Wonderland Seeker

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《Ride On The City》-███- アクセス不許可

そしてこの空赤く染めて、また来る時この一身で進むだけ。

すれ違っていく人も紛れ失くしたモノも、いつかは消えゆく記憶。
熱く揺るがす強さ、儚く揺れる弱さ……
所詮同じ結末(みらい)

そんな日常紅霞を溶かし現れる陽、紅えう世界。

風になびかせ線を引いて流れるよな髪先、敵を刺す。
振り斬った想い漲る夢すべては今……
この手で使命果たしてゆくだけ。

寂しさに溢れたこの胸かかえて、今こうやって立っているだけでも精いっぱいだと、三日月へと気持ちを吐露したばっかだっていうのに。まばたきしない間に夕焼けよりも赤い空からグレアそっくりな存在が眼前に現れてクラクラと動転しそうになる。
アリス「グレアが、もうひとり……!?」
ミズキ「お気を確かに。これも幻覚かもしれませぬゆえ」
やんわりと握られたミズキの右手と、その羽衣から舞い散るオーロラの粒子のおかげでどうにか正気を保てていた。

『私の世界に入ってこれるとは……何やらイレギュラーが起きていますねっ』

黒いグレアのような存在?はオリジナルとよく似た喋り方をしていたが、ただひとつ決定的な違いがあってこいつは非常に高圧的な態度を見せてくる点にあった。
ミズキ「イレギュラー?ここはダークライが見せている悪夢でなくって?」
話し合いが出来そうだと踏んだミズキは彼女の独白に対して反論する、確かにダークライが見せていたナイトメアだからこそミズキの羽根で入り込めたのだ。
しかし相反して黒いグレアは想定外の答えを返してきたことにより、ボクたちを取り巻いている事態は一変した。

ダークライ?……嗚呼、邪魔だったので食べましたよっ』

ミズキ「なっ……!!」
アリス「食べたって、どういう意味だそりゃ」
絶句して一歩後ずさったミズキに代わってボクが質問を進める。

『起きたばかりでお腹がすいてましたので。ただ食べたといっても肉体を貪ったのではなくて、私が糧としているのはその生物の保有する情報……言うなれば心ですっ

理解が追いつかない、理解しようにも出来ない、理解側が拒んでくる。

『カレーのルーみたいな味がするのですよっ』

もっと理解できなくなった。
グレアと同じ造形、同じ声色、同じ口調で、双極に位置する事象を言葉にするなよ。グレアはもっと優しいヌクモリティに満ちた喋り方をするし、誰が相手であろうと慈愛を忘れない天性のかんなぎなんだよ。こいつが一言発すたびに心のどこか大事な拠り所が一片ずつ壊れそうになる。
ボクとミズキは黒いグレアによるわずかな言葉だけで黙殺されてしまい、それでも気が狂いそうになる赤色を視界に入れたくなくて、ただただ見つめ合うしかなかった。流れは必然ながら黒いグレアがリードすることとなる。

祝詞も無しに訪れたのは悪夢を媒体としたからでしたか……フフ、しかし俄然興味が涌いてきましたよっ。この私と対話できる存在は初物ですからねっ!先ずは魂を頂きますか、誰が万物の魂は何人にも侵されない神聖な領域だと私の前で保証できようっ……!』

黒いグレアは足音も立てずにボクの目の前まで接近すると、牙を剥くように大きく口を広げて噛みつこうとしてきた!すんでのところで、隠し持ち歩いていた虹色の羽根が意思を持ったかの如くして彼女の唇に触れると、捕食しかけていた動きがピタリと止まってくれてどうにか窮地を逃れられた。その隙にミズキと二人で距離を取って警戒態勢に入る。
アリス「なーにが肉体を貪らないだよ、完全に獲物を食うそれじゃねえか」
ミズキ「あの羽根、天空神さまの……?」
接触れたことによって浄化されるのではと甘い期待をしていたが、頬をほころばせながらホウオウのDNAが秘められているその羽根をシャクシャクとついばんでいく。するとどうだ、黒いグレアの背後から、かつてホウオウと面会した際に見たあの眩しい虹色の円環が出現してきたではないか!
俄かには信じがたい光景を前にした以上、彼女は情報そのものを吸収するというのは紛れもない事実なのだと認めざるを得なかった。

