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《Ride On The City》-桜花の虹彩- Part7

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ジョウト地方・コガネシティ~

アカネ「あんたら!また喧嘩しに来たんか!懲りへんやっちゃなぁ」
アカネのもとへと、ハヤトとマツバが現れる。
傷が浅かったハヤトは、ツクシ達と違いすぐに退院してきたがそれでもまだ治療のあとが生々しく残っていた。
脱走したマツバであったが、キキョウの警察病院で重傷を負ったジムリーダーを見て落胆していたところに、ハヤトから声をかけられたとのこと。
だが、ふたりに戦う意思は見受けられなかった。

ハヤト「もうそんなちゃちいことなど過ぎたことだ」
アカネ「ちゃちいやて!」
アスカ「まーまーアカネちゃん。どうゆうことやの?」
宥めるアスカ相手に、マツバが切り出した。
マツバ「ミカンちゃんから聞いたよ。ぼくたちは利用されていただけらしい、処すべき悪党はヤナギさんだった。ただそれだけさ」
バンダナを巻きなおしながら、神妙な顔つきで話す。反省した様子のふたりを見て、一転喧嘩腰になって物申すアカネ。
アカネ「せやから言うたやないか!修理費ごっつつくんやで、あんたらに払ってもらわな気ぃ済まんわ!」
ハヤト「ああ、それは俺が裏金から出しておこう」
アスカ「さらりとえらいこと言うな……」
マツバ「今では力になりたいと思っている。しかし悲しいことに、実力の差は如何とも埋めがたい。そこで、あの子達が帰ってこれる場所を作ってあげようと思ってね」
それは、優男のマツバらしい提案だった。
アイリスがコガネへと帰ってくるであろうと思っているからこその言葉だったが、マツバはアイリスの秘密を知らないがゆえに、此処へは戻ってこないことが分からない。

アカネ「帰ってくるとこは、ここちゃうよ……あの子が、アイリスが帰るんは、タマムシや」
ハヤト・マツバ「なんだと……?」
その時、ミカンが後ろから駆け寄ってきた。
ミカン「そ、そのお話詳しく聞かせてください!」
アカネは、エリカから協力を持ち掛けられたときにアイリスのことを聞かされていたのだ。その出生の秘密を、込み入った部分は避けて概要だけを打ち明けることにした。

アカネ「ここやと場所が悪いわ。ジムまで入ってくれへんか」

~~~

キサラギは瀕死の重傷を負っていた。
その後、ヤナギと再び死闘を繰り広げたが歴戦の経験差に、成す術もなく惨めにどことも知れぬ地面の上で倒れたのだ。
キサラギ「ちくしょう……オレ様は、オレ様は世界最強になってやるんだよ!」
その悲痛な叫びは、森林のざわめきに掻き消された……。

~~~

グレアット「ですが、貴方も途方に暮れるのではないですかっ?」
一時休戦し、サカキとともに切り株に座をつくグレアット。傷ついた箇所を携帯していた医薬品で癒しながら、サカキと会話をする。
対するサカキもヘリコプターから降りて、余裕そうな面持ちで返す。
サカキ「案ずることなどない。パルキアはエリカに負けるだろう、そしてこの空間が戻った時を狙うのみよ。アリスと引き剥がしただけで上出来なのだからな」

