Wonderland Seeker

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《Ride On The City》-桜花の虹彩- Part3

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ーコガネ地下ダンジョンー

マツバ「さて、これで全員か」
牢越しに自分自身がシャドーボールと同等の霊力を砲撃し続けること数時間。幽閉しているマツバを見張る組織員を一人残らず倒し、奪った鍵を使って牢の扉を開いた。
マツバ「ポケモンがいなければトレーナーは無力?そういった思い込みが油断を招くのだよ、ゲンガーに仕込んだのはほかならぬ、僕なのだからね」

マツバーーー脱獄!

ートージョーの滝周辺ー

キョウ「ふん、口ほどにもないわ」
得意のどくタイプの特長を活かした翻弄とトリッキーなプレイで、シジマとイブキの繰り出したポケモンを圧倒するキョウ。
敵対する2人はマタドガスの有毒スモッグをもろに喰らい咳き込んでいた。
イブキ「けほけほっ!な、なんて強さなの……ごほっ!」
海上を波乗るキングドラの上でぐったりと寝込むイブキ。
シジマ「ごっほごっほ!こいつぁ分が悪いのぉ!」
毒をいくつもその身で浴びているにも関わらず、いまだにどっしりと構える。
巨体を彼を乗せるニョロボンもまた元気そうに腹太鼓を叩いている。
キョウ「ほほう、女と違い貴様は腹が据わっておるな!」
シジマ「シバさん直々に鍛えられた肉体はサイホーンの突進すら受け止める!儂を止めるのなら……殺す気でかかってこいやああぁっ!」

キョウ「ならば」
キョウは、忍び衣装に仕込んだ飛び苦無をシジマめがけて投擲する。
しかしまるでカビゴンのように弾力に溢れた筋肉がそれを跳ね返し海に沈ませた。
シジマ「イブキ!お前さんは帰って親っさんに伝えてこい!」
イブキ「いやよ……!まだ私は負けてなんて……けほけほ!」
負けず嫌いの性分が退却を拒絶した。
意識が残っている限り、決して後ろへ引くことはないだろう。
キョウ「逃がしもせん……戦いもさせん……そこで眠れぃ!」
いちど任務を遂行すると決めた忍者は、非情なリアリストと変貌する。
たとえ女子供相手であっても、邪魔になる者には容赦をしない。ベトベトンをイブキのもとへとダイブさせると、そのまま粘着の特性で彼女を包み込ませた。

キョウ「こやつの猛毒は免疫を持たぬ限りいずれ触れた肌を溶かし神経をも溶かす」
シジマ「なんて汚ぇ卑劣漢よな……儂が息の根止めたる!」

ーヤマブキジムー

マチス「連れてきたぜ」
ビアンカ「もう!子ども扱いしないでってば!」
マチスにおんぶされる形で、不服そうに頬を膨らませながらジムへと連行される。

ナツメ「随分と速かったのね。おりこうさんってことかしら」
マチスから下ろされ、ぱたぱたと制服を叩いて埃を払うビアンカ。ウェイトレスとして長らく勤務してきた彼女にとって、制服にシワが入ったり汚れが付くことは許されないことであった。その徹底ぶりは、サイコアシストを応用して細菌レベルの細かさですら制服に触れさせないレベルである。
ビアンカ「わ!お姉さんすっごいナイスバディー!いいなぁー!」
ナツメを一目見るや、くるくる回りながらじろじろとその恰好と体のラインを眺める。見た目通り、まだまだ年相応の精神年齢である彼女はいつか成長すると信じており、羨ましそうに眺め続けていた。

ナツメ「うふふ。この作業が終わったら、私行きつけの美容院にでも連れて行ってあげるわ」
まんざらでもないナツメは、ビアンカの白い髪をさらさらと撫でてやる。
マチス「ナツメ、オレさまのワークは終わりだ。こっちも頼むぜ」
ナツメ「そうね……カルマとキョウ達が戻り次第、エリちゃんのために私も」
あらかじめ、うゅみから受け取っていた香水ーメモリーズ・アロマーを取り出すと、自分が舞台に立つ日のように手際よくビアンカマチスに振りかけていく。
ビアンカ「わ……すごくいい香り。なんのお花~?」
ナツメ「ええと、確かア……」
言い告げる前に、ぽわんとカルマがゆんとミカン、そしてアスカを連れて目の前へとテレポートをしてきた。
カルマ「お、グッタイミン」
ミカン「わ……すっごくお広いです」
ゆん「ここに来るのも久しいですわね」