『不味いですね。幾万年も前の遺伝子じゃないですか……っ!』

黒いグレアは一枚の羽根を不満そうに飲み込み、ボクたちに赫い視線を向ける。おそらくまだ補給が足りないのだろうか、その灼眼は獰猛に獲物を狙う鷹に似ていた。
どう立ち向かえばいい?
檻に入れられているのは鳥ではなく、鳥が餌を檻に閉じ込めているのではないかという奇妙な感覚に陥った。グレアですらあの嘴に心を喰われてしまっているのだ、いったいボクに抵抗の一手はあるのか……。
そういえば祝詞がどうとか呟いていたな、本来はその呪文がなければこの赤い原野に来訪できないとみた。だとすれば危険を承知で外界にその祝詞を伝える手段があれば光明が差すかもしれない。つまり3つの手順をこなせれば好い。1つ、祝詞を知り。2つ、祝詞を伝え。3つ、祝詞で封ず。それが可能かどうか不確定な点にさえ目を瞑ればいい作戦だが。
ミズキ「手立ては、ありまして?」
アリス「ここにまだダークライの残滓はあるか?」
ミズキ「グレアット様から微かに感じてよ」
アリス「それを通して現世に戻れないかな」
囚われた悪夢から放つことは出来ずとも、このまま元いた世界に戻るという逆転の発想。感嘆ののち、この沈黙からして実行可能なのだろう。だが彼女は険しい表情で牽制した。
ミズキ「…………御戻りになられたところで、グレアット様をお救いできますの?」
アリス「救ってみせるさ」

ミズキは黙ってうなずくと、三日月の羽根でオリジナルのグレアの頭に触れてダークライの残滓を媒体にし、元いた弓形の島への脱出を試みる。しかしうんともすんとも反応は起こらず、次第に焦りを覚えた天女は霞がかった新月のように曇りを深めていく……。
ミズキ「そんな……!?わたしの三日月の舞が効きませんわ……!」

『私の固有結界においては私が全て……あなた方に逃げ場はありませんよっ』

アリス「おいおいチートかよ!」
つまりは黒いグレアの思うがまま、この赤い原野に来た時点でボクたちに選択肢も希望も残されてなどいなかったのだ。
だがそうだとすれば不可解な疑問が浮かぶ。その気になればこうやって戯れずとも一瞬のうちにボクたちを喰らえるはずだ、なぜそうしないのか?推測するにそうしないのではなく、そうできないのではないか?
あやつはお腹がすいているとさっき鳴いていた。つまりまだ目覚めたばかりの雛に近い状態だからシンプルにそこまで能力を引き起こすためのパワーポイントが足りていないんじゃないか。すなわち突破口を見出せるチャンスは作れるはず!
逆に言ってしまえばボクかミズキ、どちらかが喰われてしまったが最期……。9歳児に過ぎないボクを喰ったところで気休めにもならないだろうから正確にはミズキを守ってやる必要があるわけだ。こちらが逃げられる余力があるうちに、どうにかして突破口を見出さねばな……。

そもそもにしてあやつは誰だ?正体は何なのだ?生態も目的もまったく見当つかないし、前提としてポケモンなのかどうかすら怪しい。いきなり出てきた誰も知らないポッと出の強敵相手にどうインスピネーションを働かせればええっちゅーねん。
いかんいかん、冷静さを欠くなアリス。こうしてるうちにも、外界は深刻な事態になっているというのだ。メグ、アーク、ビアンカがみたら笑われるしエリカお姉様やナツ姉に示しがつかない。

アリス(・・・・・・?)
そういえばグレアともうひとりボクには大切な誰かがそばに居た気がする……?
思い出そうとすると強烈な頭痛と眩暈が襲ってきて、霧に隠された気分だ……。
忘れてはならないことを覚えていないような……

