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《Ride On The City》五人娘編 Part23

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紅く染まった空、二人乗り。
『もっと遅く飛んで』
さぁ、どこへ行こうか。

ゆん「それで、どうなされたんですか?」
アリス「気分転換」
ボクは、ポケモンリーグをそのまま逆走すると22ばんどうろで、ゆんを呼んだ。
駆け付けたゆんは、ボクの翳った表情を見ると何も言わずに背中に乗せてくれた。
埋葬ガール?冗談じゃない、もう鍵は開いたから。
いつまでも泣いていたって、ここには何もない。
ボクと、ゆんの関係だ。
喜びと悲しみを分かち合った仲に、隔てるものはない。
空を飛びながら、財団に開発されて生まれ変わった街を眺めていた。
いつの間にか、ニビとハナダも様変わりしていた、恐らくあの2人のジムリーダーも財団職員だったのだろう。この地方の街を束ねるジムリーダーは全員ロケット団の息がかかっていたということだ。
ただ変わってないのは、マサラとシオン、そしてトキワだけだった。
だがフジ博士が老いた今、シオンも時間の問題だろう。幹部であるオーキドが研究所を構えるマサラもいずれ再開発されていくのも目に見えている。
カントーは、完全に財団の手に染まっていたようだ。
どれほどの時間が経っただろうか。地方一周はした。ナナシマ諸島まで見てきた。
ゆんは、飛び疲れたのか適当な場所で休憩を提案し、
自然豊かな地で2人並んで座った。

ゆん「ふぅ。ここは綺麗ですね」
ゆんの美しい姿が、美しい夕日を浴びて、赤く映える。
さながら幻想的な風景だった。
アリス「ゆんの方が綺麗だよ」
ゆん「ふふ、軽口叩けるくらいには余裕が戻ってくれたみたいですね」
軽口ではなく、本心からの言葉だったのだが。
ゆんは微笑むと、膝を曲げてボクの前にちょこんと姿勢を下ろす。
ゆん「それで、どうされたんですか?」
いくら心を通い合わせられると言っても頭の中までは言葉にしないと伝わらない。
ボクは、ポケモンリーグでの件を包み隠さず全部話した。
話す内容が変わるたびに、ころころと喜怒哀楽豊かに表情も変えるゆんを愛おしく見つめながら、キクコとのくだりがあってから出てきた旨までを伝えきった。
ゆん「なるほど、それで逃げてきたと」
アリス「逃げてきたって」
ゆん「お逃げになったのでしょう?」
顔は笑っているが、眼差しは怒りに揺れていた。
ああ、誤魔化せない。逃げきれないなぁ、彼女の前では。
ばつが悪そうに頭を掻きながら返す。
アリス「あぁ。どうしたら良いか分からなくて、逃げた」
ゆん「やっぱり」
クスクスと笑うが、やはり開いた目は笑っていない。
ボクの取った行動と態度が気に入らないのだろう。
彼女との旅では、何度負けても何度やり直してでも決して諦めはしなかったからこそ、なおさら込み上げてくるものがあるのかもしれない。
草むらがざわざわと揺らめく、キャタピーが急ぐ様子で歩いていた。
しかし空から降りてきたピジョンにあっけなく捕まってしまいもぞもぞと抵抗するもむなしく、そのままどこかへ連れ去られていってしまった。
ゆん「逃げても無駄ですのに」
ゆんが立ち上がると、飛び去るピジョンにエアカッターを放った。
その風の刃が直撃し、ピジョンは気絶しキャタピー九死に一生を得る。
救われた命だ。たまたまその様子を見ていた者の手によって。
ゆん「同じ無駄なら立ち向かってください。最後まで命を煌めかせて」
それは、キャタピーに対してではなく。
ボクに向けて告げているように聞こえた。
そういえば、グレアットもよく言っていたな。
信じる者は救われる、とかなんとか。
お祈りの一節だろうけど、それはまさにボク達に当てはまることだった。
だが盲目的に信じるのではなく、然るべき行動を取った者が自分を、他人を信じて、
はじめて救済されるのだ。
動かない者に明日は来ない。
明日とは翌日のことではなく、掴みたい未来。
ゆん「グレアさんのこと、考えてます?」
なんでもおみとおしのようだった、さすが伊達に長い付き合いじゃない。
ボクの反応と沈黙がそのまま答えとなって彼女に伝わる。
ゆん「もう。わたくしばかり喋っているのに、わたくしのことは見ていないんですね」
アリス「そんなことは」
ゆん「いえ。いいんですよ。貴女に必要なのはわたくしではなく、今を生きる仲間ですから」
その目は達観していた。言葉にぶ厚さを感じた。
ゆん「一番大切なのはできるかどうかじゃない、やりたいかどうかです。」
それは、ボクがゆんと一緒に決戦に臨んだ際に彼女へ言った台詞だった。
ゆん「うまく言えないけど、今しかない瞬間だから。だから輝きたい」
空を眺める姿は、明日の向こう側を見ていた。
ゆん「だから行きます。諦めず、心が輝く方へ!」
くるっと振り返ると、ボクにまっすぐと指を差す。
ゆん「ですから、信じてあげてください」
全部持っていかれちゃったなあ。
ボクは、草原に横たわって夕焼け空とゆんを眺める。
ゆんはボクの真上に立つと、にっこりと輝く笑顔で手を差し出す。
ゆん「帰りましょう。お互いに、在るべき場所へ」
アリス「……そうだな」
その手を取る。
きっと今のボクは、誰が見てもかっこ悪くかっこをつけていることだろう。