ビアンカ「あーっ!ゆんお姉さ~ん♪」
むぎゅっと抱き着いて再会を喜ぶビアンカ、傍目にカルマにも「カルマお姉さんもねっ」と挨拶を無邪気に送る。
ゆん「ビアちゃんも来てらっしゃったんですね」
ビアンカの頭から首元を撫でながら、にっこりと笑いかける。

アスカ「あ。お初に目にかかります、うちアスカ言いますねん。コガネのジムでアカネちゃんの代わりにたまーにバッジ渡すこともありますわ」
マチス「オー!プアリトルガールズ!地方は違えど同じ組織の仲間だ、フレンドリーに行こうぜ」
ナツメ「そのアカネはどこかしら」
アスカ「アカネちゃんやったら、喧嘩止めてますわ」
カルマ「想像通り、グレアとメグと6号がつっぱってマナとやってんじゃんよ」
ナツメ「なるほどね……まあ未来予知には悪くない結果が出てるみたいだし、先にあなたたちから施していくわ。そこに並びなさい」

ビアンカ(なんのお花だったんだろ~?)

ーコガネシティー

マツバ「ふぅ、ようやく迷路を抜け出せたよ……しかしなんなんだこの地震は」
地下通路から脱出したマツバは、ずっと地上から巻き起こっていた激しい揺れに気を取られていた。大都市であるコガネでこれだけの騒動があれば、建物が壊れていても不思議ではない。あくまでアカネを止めに来ただけであり、関係のない街まで危険を晒すのは彼にとっては話が違った。
争いの中心となっていそうな場所まで進むと、そこには目を疑う光景が映っていた。

6号「惑え!イリュージョン!」
モンスメグ「ブレイジング☆ソウルビート!」

マナ「小賢しいわ!」
2人の猛攻を、指先から放つサイコキネシス数発がかりで食い止める。
そこに、頭上から……正しくは天高くから聖なる炎ならぬダークファイアが襲い掛かってきた!
グレアット「地獄へ堕ちろおおおぉっ!」
マナ「あいにく天界も獄界からも私は嫌われていてな!」
マナが最も得意とするスピードスターで対抗をする。
三方向を同時に、それも桁外れのパワーを誇る伝説ポケモン相手に態勢を崩すことなく立ち向かっているその姿はまさしく最強の名が相応しかった。
遠巻きに見ていたマツバは唖然茫然と腰を抜かす。
そして自分では適わないと本能で悟ったマツバはそのままコガネから立ち去った。
マナ「チッ……貴様も逃がさんぞ!」
マツバ「ぐあああっ!」
マツバの足元めがけてオーロラビームを放ち、歩行手段を物理的に失わせた。
その最中にも、メグと6号が息を合わせて強烈な攻撃を与えていく。マナは母譲りの光の壁を急速展開してそれらを跳ね返し抵抗する。
もはやこの戦闘に付け入る隙などどこにもなかった。
このまま戦いが長引けば、コガネという都市そのものも崩壊してしまうことは目に見えていた。
そしてそれを許さない、コガネを最も愛する少女がこの戦闘に割って入った。

アカネ「こんのドアホーっ!これ以上好き勝手やらせはせんで!!」
アカネは ミルタンクを くりだした!
ポリゴン2を くりだした! カビゴンを くりだした!

グレアット「人間が邪魔をしないでもらえますかっ!」
アカネ「ほんまにアリスのこと好きなんやったら!止まらんかーいっ!」
グレアット「っ!」

ーチョウジタウンー

キサラギ「あの赤いギャラドス、人工的に作ったのか?」
ヤナギ「実験道具に過ぎん」
眉間を動かすこともなく、はっきりとそう言い捨てるヤナギ。その言い草に関心を持ったキサラギはさらに続けた。
キサラギ「ひゃはは!おもしれぇ!目的のためには手段を選ばねえってか!」
ヤナギ「どう捉えてくれてもよいわ」
ヤナギにとって彼の言葉などどこ吹く風であった。あくまでも利害の一致に過ぎない関係であり、一定のラインは超えないし超えさせない。それが全てである。
その思想がなんとなく読み取れたのか、キサラギはつまらなさそうにジムを出ていく。
ヤナギ「やる気か?」
キサラギ「アリスとはやんねえよ。俺様は強い存在と闘える場所に行くだけだ」
足早に去っていくキサラギを視線だけで追う。
ヤナギ「ふ……青二才め」
ただ、膝元に置いたウリムーの毛を撫でていた。

