Wonderland Seeker

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《Ride On The City》-桜花の虹彩- Part6

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愛着している黒ずくめのスーツ姿ではなく、軍の司令官を意識した制服に身を固めてタマムシへと襲撃を図るサカキ。
その威圧に満ちた眼光の奥には、野望という二文字の信念だけが光っていた。

サカキ「一度は制圧したこの地を、再びこの手で落とすことになろうとはな」

カントー地方の中心部に位置する経済都市・タマムシ
商業と娯楽の中心地であり、デパートや旅館、ゲーム開発会社の本社に、ひいてはスロットコーナーとポケモンやトレーナーではなく人間をターゲットとした随一の現代都市として発展しており、もとは自然都市に過ぎなかったこの街をここまで手掛けたのは、他ならぬサカキであった。
大陸全土を中央から見渡せるこの立地は組織を動かすにはもってこいであり、商業のみならず大学やトレーナーズスクール、研究施設といった教育機関も揃ってあるこの街はカントー地方を制するにあたって非常に都合がよかったのだ。
サカキは自分の育てた街を、自分から壊し、自分で創ろうとしている。
まさに、終わりのない因果だった。

サカキ「静かだな……嵐の前の静けさといったところか。クク……」
しかし発展しきったはずにも関わらず、不気味なほど静寂に包まれていた。
それもそのはずであり、エリカはあらかじめ数万にも及ぶ住民に観光してきた人々を避難させていたからである。未然に安全を確保せんとするそのスピーディさは、ひとえに彼女の性格の賜物であろう。

そしてその静寂は、彼が繰り出したサイドンによって無残にも打ち破られた。120キロある巨体を持つサイドンは、ドリルひとつでダイヤモンドをも砕き、尻尾の一振りでコンクリートビルも粉々にしてしまう破壊力を有している怪獣であり、生半可な攻撃は岩石で覆われた皮膚で弾き返してしまう。
サカキの信頼するエースポケモンであり、破壊活動にはうってつけの逸材だ。

その轟音と共に待っていたかのように彼の下についていた実力者たちが現れる。

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ロケット三幹部がひとり、軍事のマチス・謀略のキョウであった。
マチス「ボス!雄飛の機会を待っていたがため!このマチス、エリカに味方するぜ!」
キョウ「戦乱の世とあらば大軍に従うことこそ忍びの極意……だが、和平の世においてはエリカ嬢にお味方いたす!」

元上司へと袂を分かつ捨てセリフを吐き捨てると、それぞれエースであるライチュウマタドガスを繰り出しサイドンの動きを止めにかかる。
ライチュウは電気だけではなく、水の力とエスパーの力も蓄えたフォルムと化しており、マタドガスも煙突状にガスを噴出し、妖精の力を得ていた。
さらにそこにもう一人の老獪が加わる!

カツラ「皮肉よな。悲しみの連鎖を作った火種となったわしに死することすら許さず、あまつさえ平和の礎としてロケット団を敵に回させるとはの」
そう、彼は自決に失敗したのだ。引き金は不発に終わり、後始末としてエリカの下についくことを選んだのである。

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カツラ「さあギャロップよ、行くぞい。わしの遺伝子研究最終形態じゃ!」
カツラの繰り出したギャロップは怪しき緑色と紫色の炎を纏っていた。そして、新幹線の如きスピードで駆け抜けサイドンを止め、結果的に3匹がかりで動きを封じることに成功した。

サカキ「クックック……このサカキの前に立ちふさがりしこと、あの世で後悔するといい!」
屈強なポケモン3匹に雁字搦めにされながらも、サイドンは足元に怪力をくわえ、なんとそのまま地中に大きな亀裂と穴を開けてしまった!
サイドンの じわれ こうげき!