アリスという名前に過敏に反応をする。
グレアット「あら、こちらにはまだうゅみちゃんとカルマちゃんっていう切り札が居るんですよっ?貴方の負けは必定、大人しく引き下がったらどうですっ?」
サカキ「そうだな。ならば、ミュウとセレビィを捕まえるまでだ」
幻のポケモンのネームバリューなどに屈する様子もなく、それどころか恐ろしいほどの自信と度胸に満ち溢れていた。グレアットは、エリカほどの人物を手中に収め遠く離れた地方までも覇を唱えたこの男を敵ながら、尊敬と近しい眼差しで見つめてしまった。
グレアット「もし、アリスさんではなく貴方の下についていたら、未来は変わったでしょうねっ」
サカキ「フッ……俺を買い被るな。俺にとってお前らポケモンなど、商売に過ぎん」

~~~

アカネ「あたしがエリカから聞いた話は、これだけや」
マツバ「そうだったのか……道理でぼくの千里眼をもってしても分からないわけだ」
ハヤト「この国家機関を擁しても知らない情報があるとはな」
ミカン「……アイリスちゃん、かわいそう……」
みな表情と声色を落ち込ませ、悲壮な雰囲気に包まれていた。
しかし蛇蝎の如く、アカネは気丈に振る舞う。
アカネ「なに言うてんねん。いっちゃん苦しいのはエリカやし、アリスは言ってもうたら自分が悲劇のヒロインやっちゅーことを知らんで生きてこれてんやさかい、あまり首突っ込むんも野暮やろ」
アスカ「せやな……逆にアリスちゃんは幸せなままなんかも」
コガネを代表する少女に対して、珍しく強気な態度で机を叩いて立ち上がるミカン。

ミカン「いいえ!絶対にそんなことなんてありません!」
アカネ「ミカン」
ミカン「たった5歳で人生を狂わされて、偽りの人生を4年も送らされて……そんなの間違ってます!まだアイリスちゃんは幼い5歳のままなんですよ!」
憤り立ち、怒りをあらわにする。心優しいミカンにとって、アイリスの境遇とエリカの対応が気に食わない……いや、納得いかないのだろう。
アカネ「……せやな。あの子の人生は5つで止まっとる。でもな、それはまだまだやり直しが効くっちゅうことや。純粋な子のために、あたしらが本気でこの世界を平和にしたろうやないか!」
アカネは勢いよく駆け抜けていった。
アスカ「ちょっと待ってや!……アカネちゃん、動き出したら止めれんから堪忍な」
追いかけていくアスカ。三人のジムリーダーだけがその場に残された。

ハヤト「治安を維持するのが俺の役目だ。幼い子を危険に晒すような、こんな世界は間違っているな」
マツバ「ぼくが追い求めているホウオウは、永遠の象徴。ぼくの手で、永遠の幸せを、凪のような穏やかさを取り戻そうじゃないか」
そう告げると、彼らも立ち去っていく。ミカンひとりがぽつんと残った。
ミカンは、部屋の窓から眠らない大都市を、大都市から広がる青空を、青空の向こう側を眺める。

ミカン「どうか。どうか、幸多からんことを……ファイヤー様」

~~~

サカキ「空間が戻ったようだな」
グレアット「っ……!」

歪んだ空間が、徐々に姿を取り戻していく。
見れば、そこはセキチクとふたごじまを繋ぐ砂浜だった。
グレアットにとって、アイリスーアリスーとの誓いを果たした約束の場所。はじめて、彼女が人間を信じようと決めた、一生忘れようがない思い出が刻まれていた。

『ボクにとって大切な仲間だよ』
『グレアットは特別なんだ』
『これからもよろしくっつーことで』

グレアット「アリス、さんっ……」
そこに、しゃなりしゃなり、と砂浜を歩みだす足音が近づいてきた。
グレアットと、サカキはその方向を見渡す。
足音の正体は、この旅を。このシナリオを作り上げてきた張本人。

エリカ「サカキ様。いいえ、サカキ。わたくしは、この瞬間を待ち侘びておりました」
これまで聞いたことのない声色だった。
おそらくは、誰にも聞かせたことのないエリカの本気。タマムシジムリーダーでも、ロケット団最高幹部でもない。
アイリスのたったひとりの姉・エリカがそこにいた。

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サカキ「よもや小娘一人に、この俺が出し抜かれるとはな」
険しい面持ちで、エリカを見据えるサカキ。
殺気を帯びているなどという表現では足りえないほど彼は昂っていた。
ロケット団という一大組織を、数年がかりで盤石のものに仕立て上げたかと思えば、それは全てエリカの計画に過ぎなかったのである。結果、幹部たちを失い、纏め上げるだけの人材が消えたことで残るのは規格外なまでに広がった規模による弊害で生まれた、目を覆いたくなるような莫大な借金。