ーキキョウ警察管轄総合病院ー

ハヤト「イブキの容態はどうなんだ?」
ジョーイ「一命は取り留めましたが後遺症が激しく……ジムリーダーに復帰するのは難しいでしょう」
ハヤト「そうか……だが生きてさえいれば希望はある」
シジマ「そいつは自分への戒めか?坊主」
包帯姿ながら、痛々しそうに見せずまるで勲章かのような雰囲気でシジマは、ハヤトの心を見破ったかのように言う。
それに対して、ばつが悪そうな顔でその巨漢に返す。
ハヤト「奴等ははっきりいって格が違う。ほかの地方の幹部達からジョウトはレベルが低いだの罵られたが……身をもってそれを実感した」
シジマ「その中でもカントーは別格じゃのお。その気になれば儂等をつぶすことなんぞ朝飯前じゃろうて」
ハヤト「きっての武闘派たるあんたがそう言うなら相当だな」
シジマ「ポケモン勝負だけではない。人であっても……いや、どんな相手であっても完膚なきまでに叩きのめす。それがカントーという地方じゃわ」
ハヤト「……俺はヤナギさんの作戦から降りて己を見つめなおす。あんたは?」
シジマ「儂がおらんでもシバの親父ならサカキもエリカもどうにかしてくれるじゃろう。儂も振り上げたこの拳は下ろす……己の腹にのぉ!」

ーコガネシティー

グレアット「どういう意味ですかっ」
遥か天空から、神通力を用いて直接アカネの脳内へと語りかけるグレアット。
アカネ「そのまんまや!あの子のこと好きなんやったら今すぐ戦うんやめーや!」
グレアット「…………」
グレアットは炎を翼へと引っ込めると、地上へと降り立つ。
巫女衣装はぼろぼろとなっており、白衣も紅袴も切れ端だけで彼女の身体を纏う本来の機能を失う領域で非常に痛々しい印象を受ける。
それに気づいた彼女はどこからともなく舞儀式衣装の千早を羽織り、アカネの前へと歩みだした。
アカネ「ようやっと降りてきたか……あたしのかわいいポケモンちゃんがずたずたの瀕死やわもう泣きそうやで」

マナ「フン」
その様子を眺め、マナも超能力を止めオーラを隠した。それに伴うようにメグと6号もまた臨戦の態勢を解除する。
アカネ「ええかグレアちゃん。あたしかてヘタな手は打ちたないねん、仲間のリーダー達と戦うなんてまっぴらごめんやわ」
グレアット「そんな話は聞いていませんっ」
アカネ「聞き!それでもあたしがヤナギに逆らったんは、アリスを守りたいからや」
その気持ちを聞いたグレアットは、ねめつけていた眼差しから一転して目を丸くした。
同じ志を共にする相手には敵意を向ける必要性がないからであろう。
アカネ「ここやと場所が悪いわ……アリスの秘密を教えたる!あの子が狙われとる理由そのものや!」
そう宣言し、アカネはグレアットを連れてジムへと向かおうとしたその矢先であった。

鋭い針が、アカネの動脈を深く刺した。

アカネ「え……か、はっ……」
どさりと倒れこむアカネ。グレアットたちは周りを見渡した。
皆が同じ方向を見据える、それは見慣れた忍であった。
キョウ「ファファファ……!口走るでないわ!」
モンスメグ「ニンニン!」
6号「どうしてお仲間を!」
キョウ「あやつの事についてはエリカ嬢から箝口されておってな。よもやと思い監視していたのだ!」
不意打ちを避けるべく、しゅたっと屋根から屋根へ伝い俊敏に跳躍しながら話すキョウ。
マナ「それもそうだったな……私としたことが感情に押し流されるところだった」
ばさりと白衣を風に仰がせ、地上から離脱する。
モンスメグ「まてー☆」
6号「いいところで終わらせませんよ!」
追い詰めようと、キョウとマナを追いかけようと踵を返す2人。
その2人をグレアットは制した。

グレアット「放っておいてくださいっ!」
モンスメグ・6号「!」
グレアット「……私は、これまで誰かを慕ったことも、信じたこともありませんでした。ですが、ようやくこの長い人生の中で、信じぬくことが出来る人間と出会えました……しかしっ!私は……その人のために何をしてあげればいいのか分かりません……だって、そんな経験をしたことがありませんからっ」
涙を流していた。
その雫は、地面へぽたぽたと落ち、落雷より早く落涙を繰り返していた。
6号「グレア……」
グレアット「ゆんちゃんは……ずるいですっ、だってあれだけ素直に、アリスさんの為に自分を犠牲にできるなんて……本当に……嫌いっ……!」