ミズキ「リース様、危ないですの!」
意識を視界に向けると目の前に黒いグレアが近づいてきていた!ミズキが助けてくれたおかげで危機一髪で回避できたものの、あやつから着々と邪気が広がってきている、もはや次は無いだろう。

『足りませんね、足りませんよ……糧が足りませんっ!』

鳥肌がぶわっと立つほどの激しい咆哮をあげると、虹色の羽根に含まれていた遺伝子情報を完全に取り込んだのかグレアとホウオウをフュージョンしてふたつに割ったような神々しい朱雀の姿へと変貌していた。


統合した情報と思念を自身のモノにしていくそのサマは、まるでメタモンだかミュウツーを彷彿とさせる……。形容するなら鳥獣界の女神が相応しいか?
元々虚無に等しかった風貌は完全に光を失っており、赫灼とした視線が当たるだけで痛みが走った。そして恐ろしいのは大団円のバランスが崩壊しようとしている現在、あやつはポケモンである可能性を常に捨てきれないという事。出鱈目な性能を有す七英雄たちを目の当たりにしてきた以上、もしあやつが七人目の英雄もしくは従属のポケモンで情報を司る化身なのだと評されても疑えなかった。

それにしても厭に身が軽いな、手首に嵌めていたメガバングルとビアンカのメガストーンも無かったし咄嗟にポケットを探ると金剛珠と白珠も見当たらなかった。ミズキと対面した際にはもう持っていなかった気がする、連れてこられたときにどこかで失くしてしまったのか?それとも実は眠っているだけでボクの肉体自体はまだズイタウンに……?

などと確信の持てない邪推を脳内で展開していると。

『おや、落とし物ですよ。この私が拾って差しあげましょうっ』

あやつが掴んだそれは、ボクの髪を結ぶリボンだった!
さっきミズキに助けられた際の勢いでほどけて落としてしまったのか……!?まずい、どのような形であってもこれ以上情報を与えては希望が絶たれる!それにあのリボンは仲間のみんなから結んでもらっている思い出そのもの、言い換えてしまえばボクの仲間全員の……!

アリス「触るなあぁぁぁ!!!」
身体が勝手に動き出していた。
吹き飛んでいくような風景、転がるように前へ、うるさいくらいに張り裂けそうな鼓動の高鳴りが響いて、夢中で駆け抜けていた。空回りする気持ちが叫び出すのを止められなかったんだ!

リボンを取り返そうとして黒いグレアに手が触れたその瞬間、極彩色の情景が網膜に焼き付いた!

---”遊羽”適用下にない状況での接触は自動抹殺プログラムの発動に繋がります---
---アクセス開始---
---#0146OutBraekを確認---
---”遊羽”適用の啓始を確認---
今こそ来たらん脳漿の民へ
今こそ来たらん世の常闇へ
今こそ来たらん檻の赫灼ヘ
---完了---
Thank you See you

ボクの意識は、まるで童話に登場しそうな不思議な場所に飛ばされていた。

背景には二十六夜の月と青い惑星。緑豊かな地上には一本の線路が敷かれていて、標識にはEとAとRのアンノーン文字が3つ、あと2匹ぶんのアンノーン文字は掠れていてよく読めなかった。St.ANNUと書かれたテッポウオ型の乗り物に自然と着席するボクのことを、ピカチュウイーブイピジョンコイキング・ロコン・けつばんといったポケモン達が見送りに来ている様子だった。

St.ANNUが発車するとホームに飾られた流れ星のモニュメントを脇目に、ポケモン達は黒い布が2条結ばれた旗を振ってボクを見送ってくれた。

アリス
06/23 23:36着

なんだか不穏な気がしたのでボクはその辺で仲良く遊んでいたザングースハブネークを代わりに乗せて、こっそり降車して辺りを見渡せば128の群れに囲まれてエモーショナルを楽しんでいた。