エリカ「アイリスの花言葉には、もうひとつ意味がありましてよ」

それはーーー《復讐》ーーー

エリカ「そして、わたくしの名にも花言葉がひとつ」

それはーーー《孤独》ーーー

グレアット「エリカ……さんっ」
どうして、生涯の天敵たるサカキを前に微笑んでいられようか。
エリカの心情は、あまりにも海底のように暗く、深く、グレアットにはその微笑みの真意は決して読み取れるものではなかった。

サカキ「俺の花言葉も教えてやろう。それは《神を尊ぶ》《美点》」

そしてーーー《揺るがない信念》ーーー

サカキ「これ以上問答に意味はないだろう。エリカ!お前が勝ったら、俺はもう手を出さん。だが俺が勝ったら、お前には死ぬまでロケット団の為に従事してもらおう!」

サカキは スピアーを くりだした!
グレアット「な!斃したはずなのにっ!」
サカキ「世間知らずの生娘は、げんきのかたまりも知らんのか?」

エリカ「グレアット、下がっていなさい。ここから先はわたくしと殿方の決戦、手出し無用ですわ。貴女はタマムシへ戻りなさい」

エリカは ラフレシアを くりだした!
グレアット「……聞けませんっ。私は、私はこの場所でエリカさんの勝利を見届けて、そしてアイリスさんと再会するんですっ!」

エリカ「…………勝手になさい」
サカキ「容赦せんぞ」

エリカとサカキ、因縁深き決戦の火蓋が切られた。

~~~

ヤナギ「ようやく出会えたなぁ、セレビィよ」
ねじ曲がった空間によって、遂にヤナギはセレビィと出会いを果たした。
対するカルマは、心底興味がなさそうに唾を吐く。
カルマ「ぼくは会いたくなかったね」

タマムシの南側に位置する森林地域、奇しくもそこはカルマがアイリスとはじめて出会った場所であった。
ヤナギ「時間がないのでな……手早く済ませてもらおうか」
ヤナギが手に取ったのは、どんなポケモンであっても無差別に必ず従わせる力を持ったシルフカンパニー特製のマスターボール
観測者たるレックウザですら簡単に捕らえられた実績を持つこのエネルギーに触れれば、森の神たるカルマであってもヤナギの傀儡とされてしまう。
だが、カルマは不敵な笑みを浮かべるだけでその場から動こうとしなかった。
ヤナギ「降参のつもりか?」
何か裏があるのではないかとカルマを怪訝そうに見つめる。
カルマ「勘違いするなよ」
しかしヤナギは決して手を緩めなかった。数十年を経てようやく見つけた希望が目の前に現れたのだ、湧き上がる興奮だけはどうにか抑えながらも勢いよくマスターボールを振りかざす。
そして、星色に輝くエネルギーはカルマに向けられて……。

ヤナギ「どうしたことだ!なぜ当たらん!」
確かにマスターボールは反応をしていた。だがカルマへ触れたはずの高性能のエネルギーの結晶体がカルマをまるですり抜けていくかのようにただぐるぐると行き場を見失っていく。
カルマ「あんたが見てるぼくは過去のぼくじゃんよ」
ヤナギ「!!!」

<時渡り>

森の神であるセレビィのみに許された、自然を司る神樹の星神たちの力を使って行う、タイムリープ能力。
その力を応用することで、カルマは過去の自分を投影させたホログラムの肉体を持たない実体でヤナギと接していたに過ぎなかったのだ。
いかにマスターボールであろうと、現実の時間軸に存在しないポケモンは捕捉できない。
最初から、カルマの手のひらの上ということだった。

カルマ「くだらねえな……ヤナギ。おまえの望みは何よ?なーんでぼくの時渡りが必要じゃんよ」
ヤナギの野望を問いかける。観念したヤナギは、遠い目でカルマを見つめながら、自身の過去を語った。
ヤナギ「わしには昔、大事にしていたラプラスのつがいがおった……」

~~~

ラプラスの名を「ラ・プルス」「ラ・プリス」と言ってな……。
わしはわが子のようにこいつらを可愛がっておった。それこそ、おまえのマスターであるアリスとやらのようにな……わしにとってかけがえのない存在だった。
しかしある日、まだまだ未熟で若かったわしの不注意によって氷原でこの2匹を死なせてしまったのじゃ。踏み外して凍死しかかったわしを命がけで救ってくれた結果……わしは自分のちっぽけな命と引き換えに、大事な子供を2匹も失ってしまった。
そして、遺された2匹の子供・「ヒョウガ」はまだまだ卵から孵ったばかりの赤ん坊だったのだ。ヒョウガは、自分の両親の顔すら知らんのだ……!