キョウ「俺を認めさせた戦士・ファイヤーよ。貴様に敬意を払い、ひとつだけ忠告をしよう。”相手を気遣うのであれば、相手の立場に立って考えるのではない。その相手そのものになりきって動くのだ”……これは、忍術にも通ずるものよ」
グレアット「アリスさん……そのものにっ?」
モンスメグ「ありすちゃんだったらこうする!じゃなくって、メグはありすちゃんだから考えるまでもなく、先に行動している!なーんてロマンティック☆彡」
6号「私が本物のロックだったら……アイスとスチルと、あれほど仲良くなれたかな……」

マナ「人払いも限界だ、キョウ。アカネをナツメの下へと連れていけ。後は私がやる」
キョウ「御意に!」
瞬間移動したかのように、軽々しくアカネを担ぐと煙玉のようにドロンと消えた。

マナ「生憎だが私は母のように器用ではない。だが、真にマスターを想うのであれば……私が最も苦手とする、破壊衝動とは真逆の行動、というものに意義を持て」
6号「わー……似合わないセリフ」
マナ「もう一度やり合うか?」
6号「じょーだんですよー」
モンスメグ「メグ、じっとできる性分じゃないんだよねー」
しゅたしゅたと、踊るように機敏に動き回るメグ。
モンスメグ「おじいちゃんのお尻に火をつけてくるZE☆」
マナ「待て!」
6号「待てと言って従うんでしたら、もっと楽ですよ。マナさん、アイスとスチルもありすさんのこと忘れてるんですよね?でしたら……私も行きます。あの2人ばかり割を食うだなんて、耐えられませんから」
マナ「ーーーそうか」
ちらりと、俯くグレアットに目をやるマナ。その視線に気づき、彼女は枯れた声を発した。

グレアット「私はもともとカントーの出身でもジョウトの出身でもありません……しばらく、身を隠します。誰の目にも当たらない、光の無い場所へ飛びますっ」
マナ「……賢明な判断なのかどうかは分かりかねる。だが、あいつの事を忘れずに済み、迷惑もかけない手段がそれだと己で見出したのであれば止めはせん。さらばだ」
一瞬のうちに、空間ごと移動して離れていった。グレアットは一人となった。

グレアット「…………久しぶりに、炎の山にでも行こうかなっ」

ーそれからしばらくが経った、おおよそ数か月といったところかー

サカキ「なぜだ。なぜ一切の情報が出てこん!」
苛立つあまり、テーブルを壁へと蹴飛ばすサカキ。ペットのペルシアンは宥めようと彼に近寄るが、漂う殺気に押し負けひるんでしまった。
サカキ「妙な出来事が多すぎる……組織内にアリスを知るはずの人物が誰一人として知らないの一点張り……催眠を使って炙り出してもみたがシラを切っている気配もなかった。まるで、最初からアリスなど存在しなかったかのような……」
組織を去った関係者を誘拐するか、などと企てていたサカキのもとにノックが入った。
サカキ「誰だ」
「しがないプログラマーですわ」
サカキ「なんだと……?」

カントー地方各地ー

「すっかりロケット団を見なくなったね」
「こないだまであちこちに居たっていうのに」
「ウワサじゃ、ジムリーダーもロケット団らしいぜ」
「何よその根も葉もないデマ」

市民たちはいつにも増して明るくなっていた。サカキの手先であるエリカを筆頭にロケット団に従事していた幹部達もサカキの命令を無視し、それぞれが独自に自分のシティを発展させることに集中していたからである。
エリカ不在によって、地方各地の貴重な資料や代物をロケット団のもとへ集めるという一環で、アリスを中心とした伝説のポケモンを保護する”レジェンズ計画”が凍結し、また幹部級の者たちが組織の任務を放棄した現在、組織の構成員もまともに動くことができず、鳴りを潜めていた。