マチス・キョウ・カツラ「ッ!!!」
一撃必殺!同時に元幹部たちのエースを葬ってみせたのだ、その信じられない光景を目の当たりにして絶句する面々。

サカキ「フン、口ほどにも無い」
士気を失った三人を尻目に、施設の破壊活動に入ろうとしたその矢先に、神々しく輝く火炎が襲い掛かってきた。

グレアット「いいえ。言霊にこそ魂は宿るのですっ!」

サカキ「む!」
グレアットの ほのおのうず!
サイドンは ほのおのうずに とじこめられてしまった!
グレアット「この私を差し置いて世界を統治するなど戯言は許しませんっ」
サカキ「やれやれ、もう少し賢いポケモンだと思っていたのだがね」

~~~

サカキが交戦している方角とは真逆の東側。
タマムシシティと外界を繋ぐ2つの方角のうち、もう片方から老紳士に装った氷の化身が佇んでいた。

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ヤナギ「わしの相手は誰ぞ」
車椅子を転がしながら、経済都市を見渡す。そして、やはりというべきか迎撃が来る。

タケシ「イワーク!しめつける!」
最長8.8mにものぼる、カントー最大の岩蛇がモグラのような速さでヤナギめがけて拘束を試みる!
ヤナギ「なっておらんな」
溜息混じりにヤナギはウリぼうと名付けているウリムーを繰り出すと、一瞬のうちにイワークの足元から凍り付いてしまいピクリとも動けなくなってしまった。
タケシ「なに!?」
予想を遥かに上回る命令の速さとウリムーの俊敏さに目を見開くタケシ。
ヤナギ「イワークとは本来、地中にあってこそ最大限の力を引き出せるポケモン。この整備された地表においては力が半減、それどころか地上で動かすなど愚の骨頂」

カスミ「ご高説どーも!スターミー、バブルこうせん!」
星形の身体をくるくるとスピンさせながら、宝石のような赤く光るコアから泡状の光線を立て続けに発射するスターミー。
ヤナギ「シングルバトルの試合形式ならいざ知らず、これは戦争。圧倒的な優勢でもあるまいて、なぜに敵がわざわざその土俵に合わせる?」
人魚と見間違えられるほど美しい白き肢体をくねらせ、氷点下の光線を以てスターミーを氷漬けにさせるジュゴン
カスミ「な!」

ウリムージュゴンという、一見戦いには不向きであろうこおりポケモンわずか2匹の一撃のみで、ジムリーダー2人の士気を落とすヤナギであった。
ヤナギ「解せぬな。なぜ一気に畳みかけず一人ずつ戦場に出るのか。一対一を基本とする陳腐な御前試合に毒されたのか?ポケモンなど、目的を果たすための道具に過ぎん。道具すら持て余すようで、どうしてジムの看板を背負えようか」
タケシとカスミを唇を噛みしめるほど悔しかったが、説得力のある言葉に圧されてしまった。そんな2人を見かねたように、このジムリーダー達を指揮する女性の声が凛と響き渡った。

ナツメ「待機命令なんて出したつもりはないわよ。バリヤードユンゲラー、障壁を貼って町を守って!モルフォン、鱗粉を空気に乗せて!フーディン、エーフィ!攻めるわよ!」
ナツメが得意とする、同時ノータイムによる全員命令をかける。バリヤードユンゲラーは強力なリフレクターと光の壁を作り、モルフォンは毒の粉、痺れ粉、眠り粉をヤナギの近くの風を読んでばら撒き、フーディンとエーフィは体毛を立てて超念波を繰り出す!
ヤナギ「ほう。少しはやるな……」
ナツメのポケモンが動き出すより早く、ウリムージュゴンを手早くボールに引っ込め、まるで車椅子に乗っているとは思えないスピードで一気にぐるりと回りこんで攻撃をおのずとかわしていった。まさしく超人かのような動きに、ナツメも眉を細める。
だが、味方たちが怖気ないようテレパシーを用いて交戦している5人のジムリーダー達へ励ましの鼓舞を送り込む。

ナツメ「いいこと。私たち正義のジムリーダーに立ち止まることも、ましてや後戻りすることなんて許されないわ!守られるべき弱い人たちを全力で救うのよ!」

モンスメグ「リベンジ☆」
ヤナギが回り込んだ先には、読んでいたかのようにメグが待ち構えていた。そして落雷を落涙より疾く落とし込む!
そして逃げ場を封じるように逆方向から、ゆんがエアカッターと吹雪を用いて大きな竜巻を作り上げていた。
ゆん「逃げ場はなくてよ!」
応じるように、ビアンカもサイコパワーと聖なるドラゴンのパワーを波状して逃げ場を失わせると同時に、メグの超電磁に合わせて霧を重ねていく。
ビアンカ「はじめての共同作業だー!」
袋小路となったヤナギへ、伝説級の3匹からの技が叩き込まれた!

モンスメグの でんじほう
ゆんの ふぶき! ビアンカの ミストボール!

ヤナギ「弱いのう」
ウリぼうの ぜったいれいど

モンスメグ・ゆん・ビアンカ「!?」

まるで光と同じ速度で動いているかのような電光石火の手さばき、そうでなければ説明がつかなかった。瞬間移動してきたように現れたウリムー。だけではなく彼女たちを包み込む巨大すぎる氷壁の柱。気が付く前には大地と空中は北極と変わらない景色と変わっていた。

ヤナギ「伝説と言えども、人に懐き牙の抜けた犬などわしの眼中にあらんわ」
その異次元じみた強さに、さすがのナツメすら面食っていた。手足を動かす気力も失われ、考えも脳に浮かばず、ただただヤナギの背中を見ていることしか出来なかったのだ。

ヤナギ「もう邪魔せんのか?ならそこで大人しくしていろ」
ウリぼうの こごえるかぜ!
タケシ・カスミ・ナツメ「!」
それは、チョウジでメグに浴びせた冷風と同じブレスだった。生身の3人は両足を凍結させられて、一切の身動きが取れなくなってしまった。
車椅子へ座り直し、ウリムーを膝に乗せると、歩を進めていく。もはや立ちはだかろうとする者など存在しなかった。

ーたった一人を除いてー

キサラギ「ひゅー。手ごたえありそうだな、じいさん!」
物陰から戦いの始終を見届けていた、現カントー最強トレーナーがその歩を止めた。
ヤナギはつまらなさそうな声で返す。
ヤナギ「強さしか追い求めん阿呆めが……」
キサラギはその言葉に、口元を緩ませモンスターボールを出して宣言する。

キサラギ「オレ様より強かったら通してやるよ!そんな奴、この地方にアリスしかいねえがな!」