もうさっきまで居た場所は遥か地平線だった。
だいぶ遠くまで飛んでいたのか、すっかり空は暗くなっていた。
ゆん「気持ちの整理はつきました?」
アリス「あぁ」
トキワを超え、ゆんの住処である22ばんどうろも超え、チャンピオンロードの洞窟の上空まで翔んでいく。
どうやら、最後まで見送ってくれるらしい。
アリス「ありがとね」
ゆん「ふふ。終わったら、グレアさんとお越しくださいね。3人でデートですよ」
アリス「なにそれこわい」
こいつは嘘をつかないまっすぐな性格だ、割と本気かもしれない。
そして、セキエイ高原・ポケモンリーグの入り口まで辿り着くと降り立った。
ゆん「それでは、お気をつけて」

ポケモンリーグ・霊の間ー
アリス「戻ってきましたよっと」
キクコ「随分と遅かったね」
返事が来たのはおばあちゃん1人だけだった。
見渡しても、6人の姿が見当たらない。まさかゲンガーに喰われたか?
アリス「あれ。あいつらはどうしました?」
キクコ「もう遅い時間だからね、ポケモンセンターへ送り返してやったよ」
なるほど。確かに時刻は20時を回っている。
あいつら、寝るの早いからな。万全な体制で挑むには朝のほうが都合もいいだろう。
ボクも今日は戻ろうかと、踵を返したとき背後からキクコが語りかける。
キクコ「いい面構えをしているね。答えは見つかったかい?」
肩をすくめて、扉へ向かいながら返事をする。
アリス「それは、明日の結果に出ますよ」

ポケモンリーグ併設ポケモンセンター
各自が泊まっているルームをドア越しに見て歩くと、みな寝静まっているようだった。
マジで眠るの早いな。まぁ、今日は激闘続きだったし疲れているだろう。
ボクもこのまま寝るか……と、思うと6号だけがルームに居ないことに気が付いた。
そういえば、今日はまだ爆裂魔法も打ってないしひとりだけ解説役になってたからな。
寝付けなくてどっかで油売ってるのか?
などと思って自分の借りたルームへ入ると、帽子を取り紫咲のローブを羽織った6号の姿があった。椅子に座って本を読んでいるようだった。
アリス「おーい」
6号「!」
気がついたのか、本にしおりを挟んで閉じるとボクを見る。
アリス「ここお前の部屋じゃないぞ」
6号「知っていますよ。ここで待っていれば、必ず戻ってくると思いましたから」
その言葉もまた、信頼から来るものであった。
もしボクがあのまま別の場所で寝てたらどうするつもりだったのか。
アリス「なんか用事か?」
6号「その様子ですと、安心してよさそうですね」
胸を撫で下ろす6号。笑みがこぼれていた。
アリス「まあ変なとこ見せちまったからな」
6号「構いませんよ。あなたはもともと変な人ですし」
アリス「あ?」
喧嘩うってんのかこやつ。デコピンでもかましてやろうかと腕を動かすと、椅子を蹴飛ばして勢いよく抱きつかれる。身長差もあってそのまま押し倒されてしまった。