タマムシ旅館ー

エリカ「うふふ……わたくしに統率を一任させてしまったことが敗因ですわね、思惑通りですの」
うゅみ「計画通り、ってしたり顔ねぇ」

エリカの思惑とは、サカキからの全面的な信頼を勝ち取ることによって実質組織の命令機関のトップに立つことであった。
かつてサカキに脅され屈することしか出来なかった苦い経験をバネに、彼女なりに用意した復讐のシナリオである。
エリカ「ナッちゃんも、マチスもキョウも……ただ力と利権を振りかざすことによるサカキによる服従的な指示より、わたくしからの指示を優先するのは人間として当然ですの。部下は上司を選べるのですわ」
うゅみ「それでぇ?財団の弱体化には成功したみたいだけれどぉ、抜本的な解決にはまだまだよぉ?」
抜本的な解決、とは即ちサカキの失脚とヤナギの鎮圧である。
ひいてはアリスを守るため、彼女を脅かす存在の消滅となる。

エリカ「次の一手は、わたくしの管轄ではありませんわ。ゆえに、気づかない」
アリス「……んぇ?」
エリカ「あら。あらあらあら、起こしてしまいましたか?待っていてね……あなたがお外に出るときには、ぜーんぶ丸く収まっているから」
撫でながら、そう告げると瞼を手のひらで優しく閉じるとアリスは再び眠りについた。
彼女の手のひらからは、睡眠効果のある鱗粉を配合した香水が漂っており、アリスを長い期間眠らせている一因である。
うゅみ「そろそろあたしも出番かしらねぇ」

ーチョウジタウンー

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モンスメグ「どけどけー☆アイドル・メグ!参上☆」
「つ、強すぎる……!」「なんだこの女ぁ……」
単騎で、ヤナギが統括する街・チョウジへと乗り込むメグ。不審な存在に対して迎え撃つチョウジ組の組織員たちが束になるも、全く手が出せず団子状に倒れてしまう。

モンスメグ「あっは☆ホーちゃんとルーちゃんにビクトリったメグが負けるわけないじゃなーい☆彡」
スズのとうに祀られるシンボル・伝説のポケモン、ホウオウ
うずまきじまに潜む海の神様・伝説のポケモン、ルギア。
それぞれ、メグはかつて単独でこの2匹を窮地に追い込ませ勝利したことがあり、それによってますます自信と独尊心は肥大化。もはやプライドそのものの化身とも呼べる、究極の自己愛の持ち主である。
モンスメグ「さーて、こんだけドンパチしたら~」
ヤナギ「お嬢さん。ちぃとばかし、図に乗りすぎではないか?」
車椅子に乗りながら、好々爺のようにウリムーを撫でながら登場したコート姿の老人。
普段は閉鎖されたチョウジジムのリーダーを務めているが、彼こそがジョウトロケット団の首領・ヤナギそのものである。

モンスメグ「ちっち、お嬢さんじゃなくて。お姫様ってよんでほしーなおじいちゃん★」
ウインクしながら、指を振って返すメグ。まさに余裕綽々といった具合であった。
ヤナギ「姫を名乗るのなら……ちったあおしとやかにしたらどうだ?
伝説の三聖獣ライコウよ」
威光を効かせた目で、メグへご挨拶を交わす。その瞳は、サカキやアオギリのような悪の組織を束ねるリーダーシップとカリスマを兼ね備えた者にしか出来ないいわば悪役のステータスである。

ヤナギ「……一匹か」
モンスメグ「メグちゃんねー、こそこそする奴ら~、だいっっっキライなんだよねぇ♬だからさ……消えてくんない?」
星形の雷をいくつも周囲に落としながら、笑顔で圧倒するメグ。
ヤナギ「テメエを捕らえりゃ、時の支配に一歩近づく……糧となれぃ!」
ヤナギは膝元のウリムーをそのまま戦闘へと繰り出した。
台詞とは裏腹なその態度を見て、メグの怒りは一気に頂点に達した。
モンスメグ「ナメてんの?ナメてるよね?ナメんのは、なめぞうだけにしろやあ!」
モンスメグの でんじほう
ヤナギ「ウリぼう、こごえるかぜ」
ウリぼうの こごえるかぜ!
モンスメグ「…………!?」
こごえるかぜとは、本来極寒に吹く冬の風を当てることによって相手の動きを鈍くする低威力の、攻撃向きではなくトリックプレイ向きの技である。
しかしどうだ。ウリぼうと呼ばれたウリムーが出した「こごえるかぜ」は、メグの足元を冷やすどころか、瞬間凍結させてしまった。完全に身動きが取れなくなってしまったのだ。
ヤナギ「そのまま氷像にでもなるか?」
モンスメグ「ーーーチッ!」
メグは完全に凍り付いた自分の右足首めがけてレール☆ガンを放つと、熱伝導によって氷を溶かし、そのまま攻めに転じてウリぼうへシークレッツ☆デュアルを仕掛けた。
ヤナギ「じならし」
ウリぼうの じならし!
シークレッツ☆デュアルは、実際のばくれつパンチとは異なり、いわば勢いとパワーを殺さずに命中精度を高めた遠隔攻撃である。その刹那の衝撃が弐撃走る地面そのものを刹那よりも速く動かすことによって、衝撃の向きをずらし攻撃を無力化させたのだ。

