっ」










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うゅみの わるあがき!

ビアンカ「っ!」

うゅみ「わるあがきってぇ、別に最終手段ではないのよぉ」

そう答えを返しながら、しゅるると自在に姿を変えていくうゅみ。

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アリス「うゅみ……!」
うゅみ「やぁ~っとこっちに来れたわぁ。あんたが物語に疑問を抱いてもらわなきゃ、あたしであっても干渉できないのよぉ」

正直何を言ってるのかはさっぱりと理解が及ばなかったが、たったひとつここで分かったことは、うゅみはボクを救いに来てくれたということだった。

ビアンカ「うゆお姉さんっ、何しに来たのっ」
彼女は金色の瞳を鈍く光らせながら、頬を膨らませた。

うゅみ「そうねぇ。強いて言うならぁ……”焚書”しにきただけよぉ」

アリス「…………まさか!」
その一言によって、ボクは思い出した。記憶を綴る!

「脚本を手掛けたのは、ほかならぬ主人公と旅人が気づくのはいつになろうな」
「そうねぇ。あたしたちキャストはただ渡された台本と、ときにアドリブを交えてカメラに魅せてるだけぇ。それを勝手に膨らますのは、いつだって観客なのよぉ
「カーテンコールは、もう終わりだよ」
存在とは 直感 の 代名詞である。
言語 は 波動 の 定着である。

アリス「グレアット!」
その名を口にした途端に、目の前の少女はみるみると姿を変えていった。

グレアット「あーあ、せっかく上手くいくつもりでしたのにっ」

彼女が先ほど自身で脚本を手掛けようとしていたことも思い出した。
それが実現できてしまうまでに、彼女はチカラを手にしていたのだ。

当初はオニスズメのような小鳥に過ぎなかった。
何を成そうにも、チカラがあまりにも無さ過ぎた。
だが彼女は、着々と、確実に火が付き始めていた。
その火はいずれ聖なる魔力を着火して揺れていき、
祈祷として多くの人々へと存在を知らしめていった。

そして海を越え大陸を超え時を渡って認知が広がった。
もはや星単位で観測ができるまでに大きくなった。
彼女の願いは一切の例外なく彗星へと届けられた。

最後のピースは「時間」「空間」「次元」

ー愛する者が失っていた本物の記憶だったー

うゅみ「よぉく出来たミスリードだったわねぇ。あんたの物語ぃ」
これはボクだけの物語ではなかった、ということ。
グレアット「まだ終わらせませんよっ」
うゅみ「終わりよぉ、止まない雨はないものぉ」

グレアット「私に勝てるとお思いでっ?」
太陽のように美しく輝く翼から火山のように熱く燃える炎を広げた。
羽根を動かせば、巫女衣装に飾り付けたやすらぎのすずが涼しい音色を響かせた。
うゅみ「偶然も、気持ちもないわぁ。あるのはぁ、必然と結果だけよぉ」
桃色のワンピースを翻しながら、ふわふわとシャボン玉のような透明の球体へと乗って浮かんでみせると、ボクへとアイコンタクトを送ってきた。

それは、グレアットですら気づけなかった刹那の合図。
うゅみはグレアットの気を逸らした。一瞬だけボクのことを、アリスという存在を彼女の意識から消したことで、ボクの物語を再開した。

建前でも、本音でも。
本気でも、嘘っぱちでも。
限られた時間の中で、
借り物の時間の中で、

ー本物の夢を見るんだー

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ルネシティ

アリス「こ、ここはっ……!?」
熱い、暑い、あつすぎる。砂漠のど真ん中に放り出されてしまったか?
日照りが反射して余計に熱く感じてしまう、少しでも身軽になろうとリボンにつけた鈴をそのまま宙へと投げ捨てた。

これで気持ちちょっとはラクになるだろう。
と、思ったのも束の間。大きな津波が襲い掛かってくるではないか。その勢いで先ほど放った鈴はどこか遠くへと連れ去られてしまった。
グラードンカイオーガによる闘いによって異常気象が発生しているせいか、気温こそは高温ながら気候は暗雲立ち込める大雨となっていた。
このぶんだと地上まで影響を及ぼしているのか?
ボクは、ルチアから借りていたとおぼしきウォルルに乗って二匹が争うルネシティから避難を行った。

~126ばんすいどう~

アリス「……晴れてるだけだな」
どうも海底に位置するルネシティの都市部だけで起こっているに過ぎないらしい。
とはいえ、それも時間の問題。あの二匹のパワーであれば、いずれ地上にも影響を及ぼす可能性も有り得る。ボクはふと気になってモンスターボールを確認してみたが、そういえばルネで置き去りにしたのか誰一匹のボールすら持ち合わせていなかった。
ということは、実質ルチアからレンタルしているウォルルだけが手持ちになる。少々心細いが、ないものねだりをしていてもしょうがない。

さあ。先を急ごう。

~カイナシティ~

ウォルルに乗って、潮の激しい海流からカイナへと到着したところでハギキャプテンが司令するタイドリップ号へと乗船を頼み込み、カントー地方へと運んでもらった。
はじめこそ、疑念を抱いていたもののカイオーガグラードンによる異常気象のくだりと仲間たちとはぐれた経緯を話し、本拠地であるカントーにこの状況を打破する手があると口から出まかせな説明をすればあっさりと乗せてもらえた。
このタイドリップ号は、さっきの海流すらものともしない大型の鉄鋼船であり、聞いたところによればマチスの所有する戦艦もハギ自身が設計した代物とのこと。

そして、クチバシティまで高速で辿り着きタマムシに戻ったあたりまで話は進む。

タマムシシティ~

街を闊歩する人々はざわついていた。
どうも、あの後ホウエン地方は海に飲み込まれ大陸そのものが海底へと沈んだらしい。
つまりホウエンに住まう者たちの消息は完全に途絶えたということ。まだだ、まだ笑うなアリス……ッ!最も肝心なのはこれからなのだから……!