ふとズイタウンで眠気に落ちた場面が頭をよぎり、懐中時計には日付が変わる少し前をさしていたことを思い出した。

だがそんな杞憂も忘れてナゾノクサ達が触れ合う花畑をちょうちょのように翔び回るクロバットに川辺で寝そべるトドゼルガや水陸をうねり踊るハクリューなどとステップを刻んでいると、ボクが降りたことに気付いたのかSt.ANUUを運転していたオニスズメが双翼をネクロシアの鎌を振り乱すようにしてバタつかせて迎えに来てしまった。

猛スピードでアクセルする車席から59とだけ読み取れたふたつの標識をバックに、ガラスみたいに儚く輝く夕焼け空へと進んでいき、線路の終着点に停まったそのときボクはポケットに入っていた、なぜか煤で黒ずんだやすらぎのすずを取り出して崖から投げ捨てると、空に浮かんだ暗い太陽と雷雲が立ち込める空の下、雀の運転手に別れを告げて送り火の舞う桜花の中へと歩いて行った……。

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「起きてちょうだい、アリスちゃん」
アリス「ふぇ!」

鈴の音みたいに心地のいい女性の声で目が覚める。その女性は樺色の明るく長い癖っ毛まじりの髪を赤いリボンで結んでいて自分とお揃いの髪型が特徴的だった。肌白い撫で肩と健康的にむっちりとした太ももを惜しげもなく出した茶色いローブのファッションに身を包んでいて、布地が少ないからかふっくらしたお胸が零れそうでちょっぴり扇情的。そして何よりもローブから貫通した背中の大きな翼に目を奪われた。大樹の幹を思わせる軽やかなライトブラウンカラーの羽根がとても綺麗で、ボクの虹彩にはさながら天使に映った。

ボクの名前を呼んだこのお姉様はいったい誰なんだろう?

彼女の視線を追うと、そこには炎髪灼眼の巫女が佇んでいて宝石みたいにきらきらと煌めく紅い翼が燃えていた。その巫女の名はよく知っている、これまで一緒に冒険をともにしてきたのだから。
アリス「グレア!」
慈愛に満ちたそのかんなぎを愛称のニックネームで呼べば、人々を幸せに導く目を柔らかくしていつものような暖かい笑顔を返してくれた。
グレアット「アリスちゃんっ♡」

グレアのもとへ近づこうとすると、最初に起こしてくれた美女がボクの手首を優しくつかんで引き止められた。彼女もまたグレアとは違った笑顔の温もりを見せてくれていて、なんだか困ったように口元を嘴みたいに尖らせる。
「私-わたくし-の名前もお呼びになって?」
アリス「……なまえ……」
きっと彼女はボクを知っている。
それも親しい間柄だったのだろう、その表情は大切な相手にしか魅せない穏やかで柔和な笑顔なのだから。

しかしどうしてだか思い出せない……。
一緒に旅をしてきたみんな---モンスメグにアークにビアンカ、それとカルマにうゅみ……隣に居るグレアット---のことは鮮明に覚えているというのに?

忘れてはならない記憶を失ってしまっている。
かけがえのないこの想いを……。


「……ス様」
「ース様!」
「リース様!!」

アリス「はっ!」
長い夢から意識を取り戻すと、目の前には不安そうに潤んだ瞳で覗き込むミズキの顔があった。ボクは上半身を起こして眉間に手をかざし深呼吸と共に心身を落ち着かせる。
アリス「いかんいかん……眠っていた」
ミズキ「もう。吃驚しましてよ、急に倒れるものですから毒気にやられてしまったかと思いましたの」
アリス「ごめんね、心配かけた。……あやつは?」
ミズキ「それが……リース様と接触したとたんに悲鳴を上げて、ぐるぐるとお狂いになって……どこかへ消えていきましたわ」