~~~

タマムシ旅館


うゅみ「この戦局、どう見るのかしらぁ」
エリカ「概ね想定通りと言うところですわね」
エリカは、アイリスを一人にさせておくことなど出来ない。ゆえに窓から実際に戦況を確認しながらも、うゅみを使ってリアルタイムで詳細を確認していた。
エリカ「ですので……」
エリカは、モンスターボールを取り出していく。自分の愛する自然ポケモンが入ったボールである。彼女は、この戦争に自ら参戦する気だった。
エリカ「その時には、この子を頼みますわよ。うゅみ」

うゅみ「高くつくわよぉ」

~~~

サカキ「グレアットよ。俺の専門は地面を司るポケモンだ、勝算はあるのか?」
かつてトキワのジムリーダーとして試合をしたときに、繰り出していたゴローニャニドキング。どのポケモンもタイプだけで換算すればグレアットには不利な相手だ。
グレアット「相手の心配より、己の心配をしてはいかがですかっ?」
サカキを前に、笑みを浮かべる必要などなかった。ただ代わりに炎を燃え盛らせていく。

6号「グレア!あまり先走らないでくださいよ、私もサポートしますから!」
サカキの背後を取るように、デパート方面から6号が幻影の闇を纏いながら親友へと叫ぶ。もはやレジロックの演技をする必要はないと判断した彼女は、魔女を模した格好の先々から紅白に染まる、ゾロアークとしての色を露出していた。

サカキ「セレビィはどこだ?」
彼は、ヤナギの目的であるポケモンの名を口に出す。それ即ち、グレアットと6号など眼中にないということの表れだった。その心中を察したグレアットは、ますます翼から炎の火力を上げていく。

サカキ「ふっ……言い方を変えよう。アリスを出せ」

言葉を言い切るか否やの速さで、グレアットが聖なる炎をサカキへと直接ぶつけた。彼女は完全にキレていた、聖なる炎だけでなく神通力も織り交ぜておりサカキを追尾するターミネイト機能まで備えた業火と化している。
だが彼は動じることもなく、その場から一歩も踏み出さずしてダグトリオニドキングゴローニャという岩壁を用意してそれを防いでみせる。
グレアット「…………ちっ」
サカキ「案ずるな、こいつらはあくまでも壁。貴様の相手はこいつだ」
槍のように鋭い針をいくつも身体に兼ね備えた、獰猛な蜂が一匹単騎でグレアットの隙を突く!
円錐状の突撃槍を思わせる巨大な毒針と、六枚もの翅から飛行する高速の動きでグレアットを執拗に追いかけまわし、彼女の集中力をスピアーだけに集わせる。
6号「いけない!」
サカキの狙いは、スピアーでグレアットを動きを封じることだった。それを感知した6号は、背後からイリュージョンをかけて……!

サカキ「所詮、幻に過ぎん」
全く効いていなかった。幻影術とは、相手の神経と組織器官を狂わせて行う代物。既に覚悟を決めた、一本の槍をくくったサカキとその手持ちには通用しなかった。
ニドキング ダグトリオ ゴローニャの じしん!
6号「しまっ…………!」
マグニチュード10にも匹敵するほどの恐ろしい大型の地震は、6号のみならず地方一の立派なタマムシデパートや、財団特製のタマムシマンションすら崩れ落とした。
サカキはあらかじめ準備しておいたヘリコプターに乗り込み、空へと避難をしていた。

サカキ「マスターのおらぬポケモンなど、愛玩動物以上の役割を果たせん」
華麗な運転さばきで、ヘリコプターを旋回すると備蓄しているダイナマイトなどの爆発物を手に取り、大空から無差別な破壊を図る。手段を択ばない悪の組織のボスらしい思いっ切りさだった。
しかし、それを簡単には許さなかった。
落としたはずの手榴弾や、ダイナマイトは思わぬところで発火した。

グレアット「はぁ……はぁ、私を見下ろすなど……天道に変わって罰を下してやるわああっ!」
彼女がそれらを拾い自身の身体で発火させ暴発させることで防いだのだ。
見下ろせばスピアーは焼き尽くされ、崩れ落ちていた。いくらサカキのとっておきとは言え、本来のタイプ相性でいえば当然の結果であろう。
だがサカキも理解しているようで、むしろ豪快に笑って返してやった。
サカキ「面白い。貴様を殺せば、俺が神ということだ」