そこでわしは、どうにかしてヒョウガにプルスとプリスを会わせてやりたかった!
それが、今日まで至るセレビィを追い求めるきっかけなのじゃ!

ヤナギ「その為なら、わしは悪にでもなってみせた!そして伝説のポケモンなど取るに足らんほどに鍛えなおした!全てはヒョウガのため!!」

~~~

カルマ「おまえ……」
マナ「たったそれだけの為に、貴様は超えてはならん一線を踏み越えたのいうのか」

どこからともなく、うゅみの愛娘・マナが現れた。
彼女は、ヤナギを哀愁漂う目つきで睨み付けていた。
マナにとって、ポケモンの親子関係という存在は切っても離せない因果である。
かつて、母であるうゅみを超えるためだけに暴走し様々な多くの人間やポケモンを葬って畏怖されるようになった彼女だからこそ、ヤナギの気持ちは痛いほどに理解しているのだ。

ヤナギ「
お前たちにとってはそれだけの事であっても!!わしにとっては生きていく全てだったよ!!

老いたとはとても思えないほどに激昂していた。
白く染まった髪を逆立たたせ、コートも翻るほどに闘気に溢れていた!
マナ「哀れなり……」
マナは指先一つでサイコキネシスを働かせて、ヤナギの持つ数多のモンスターボールをすべて封印してみせる。一瞬のうちに無力化させたのだ。
だが、しかし、それでも!
ヤナギは決して止まらなかった!

ヤナギ「すぐにヤツの後を追わせてやる」

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ヤナギは深呼吸をすると、なんと自らの口から氷点下の氷結したダイアモンドダストを舞わせた。事もあろうことか、彼は自分の肉体に、こおりポケモンの遺伝子を配合して改造人間と化していたのである。

マナ「私のように遺伝子を組み替えたというのか……つくづく救えん男よ」

その銀雹の吐息を素早くかわすと、マナはスピードスターをヤナギめがけて放った。
回避不可能の音速に乗った星状のオーラがヤナギを襲い、彼の身体は切り傷まみれになった。
が、最早それしきの痛みで彼の怒りは収まることはなかった。

カルマ「精神が肉体を凌駕してやがる……しゃあねえ、こうなったら!」
マナ「手があるのか」
カルマ「応よ。エリカから授かったとっておきがな……!」

~~~

タマムシ某所

アイリス「ん~……ふわあぁっ」

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エリカが離れたことで、眠り粉の効果が完全に切れ、長き眠りから目を覚ました。
この物語の主役・アイリスの目覚めだった。

うゅみ「あらぁ。おはよぉ、いい夢みれたかしらぁ」
呼応するように、瞬時にそばへとテレポートするうゅみ。
アイリス「うゅー、おなかすいたのでしてー」
うゅみ「そう言うと思ってぇ、クッキー用意しておいたわよぉ」
ぽん、とリボンで可愛らしく包装されたクッキーの詰め合わせを手渡す。
アイリスはぱあーっと無邪気に笑顔でそれを素早く受け取ると、頬を膨らませてサクサクと食べ進めていく。
アイリス「おいしいですわ~。お姉様が作ってくれた味ですわね♪」
うゅみ「!……そうよぉ、よく分かったわねぇ」
お姉様、とはエリカを指す。そしてエリカを真似した舌ったらずな幼き口調。
これは紛れもなく、記憶を失い植えつけられるよりさらに前の、うゅみとカルマが出会った頃のアイリスそのものだった。
アイリスは一瞬でクッキーを平らげると、分かっていたかのようにエプロンから木綿のハンカチーフを取って綺麗に口を拭う。拭い方も、エリカから教わった作法そのものであり、彼女の地頭の良さと器量の良さが滲み出ていた。