景色に目を向けると緋色に染まった赤い空間はどこへやら、空気の澄み渡った平原へと変わっていたではないか。その大自然を見回していると、倒れこんでいたグレアを発見して、ボクは胸ポケットから鈴の音を鳴らしながら大急ぎで駆けつけ、愛しい彼女の名前を何度も呼んであげた!
アリス「グレア!グレア、しっかりしろグレアット!!」
揺さぶっても起きる気配がなくて心臓の鼓動が煩く加速していったが、試しに三日月の羽根を彼女の唇へ運んでやると正気を取り戻してくれたみたいだった。

グレアット「ん……うーんっ……ここはっ?」
アリス「よかった……!グレア分かるか、ボクだ。アリスだ!」
あの時飛び去っていってから、ようやく本物の彼女の声を聴くことが出来て、達成感とそれを遥かに上回る安心感で目が潤んでしまう。
グレアット「アリスちゃんっ?……んっ、好きぃ……っ」
まだ寝ぼけているのか、ふらふらと霞んだ瞳孔でジッとボクを見つめてうわ言を呟いていた。
グレアット「ぎゅーってしてー?ぎゅーって……ぎゅ~っ」
アリス「よーしよし」
らしくもない子供っぽい甘え方で両腕を上げる彼女の腕を取って、全力を込めてどうにか炎の翼を畳んだ上体を起こすと願望通りにそのまま慰めてあげるようにして抱きしめてあげた。
グレアット「だいしきゅ~だいしゅき~っ……」
アリス「もう大丈夫か?大至急戻らないと」
そう言い聞かせてやって背中から手を離した途端、彼女はボクよりも幼い子供みたいに号泣しだして喚いてしまった。普段から芯の強いグレアからは想像もつかないその異様な状況に戸惑ってしまう……!
グレアット「ああぁ~ん!やだ、やだぁっ!一人にしないでぇぇぇっ!!」

一部始終を見ていたミズキが何か気づいたのかそっと耳打ちをしてきた。
ミズキ「グレアット様には著しい知性の退行と強迫観念に近い症状が見られますの。おそらくは先程のドッペルゲンガーによる幻覚での後遺症が見られるかと」
アリス「一難去ってまた一難か……」
捨て身の覚悟でなんとかグレアを救い出せたかと思えば、あやつめとんでもない後始末を残していきやがって。結局正体は分からずじまいだし、解決したように見えて悪化の一途をたどっている気がしてならない。
ミズキ「まずは此処から抜け出してグレアット様の容態をお戻しになる方法を捜しましょう」
アリス「いや、ギラティナのいるところへ送ってくれ」
ミズキ「え?」
アリス「こんごうだまとしらたまが消えている。恐らくボクよりも相応しい奴の元へと向かったんじゃないかな、だったらそいつらを追ってギラティナの主に荒治療してもらおう」
どうにかしてくれる保証など無いがどうにかするための時間も無い。ならば七英雄様のお力をとやらを試してやろうじゃないかって魂胆に決めた。

グレアット「やー!アリスちゃんは私のなのっ!取らないでっ!!」
ふたりを裂くようにわがままグレアが間に割って入ってボクに抱きついてきたことで、評定のお時間は終了だ。ミズキはボクが提案した通り、三日月の祈りを用いてギラティナが待つであろう礼拝堂へとワープしたのだった!

アリス(それに……あの夢で見た雀のことも気になるしな)

かくしてアリスとミズキはグレアを救い出し、夕焼けよりも赤い原野から帰還を果たす。だが誰も知る由は無かった、誰も意識できなかった。
グレアットの中にまだ奴は潜んでいることを。

其は言之葉に非ず其は奇怪也。
カシコミ カシコミ 敬い奉り御気性穏やかなるを願いけれ。
やがて人々は認識するだろう。
赤い視線を、紅い言葉を、あの緋色の原野を吹く風を!

そして紅星たる星眼たる眼瘴たる瘴気たる気薬たる薬毒たる毒畜たる畜生たる生神たる我らが御主の御遣いは、最後の一人を嚥下した後に、飛び立つだろう。
人を、ポケモンを、神を貪り、長い咆哮の後に飛び発つだろう。
赤き星を残して、意識界の更に深層へと飛び断つだろう。
深き混沌へと身を投じ、狂乱の儀式に囲まれて眠りに就くだろう。

星が再生し、再び命が地に溢れるその時まで……

緋色の鳥よ、未だ発たぬ


Part31へつづく!


