~~~

キサラギ「やるじゃねえかよ、じいさん」
ヤナギ「くくっ、柄にもなく血が躍るわ」
キサラギとヤナギは、総力を上げてルール無用のポケモン勝負を展開していた。

エースたるピジョットを中心に、水龍・ギャラドス、太古の伝説・ウインディ、歩く熱帯雨林・ナッシーがヤナギのジュゴンを薙ぎ倒していく。その後繰り出された、氷ならぬ悪の象徴として君臨せし、ヘルガー・ゲンガー・アリアドスによる謀略も、ねじ伏せていったのだ。

ヤナギの残す戦力は、ウリムーとまだ見ぬポケモンただ二匹。
キサラギが追い詰めたかのように思えた。しかし連戦によってまともに動かせる兵士はピジョットのみ。最後と思わしき5匹目を出すのは躊躇っている様子であった。

ヤナギ「その道具は出さんのか?」
キサラギ「あー?道具なんかじゃねえよ、オレ様に忠実なしもべだ!」

その言葉を聞いた、ヤナギは激昂した。
ヤナギ「お前には、ひとつ嘘をついてしまったな。
わしにとってポケモンは『道具』であると言ったが、あれは正確じゃなかったなぁ……。正しくは愛すべき存在!!愛して愛しぬく!!『道具』とは、
その愛を貫くために利用するその他一切のもの!!」

 

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ヤナギは ディアルガを くりだした!
ヤナギ「ディアルガは、時間という概念を作り出した始祖……。わしの野望を果たすための鍵!そして、時間を移動することが出来るセレビィさえ揃えば、わしは時を支配することができるのだ!このような場所で、まだ終わるわけにはいかん!」

キサラギは、ヤナギの悠々たる熱弁と、雄々たるディアルガの咆哮に、瞳を光らせた。
キサラギ「ひゃはは!やっと本気を出したか!じいさん、オレ様に任せろ!このオレ様が代わりに時間旅行してやるからよ!」
キサラギは アネ゙デパミ゙をくりだした!

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それは、アイリスの持つグレアット達や、ホウエン地方の遺伝子組み換えされたポケモンと同じく、ヒト型をしていた。
リザードンと酷似こそしていたものの、ただ一つはっきりと異なる点は全身が黒く覆われ、漆黒のような炎を纏っていたことだった。

アネ゙デパミ゙「ほわー。ますたぁ、あれこわしちゃっていいのー?」
そして、人語を話すことが出来ることも似通っていた。
キサラギ「ああ。ぶち壊してやれ!」
ヤナギ「ディアルガ。時の咆哮」
ディアルガの ときのほうこう
時間を歪めるほどのエネルギーがディアルガに集まっていく!
先ほどまで東に吹いていた落ち葉や塵芥が、事もあろうことか時が巻き戻ったように、もとあった方向へと戻っていくではないか。そのパワーは凄まじく、付近に位置していたスロットコーナーやポケモンセンターまでもが形を変えていった……!

それに対し、アネ゙デパミ゙と名付けられた黒いリザードンを模した少女には、形容しがたい不思議な力とアンノーン記号が集合し、魔訶魔訶な光景を作っていた。

アネ゙デパミ゙「ぽぱぽ
ゃ。ツどダヅお”レ=♀デラれぴ⇔クブワー
つモぷ                ぽ
が。”サワコ。”。フマう”カ”ケッ””ん ♡♡♡」

アルセウスの力が、オーラが、エネルギーが、消えていく……。
ヤナギ「な、なんじゃと……!?」
半世紀以上生きてきた手練れのヤナギであっても、目を疑っていた。
高熱の日に見るような、でたらめな夢を現実で見たかのように、鳩が豆鉄砲を食らったような表情をしてしまった。
キサラギ「来るべき、アリスとの決着をつけるための奥の手だ。有り難く思えよ」
ピジョットの ゴッドバード
あいての アルセウスは たおれた!