6号「おかえりなさい」
アリス「……ただいま」
6号「あのまま、もしも帰ってこなかったらどうしようかって真面目に心配してたんですよ」
アリス「そりゃ悪かった」
6号「もう、ほんとのほんとに悪い人です。自分勝手なのはあなたもですよ」
6号のほうが背が高かったりするので、ボクの眼前には心配しながらも悪態をつく彼女の口元がはっきりと見えていた。
落ち着かないので、とりあえず両肩を抱いて少しだけ引き離す。
アリス「でもこうやってちゃんと帰ってきたろ?」
6号「もし夜が更けても帰ってこなかったら、ここでエクスプロージョン撃ってやるとこでした」
それは本気で困るからやめてくれ。
アリス「そいつは明日の戦いに取っといてくれ」
6号「はぁ。リーグまで来たのに出番がなかったらナンバーシックスの備忘録が恥さらしになってしまいますからね」
その備忘録そのものが人生の黒歴史って思う日は来るのだろうか。
アリス「今日は撃たなくていいのか?手ごろな場所ならそこにあるけど」
チャンピオンロードがある方向を指さして言う。
6号「グレアの古巣に穴をあけるような真似なんて出来ませんよ。それに今夜は……」
ボクを思いっきり掴むと、ベッドにダイブボールさせられる。
アリス「ってえ!いくら力があるからって乱暴な」
6号も、ベッドにインすると投げ飛ばされたボクを覆うようにして寝る。
6号「あなたが消えないように見張りをしますので。一緒に寝ましょう」
アリス「……はぁ?」
まあトレーナーとポケモンが同じベッドで寝ることは当たり前のことだけど。
ただレジロックである彼女は今ヒト、それも少女の姿をしているのだ。
絵面的に、罪悪感のほうが上回るというか。
6号「別にあなただって、9歳の少女なんですからいいじゃないですか、それともなんですか、ポケモンと一緒に過ごしたくないと?」
アリス「そういう問題じゃないっつーの」
ヤマブキでの問い詰めの一件から思っていたけど、なんかこいつはズレてるっていうか。真っすぐさが別ベクトルに向いてるっていうか。
まあ文句を垂れたところで、袖捕まれてるし力はこいつのが上だし、無理に抵抗するとレッツばくれつしかねない。
ここは大人しく引き下がって、一緒に寝てあげることにした。
6号「ありすさん」
アリス「なんですかろっくん」
6号「その呼び方はメグさんだけにしてください。さしつかぬことを訊ねていいでしょうか」
アリス「んー?」
6号「隣に寝ているの、グレアのほうがよかったですか?」
本当にとんでもない質問がトンデきた。
すぐこいつは大爆発させようとする。
爆裂魔法ってのは、言葉にも備わるのかまさか?
6号「答えてください、さもなくば」
アリス「待て
待て、ここでやるのはマジでやめろ、お前のためにも」
どうにか制止するが、爆裂はまだしも気持ちが止まる気配のない6号。