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《フフフ……原初の私の血は馴染みます、馴染みますねっ!歴戦の勇者も豊穣の王馬も屠り原初の炎を手にした今、私こそが伝説の頂点に君臨するのですっ!……ですがあのアリスという童女はいったい?》

うゅみ「飛たせないわよぉ……冠の雪原で天下を獲った程度で調子に乗ったくらいじゃ、英雄面はまだ速いわぁ……」


《あら。始祖の英雄から邂逅しに来てもらえるなんてツイてますねっ、糧となりなさいっ!》

「哀れねぇ。所詮はあたしが生みだした数ある一匹に過ぎないのにぃ」

《貴女を親だと思ったことなどありませんねっ!次に私が世界を創造する際には遺伝子の灰塵ひとつ遺しませんっ!》

「あたしに還りなさい……生まれる前に……優しさと夢の源へ……

-ミラクルリターン-」

《うっ!?身体が……散っていきますっ!?》

「あの子の魂へ触れたのが運のツキよぉ。あたしが介入できる余地を与えちゃったんだものぉ……モンスメグのシステムは本来どこかへあった平行世界と等しいプログラムへ循環させるだけの、神には一歩及ばぬ意思。でもあたしは”すべての世界とすべての原子分子粒子にすべての概念そしてすべての███そのもの”なのよぉ……道標ほど甘くは無いわぁ」

《あ、あ。あ……許してくださいっ、いい子にしますから。ママっ!》

「あたしはねぇ、あの子の紡ぐ物語の続きを見たいだけなのよぉ」

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No-204-Galar

カントー地方から遥か遠方に位置する、ガラル地方の南側に広がるカンムリ雪原にて発見された。何十年かに一度カンムリ雪原に姿を現す渡り鳥ポケモンであり、長年同じ渡り鳥であるファイヤーだと考えられていた。しかし近年ではその定説は覆されており、酷似しているだけの別種ではないかと疑われている。
その根拠として、キリリとした眼光とまっすぐな顔立ちの原種と比較して、鋭く睨んだ青い瞳に邪悪な笑みをたたえる顔つきであり、燃え盛る炎の色も太陽の如くオレンジに燦々と輝く原種とは似ても似つかない赤黒い悪魔のような炎を猛っているからである。

性格は傲岸不遜であり本能の赴くままに悠然と立ち振る舞い、常に体内に迸るダークエネルギーを火柱に見立てたオーラとして放出しているため通常のポケモンは近づくことすら敵わない。
強いて原種との共通点を上げるとすればその誇り高さのみであろうか。

翼を大きく広げて放つ烈火の如き邪悪なオーラ「もえあがるいかり」は精神攻撃の側面も持ち、この攻撃を受けると精魂燃え尽きた疲労感を覚えるとされている。
強い刺激を受けるとたちまち逆上し、膨張したエネルギーを使い果たすまで所構わず攻撃を仕掛け回り、平常心に戻る頃には一帯が夕焼けよりも赤い血で染められると伝えられている。

Type:Dark/Bard
[栄光にかける意地]

原種との違い以上の生態を探るべく、ポケモン学会からマサキ選りすぐりの研究員が調査に向かったところ、うち多数が精神錯乱状態に陥り、命からがら撤退に成功した生き残りもガラルファイヤーに関するデータを更新したのち、消息を絶った。

赤時化夜薙げ-あかしげやなげ-
緋色の鳥よ-ガラルファイヤーよ-

草食み根食み-くさはみねはみ-
卦を伸ばせ-けをのばせ-

██████████ねめあねめあねめあねめあねめあねめあ

―この記録が閲覧されているということは、既に全てが手遅れなのでしょう。
 しかし、手遅れならば手遅れなりに打つ手はあるはずです。
                               ──[マサキ]