ヤナギ「ふふ。はははははは!時空を司った程度では、世界は取れんよなぁ……ウリぼう。引き上げるぞ、愛すべき大地へとな……」
車椅子を反転させ、踵を返すヤナギ。
だがキサラギは、その降参を許しはしなかった。
キサラギ「おい待てよ!せっかくここまで好き勝手してくれたんだ、償いは受けてもらうぜ!」
ヤナギ「キサラギよ。強き戦士よ。お前は、闘志を無くした負け犬の背を刺してでも、最強という華を飾りたいのか?」
その背中には、負け犬と自称するとは思えないほどの重みが刻まれていた。
キサラギ「また嘘ついたなじいさん。てめえの真の狙いはセレビィ、ひいてはエリカとアリスの身柄だろ。オレ様を利用してんじゃねえーよ」
ヤナギ「くくく、全てお見通しということか」
キサラギは、ヤナギがまだまだいくつものモンスターボールを隠し持っていることにとっくに気が付いていた。キサラギを消耗させ、エリカをおびき出そうとする単純な画策だったのだ。
ヤナギ「まだ若い」
その瞬間、キサラギは身の毛もよだつような恐怖感と轟音に意識を支配された。
ディアルガと対をなす、空間を支配する神話のポケモンであるパルキアタマムシシティ自体の空間を歪ませ、認識を誤らせていたのだ。

そう、ヤナギと戦っていた時から空間は歪んでいた。
キサラギタマムシシティという舞台で広げていると思い込んでおり、その実彼とヤナギは離れた森林で戦っていたのである。
恐らくは、既にサカキやアイリスのポケモン達もタマムシシティという認識の中でまったく別の場所で闘争を繰り広げている。そうであれば、カントー地方そのものが危うい。それ以上に、エリカとアイリスの居場所が掴めなくなってしまうのだ!

キサラギ「くそ!やりやがったな!」
ヤナギ「敵を欺くには、まず自分から。じゃよ」

~~~

グレアットはその異変に気付いていた。彼女は、目に映る景色と、風を切る微妙な違いに察知していた。サカキと上空制圧戦を繰り広げ空を飛んでいるのであれば、足元に確かな感覚を感じることがおかしいからである。
グレアット「どこですか、ここはっ……?」
サカキ「始まったようだな」
サカキは、ヤナギがパルキアを用いてかく乱作戦を行うことを知っていた。だからこそ、グレアットが最も早くその異変に気付く相手だろうと踏んで戦っていたのだ。
6号やクオーレが使う幻影などとは、次元が違う。
なにせ空間そのものが変化しており、脳に入る情報と視覚は全く役に立たないからである。
グレアット「いったいなにをっ」
警戒心をより一層強めながら、無駄だと悟りながらもサカキへ問いかける。
サカキ「おのずと、アリスとエリカを表へ引きずり出すためだ」
グレアット「……これ以上の争いは無駄ですね、私は探しに行きますっ」
体勢を翻し、翼を広げて空へと駆けるグレアット。
サカキ「やめておけ。今やカントー全土の空間認識がずれている、あてもなく彷徨えば永久に迷うこととなるぞ」
グレアット「ご忠告のおつもりですかっ?」
サカキ「このサカキとて、伝説のポケモンを失いたくはないだけの事だ」

そのときだった。

~~~

エリカ「空間を司る支配者ですわね……厄介な」
パルキアの仕業だと瞬時に理解をしたエリカは、アイリスを物理的に守ってあげることが適わないと悟り、パルキアとの戦闘に臨む。
レジェンズ計画のために、最新鋭の技術によって改造を施したレインボーバッジを用いパルキアとの接触を試みたエリカは、唯一対峙することに成功したのだ。

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パルキア「一介のトレーナーが、我に刃向かうつもりか?」
エリカ「刃向かう?いいえ、捕獲するだけですわ」

ウツボットをくりだした! モンジャラをくりだした!
キレイハナをくりだした! リーフィアをくりだした!
ワタッコを くりだした! ドレディアをくりだした!
ラフレシアをくりだした!

パルキア「植物の支配者か……来い!」

エリカ「あらやだ。試合の申し込みですの?そんな……
わたくし、負けませんわよ」


次回に続く!

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