6号「私、こう見えて実はずるいんですよ。何もかもが欲しいんです。分かり合えた友の愛した人でさえも」
それは彼女が漏らした、内に秘めた欲求だった。

6号「全てのわざを投げ打ってでも爆裂魔法にこだわった代償とでも言いましょうか。わざはたった一つだけで良いのですが、代わりに他の目にうつるもの全てをこの手に収めたいと思えるくらいに貪欲になったのです。ふふ、まるでロケット団のようですね」
冗談めいた言葉を織り交ぜながらも、本音を打ち明けていく6号。
6号「この6号という名前も気に入っています、私だけの特権ですからね。ですが別の名も欲しいのです、ろっくん……ナンバーシックス……ほかにもまだまだ!私にある可能性や潜在能力はこんなものではないと!」
キラキラとした瞳で語り続けていく。
6号「ねぇ、ありすさん。私にもっと魅せてください、感じさせてください!この姿もお気に入りですが、他にも色々な衣装や身体が欲しいです!この地方も楽しいですが、ほかの世界も渡ってみたいです!」
ああ、そうか。彼女は何百年もの間、何もない遺跡の中でただひとりポツンと封じられて閉じこもっていたのだ。たまに外に出たと思えば戦争での兵器か実験道具……。
こいつは、あまりにも何もかもを抑圧されて長い人生を過ごしてきたのだ。
だから欲しがる。視界に入るもの、脳裏に入る情報、全てを。
だから壊したがる。視界に入るもの、脳裏に焼き付いた全てを。
6号「あはは、きっと楽しいでしょうね。みなさんと一緒に旅をし続けて、色んなことを経験して、色んなものを手にしたり爆破させてみたり……ね、あり……んぅ」
ボクは6号を制した。
これ以上言葉に出して、彼女の感情まで爆裂させないように。
それ以上に怖かった。彼女の想像が、情熱が、渇望が。
6号「ふわ……いけませんよ……」
アリス「お前がやりたいことをやるなら、ボクもやりたいようにやる」
6号「くっふふ……あははっ!本当におかしいですね、あなたって人は」
アリス「おかしくなきゃ、財団に手を貸したりこんな任務やったりしてねえよ」
6号「それもそうですね。これからもお願いします、ありすさん」
彼女の体温は、溶けてしまいそうなほどに熱かった。
グレアットの炎とは違う熱がそこには秘められていた。


ー翌朝ー


アリス「よし、揃ったな」
グレアット「大丈夫ですかっ?」
心配そうに覗き込んでくる。
6号「大丈夫ですよっ」
カルマ「なんでそっちが返事するんよ」
そりゃそうだ、セリフを奪うな。
グレアット「?まぁ、6号ちゃんがそういうならっ」
モンスメグ「なっかよしー☆」
納得しちゃったよ。
マナ「ならば往くぞ」
うゅみ「そう急かないのよぉ」
先を急ぐ娘と止める母。
アリス「ったく、勝手に動くなって。まずお前らに言っておくことがある」
グレアット「はいっ?」
アリス「昨日はごめん。それとありがとう」
モンスメグ「いいってことよー♪」
マナ「礼などいらん」
カルマ「素直ちゃうねぇ」
アリス「でだ、次のワタル戦。これはお前らにいつも通り任せる、好きに暴れてくれ」
6号「任せてください!」
うゅみ「これはぁ?」
アリス「最後の戦い。キサラギとやり合う時は、ボクの指示でやらせてほしい」
マナ「なんだと?」
アリス「あー、マナは適所でやってもらうから好きにしてくれ。お前ら5人だ。お前らに今までやってもらっていたが、次はボクを信じてくれ。ボク直々に命令を下す、命令違反は許さない」
モンスメグ「おけまるー!おもしろそー☆」
カルマ「それがおまえの答えじゃんね」
6号「わかりました、信じましょう」
うゅみ「まぁいいわよぉ」
グレアット「つまり、あなたを神として啓示を待てばいいんですねっ?」
アリス「んな大げさな。トレーナーとポケモンとしての関係だよ」
聞く耳を持たずに、グレアットは両手を握りしゃがむと翼を広げて祈りを始める。
グレアット「主の恵み、神の愛、聖霊の交わりが、あなたがた一同と共にあるように、願はくは主の恩惠・神の愛・聖靈の交感、なんぢら凡ての者と偕にあらんことをっ……Amen」

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光が射していた。
人工でも、太陽でもなく、まさしく奇跡の残照がグレアットを照らす。
不思議と気持ちが落ち着いた。
これから決戦へ挑むトレーナーとは思えないほどに平静を保っていた。
グレアット「さあ参りましょうっ!」

次回に続く!
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