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アリス「不意の推参、ご容赦願います」
エリカ「アリス!……一体これはどういうことですの!」
タマムシジムの奥に構える彼女専用のルーム。
可愛らしい花々が活けられており、その中央には厳つい何らかのコンピュータがいくつも配線を敷いていた。
ボクは、エリカお姉様のそばまで駆け寄ると涙ぐみながら彼女に寄り添った。

アリス「アリス、ではなくてよお姉様……アイリスと呼んでくださいまし」
エリカ「!!……アイリス?……どうして、わたくしの試みは完ぺきだったはず……」
イレギュラーな対応に、困惑を隠せないお姉様をよそに泣きついた。
アリス「怖かったのですぅ……!くすん、ぐすっ……」
その大粒の涙が着物に零れれば、お姉様は力強くぎゅっとボクを抱擁した。
エリカ「…………さぞかし辛かったでしょう。ああ、やはりわたくしの賭けなど天はお許しにならなかったのですね。……ご安心くださいアイリス、わたくしがこの手に…………くふっ!?」

エリカお姉様の腹部を、花柄の着物越しに鋭利な刃物が襲った。
そのふいうちに混乱した彼女を、何度も何度も突き刺していく。ボクを抱く両腕のちからは抜けていき、ぐったりと倒れこんだ。

エリカ「ぁ……ァイ……、……リス……?」

一切の抵抗はなかった。
抵抗の気持ちは、桜の散り際のように舞って風に消えていった。

アリス「…………ごめんなさい、お姉様」
この涙は再会の雫ではなく、別れの雫だったのだ。

それから、ボクは鮮やかな手つきでスチル・アイスの入ったモンスターボールから生命維持装置の電源を切っていき、同様にお姉様の愛するポケモンも絶って行った。

某所

「何をしている」

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普段のクールビューティさは無く、怒りに身を震えるマナが立っていた。
おそらくは異変に気付いたナツメ様が仕向けたのだろう。
アリス「マナ」
彼女の顔を見上げる。険しさは不思議と感じられず、憐れみに近い表情をしていた。
マナ「何を考えている?あれほど慕っていた奴等を死なせるなど」
アリス「なあ、マナ。言っていたよな、人間が次に愚かな行動をとれば容赦なくこの世界を破滅させると」
ボクは、自分でも驚くほど穏やかに微笑んでいたのだろう。彼女は珍しく目を丸くしていた。
マナ「これも貴様の策というのであれば見逃そう。そう踏んでいたが、どうやら……狂気に取り込まれたようだな」

マナは はめつのねがいを せかいにたくした!

アリス「ああ、それでいい」

この醜くも美しき世界は 優しい光に包まれた

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真っ白な視界は、やがて形を取っていく。
そして、目の前には
うゅみと、グレアットが映っていた。

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目論見通り、グレアットの姿は透き通って視えた。
うゅみ「おかえりなさぁい。うまくやれたみたいねぇ」
アリス「ああ。こいつは自分を認識している情報がなくなればなくなるほど、元の小さな雛へと戻っていく。そういう存在だからな、グレアット!」

グレアットは、邪炎の翼を羽ばたかせるもその炎は風に散る火の粉のように勢いを衰えていた。
そして互いを結ぶ鈴も、ここにはない。
王者たる印は、形を失ったのだ。

グレアット「うふふっ……ですがそれもいっときの事。何も私はアリスさんでなくとも、次の御神体へと憑依すればいいだけのことですっ!」
アリス「ざんねんながら、それは叶わない」
うゅみ「当たり前じゃないのぉ、だってこの世界そのものがこの子の作った世界だものぉ」
グレアット「―――っ!!」

彼女は、認識された世界ー物質、次元、空間ーの中でしか生きられない。
ボクが、アリスが、ありす*がそう創ったから。

アリス「帰ろう、グレアット」

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小さな心、ボクの世界ではただ君のことしか見えてない。
頭使ってそっと想うより君に触れていたい。
深い意味はなくていいよ、好きで仕方ないと疑いなく言えるし。

むやみに原始的冒険

君の息遣いが肌のぬくもりが、ボクをどきどきたぶらかすよ。
君と同じ夜に、君の腕の中。いつまでも包まれてたい。

強制的に走る物語、誰も追いつけない混乱を散文的に、時には詩的にずっと繰り返して。
自動的に回る世界、特別な出来事何も起こらなくても、未来は目の前にあるから。

オートマトンじゃなく、現実に進化して君に向かうことができれば、
恋の希望がある。目を閉じた先に、断絶の祈りの果てに。

もう引き返せない遠い旅をして、歴史の境目まで来てる。
絵に描いたみたいなボクらの未来に、最高のキス降ってくる。

もう滅びつつある人と世界には、語りかける必要はない。
ボクら生まれ変わる新しい人に。

最後のジェネシスを越えて。

 

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~『物語の数だけあなたを愛していましたっ』~

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