アイリス「じゃ、お散歩でもしましょうかー。うゅみー」
にっこりとはにかんで、うゅみへお散歩の提案を持ち出す。
うゅみ「あらぁ、今お外は危ないわよぉ」
母親のように優しく諭すうゅみ。そんな彼女を傍目にアイリスは首元の鈴を鳴らして一言告げた。

アイリス「グレアットをー、助けに行きますのよー♪」
うゅみ「っっっ!!!」

~~~

長い時間を要して瓦礫の中から、ようやく脱出に成功する6号。
空間の影響こそ受けていたが、自分の身体を埋めていたコンクリートや建物の柱などの瓦礫ごと歪んでいたため、身動きが取れないでいた。
6号「くっ!……はは、情けないですね。爆裂魔法すら打たせてもらえずに、敵をみずみず逃してしまうなんて。アイスとスチルに笑われちゃいます」
よろよろと抜け出し、ほふく前進の要領で動くと目の前に信じられない光景が浮かび、思わず目を丸くしてその名を叫んだ。
6号「あ…………ありすさん!」
うゅみを連れて、しゃなりと礼儀よく歩くアイリスがそこに立っていた。
アイリスは6号を見ると、にこっと笑ってお返事をする。

アイリス「ありすじゃなくってー、アイリスですのー♪」
6号は痛みを忘れて、涙を流しながらアイリスを抱きしめた。25センチほど差があるためアイリスはすっぽりと6号のローブに包まれてしまい、涙もあって余計にアイリスの顔が見えないでいたが、両腕に感じる温かさだけで十分すぎるほど氷を融かしていった。
6号「アイリス、ちゃん……!よかった、ご無事で……!」
うゅみ「もぉ、言葉めちゃくちゃよぉ。くふふっ」
アイリス「くるひぃのですわぁ~」
6号「は!ご、ごめんなさい!ついっ!!」
思わずパッと引き離して謝る6号。アイリスは咳払いのあと、エプロンドレスをはたくとさらりと告げる。
アイリス「んー。サンドパーン、ここおかたしてー」
そう言うや否や、草むらからサンドパンの大群がわらわらと出てきて、アイリスの言うとおりに、土を掘り返しながらサカキが破壊した街の瓦礫を速やかに集めていく。
6号「こ…………こ、これが、ポケモンから愛されるチカラ……!?」
サンドパンは一匹たりとも不服そうにしておらず、みなアイリスと目を合わせて微笑んでみせて命令に従っていた。その夢のような光景に何度もぱちくりとまばたきを繰り返す6号をよそに、アイリスは逆方向へと進んでいっていた。
アイリス「ほらー、置いていきますわよー」
6号「まま、ま、待ってください!」

~~~

アイリスの目の前に広がるのは、ヤナギが従僕させているウリムーによって溶けない氷で凍り漬けにされていたジムリーダー達とメグ・ゆん・ビアンカの銀景色だった。
6号「うわわ……これはまたえげつないですね」
うゅみ「フリーザー以上の使い手ねぇ」
慌てふてめく6号を差し置いて、うーん。と悩みに耽るアイリス。
アイリス「どうしましょうかー。炎のポケモンは寄せ付けないようにーってお姉様から言われておりますしー」
くさタイプが集まるタマムシジムでは、炎ポケモンは寄せないよう厳しく言いつけられており、挑戦者ならいざ知らずジムトレーナーや関係者が持ち出してくるなど言語道断であった。

アイリス「そうですわー!カイリキーさん、ぶっこわしちゃってー♪」
軽々しくそう発言すると、またもやどこからともなくカイリキーの集団がわさわさと群れをなして現れてきた。
そして命令通りに、氷結を秒間2000発ものパンチで粉々にしていく。
ナツメ「ぷは!助かったわ……って、アイリス!?」
正義のジムリーダー6人が救出されたと同時に、アイリスを囲むように陣取っていく。
タケシ・マチス・キョウ・カツラの男性陣は深く頭を下げて感謝を印し、カスミとナツメら女性陣はアイリスの頭を撫でてよしよしと感謝を現した。
アイリス「ナツメお姉様ー、むちゃしちゃめっ!ですわよー」
ナツメ「え、ええ。気を付けるわ」
そして、カイリキーの剛力によりかつての仲間達も自由を取り戻した。