モンスメグ「うっそ、でしょ……?75分の1秒より速いなんて……このシークレッツ☆デュアルは音波よりも、神経の伝達速度よりも、速く届くのに?」
ヤナギ「なにをゴタゴタぬかしおる」
ウリぼうの こごえるかぜ!
モンスメグ「はっ!」
瞬時にジャンプをすることで足元を再び凍らせられることは回避した。そう、足元は。
ヤナギが命じたこごえるかぜは、メグの心臓部めがけてであった。飛んだことにより、急所は外したが代わりに左目から左耳にかけてを凍結させられてしまう。
ヤナギ「ちょこまかとすばしっこい犬め」

モンスメグ(いけない……さすがに無理やり溶かしちゃったら左目失明しちゃう。ってことはどっちにしろこのライトアイだけで、あの牡丹の動きを捉えなきゃ……)
劣勢ではあったが、彼女は冷静に戦況を分析していた。伝説級のポケモンを打ち負かしたことにつけ上がることなどなく、例え敵がうさぎであっても決して油断をせず計算ずくのうえでしっかりと獲物を狙うのが、モンスメグという女性なのだ。
ウリムーもさることながら、ヤナギの命令能力は常軌を逸していた。まるでコンピューターのように正確かつ迅速な命令内容を、ただ技の名を伝えるだけでウリムーをその通りに動かしている。その調教は、自身の手足よりも速く確実な精密性であることは明白だった。
トレーナーの腕前というのは、天井がないのかと震え上がるメグ。
所詮どこまでいっても、従う立場に過ぎない彼女は天井桟敷に立つ子供のようだった。

ヤナギ「ウリぼうに三度も技を使わせるなど、お主が初めてよ。ワタルのカイリューも、カツラのウインディも、ダイゴのメタグロスも、一度の命令のみで倒せたからな……称賛に値するぞ」
モンスメグ「あっそ!昔話のご自慢だったら、舞妓はん相手にでもしてたら?」
晴天だった空は、曇天の雨模様へと一変した。メグの持つ雷を操る力と、純粋な闘気が天候すらも変えてしまった。いくつもの轟雷が振り落とされる。
モンスメグの フォトンランサー・ファランクスシフト!

ヤナギ「だが、まだ若い」
ウリぼうには こうかがないようだ……
モンスメグ「ッ!」
初歩的な、痛恨のミスを犯してしまったことにようやく気が付いた。
ウリムーの身体構造は、一切の電気を通さない絶縁体でできていたのである。
ヤナギ「死なすには惜しい逸材よ……そこで懺悔でもしていろ」

メグの肉体を精神が凌駕していた。結局、何もできなかった。
たった一撃、かすり傷すら付けることもかなわず、ただ悪戯に時間を浪費してしまった。そこには、自身が未熟だということを思い知らされた代償も付いてきた。
もはや指先を動かす余裕すらなく、息遣いは不定期で荒く、心臓の鼓動を脈打つ速度すらまばらだった。徐々に溶けてきた左目から、大粒の涙を零すことしか出来なかった。

ートキワジムー

サカキ「その話のスジは確かなのか?」
マサキ「嘘をついても利益がありませんわ」

サカキのもとを訪れていたのは、天才プログラマーのマサキであった。
ポケモンパソコン通信で世界中どこでもモンスターボール経由で、輸送ができるという画期的な技術力を持つ反面、自分の研究とコレクターのためならどんな手段も択ばないという黒い噂話が絶えない一面も持ち合わせている。
そして、グレンタウンでアリスが引き連れていたうゅみの遺伝子を弄り、技の命令機関を修正してしまうという神業を単独で成し遂げてしまう実績もあり、エリカが最も注意を払っている危険人物にもノミネートされていた。

サカキ「事が上手くいけば、次の実験に使う資金の工面はしてやろう」
マサキ「おおきに!」
サカキ「エリカめ……裏があるとは思っていたが、よもやこれほどの武器を隠し持っていたとはな」
葉巻に火をつけ、煙をふかしながらトキワの森を展望するサカキ。
その表情は打って変わって、安心と自信に満ち足りたものであった……。

次回に続く!

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