ビアンカ「あ!お姉たん♬」
アイリスを見るや、勢いよくむぎゅりと抱き着くビアンカ。背格好がほとんど変わらないため、傍から見れば双子の姉妹のように映った。
モンスメグ「あいりすたーん☆会いたかったー↑↑イエース☆彡」
長身のメグは、ビアンカごとぎゅっとハグしてすりすりと頭にじゃれ付く。
ゆん「うふふ。良かったです」
ゆんは、暖かい笑顔でその様子を微笑ましく見守る。
決して諦めずに、信じぬいた皆の心が”奇跡”を起こしたのだ。

アイリス「ナツメお姉様」
ナツメ「なにかしら」
アイリス「お姉様を支え続けてくれて、ありがとうございます。私は夢の中から、ずうっと見ておりましたわ」
その面持ちは、9歳の少女がーーましてや5歳から時が止まっていたーー出すには、あまりにも高貴な、凪のように穏やかな表情だった。

ナツメ「貴女の運命までは、予知できなかったわ。ごめんなさい」

~~~

セキチク海岸

エリカは完全に圧倒されていた。
タイプ相性だけの単純な計算では、地面タイプに対して草タイプを熟知しているエリカに分があるだろう。しかし、サカキもまた超一流の地面のエキスパート。
そして物理攻撃力と重圧においては遥かにサカキが上回っており、トキワの森で自然と鍛えられたサカキのポケモンは植物への抵抗を獲得していた。
エリカが最も得意とするドレイン戦術など、焼け石に水同然であったのだ。

そして極めつけは、手段を選ばないサカキ自身による銃火器による攻撃が痛烈だった。
銃や火薬の取り扱いを熟練しているサカキにとって、ポケモン勝負に集中しているポケモンなど的同然。射的感覚で打ち込まれる弾丸が、エリカのポケモンを窮地に追い込んでいき、最早なすすべなど存在しなかった。

その一方的なワンサイド虐殺を、ただ見ているしか出来ないグレアットはひたすらに血が出るほど唇を噛みしめて我慢していた。
手出し無用と言われているが、本当ならサカキを地獄の業火で焼き尽くしてやりたかった。それでも、エリカの言いつけを守るのはひとえにアイリスへの想いひとつで留まっていたに過ぎなかった。盲目的な信仰心こそが、グレアットをグレアットたらしめる理由だからだ。

サカキ「経済の手腕こそあれど、所詮十と八の小娘。貴様はぬるま湯の中で泳がされていただけに過ぎん」
エリカ「確かに……殿方の仰る通り、わたくしはぬるま湯に浸かってその水を吸っていただけでしょう。ですが、守るべき方々は、皆ぬるま湯にしか居ないのです。わたくしはポケモンを……タマムシを……地方の人々を……アイリスを守るため、ここで枯れる訳にはいかないのでしてよ!」
よろつきながら、エリカは次々とくさタイプのポケモンを召喚していく。
サカキ「無駄なあがきを」
とどめを刺そうと、サカキはプラスチック爆弾を投げつける。
まともに当たれば、身体がばらばらに吹き飛んでしまう威力を持った兵器。
グレアットは駆け出していた。エリカだけでも救うために羽ばたかせながら。
グレアット「神よ!どうか聖母をお救いくださいっ!」

アイリス「止まりなさーい!」
その幼い掛け声と同時に、サカキが繰り出した爆弾だけがぴたりと止まった。爆弾だけではない、サカキのポケモン達も動きを止めていた。
カルマの時渡りを応用した、時間停止だった。

サカキ「これは……!」
グレアット「アリ……ス、さんっ…………!」
翼に纏いし春の炎であっても渇かないほどの大粒の涙を流しながら、声がする方を見つめていた。

カルマ「ふー。かっこつけちまったじゃんね」
爆弾はそのまま不発し、サイドンポケモン一行も闘争心を失っていた。

エリカ「ああ……嗚呼…………アイリス……!」

アイリス「アイリスたん♡さんじょー☆いぇい♬」
モンスメグ「いぇい☆彡」

次回に続く!

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