《Ride On The City》-硝子色の夕空- part48
ひとりが辛いからふたつの手をつないだ
ふたりじゃ寂しいから輪になって手をつないだ
きっとそれが幾千の力にもなり
どんな夢も断てる気がするんだ
高く飛べ 高く空へ 高く蹴れ
高く声を上げ
いつか挫けたその日の向こうまで
きみの声忘れない涙も忘れない
これから始まる希望という名の未来を
その足は歩き出すやがて来る過酷も

「アリスちゃ~ん!」
「放っておきましょうよ」
「思い出はいつも綺麗だけど☆それだけじゃおなかがすくわ☆」
「きっと……時間が解決してくれますよっ」
アリス(…………)
あれから何日が経ったんだろう?
エリカお姉様から貸していただいたジムの西側の空き家の何室かを居住地として過ごすことになった、らしい。
なんでもボクが生まれた町からボクの両親と思わしき人物は蒸発(シロいわく別の箱庭に旅をしているとか)したために帰る家がないから、とのこと。
不明瞭なのはいまのボクにはそのような話を聞いていられる余裕がなかったから。
当たり前だろう、目の前で助けられるはずだった友達……いや、恋人になる未来だった子が、この世界から消える瞬間を目撃してしまったんだ。
その日からずっとボクは個室でひとりビアンカとの思い出を振り返って過ごしていた
一緒にウェイトレスとしてカフェで働いていたこと、ギンノと元々仲間だったこと、実はラティアスという萌えもんだったこと、そしてアスフィアから能力を授かっていたこと……。
いつでも元気いっぱいな溌溂とした性格で、
みんなに笑顔を振りまいていた。
そのくせ性根は真面目でいい子なものだから、
仲間たちにツッコミ担当をしていて。
みんなの前だったらお姉ちゃん呼ばわりするのに、
ふたりきりだと呼び捨てで呼んでくれる。
思えばボクのことをアリスでも、
メルヘンロリータ的な渾名なのでもなくて、
"リース"っていう本名をもじった、
可愛らしい呼び方をしていたのはビアンカだけ。
長年連れ添ってきたのは確かに、
ゆんやグレア達だし、付き合いは短かった。
でもボクと背格好が似ていて、
親近感が最も身近なのは他でもないあいつだ。
もう一回だけ、もう一回だけでいいから……
自分の事をボクって呼んで喋ってほしい。
これが導なき世界に戻るってことなのかよ。
これが道標に囚われない自由な選択かよ。
ゆんと別れたあの時は、うゅみの判断だったから戻ってこれた。
けど、ビアンカは明らかにルール違反だ。それもアスフィアが企てて利用するために吐き捨てられた存在。やぶれたせかいには行けても、ここに居残れる情状酌量なんて無くて、容赦なく切り捨てられてしまった。
やっぱり無理やりにでもシロに願うべきだったか?
……そんな特別を許してしまっては、導なき世界に綻びが生まれてしまう。
オリジナルあっての箱庭だ、それをしてしまっては全部パァになる。
ボクがボクであるための理由も、仲間たちの人生も……。
百を救うために一を捨てたんだ。
しかもその百には自分が含まれている。
間違った選択はしていない、客観的には、間違っていない。
だったら!
だったらさぁ!
この胸の痛みはなんだ?この心の悔いはなんだ?
…………………………
分からない。
眠ろう。
深い微睡みに。
夢の中でなら、ビアンカと逢える、話せる、遊べる。
夢の世界に、閉じこもってしまおう。
もうアスフィアという脅威は消えた。
やぶれたせかいも平和になるだろう。
ボクがすべき使命はすべて果たした。
アリス「おやすみ……ビアンカ」
起きなさいーーー
アリス(……)
目を覚ましなさいーーー
アリス(・・・・・・)
シロ「武力行使ですーーー」
アリス「離せ!安眠の邪魔をするな!」
強引にベッドから引きはがされて、白色よりも白い純白のローブを纏う道標ことシロの膝の上に座らされていた。バニラアイスの香りが鼻孔につく。
アリス「なんだ?話によっちゃこのままお前の身体を一生ベッドにしてやる」
シロ「それは構いませんがーーー
トラウマから抜け出せないご様子ですねーーー」
頭上から透き通ったとか透明感があるとかじゃなく、透明そのものの澄み切った声色が響いてくる。どんな者であっても惚れてしまう御姿だが、今のボクにはビアンカの言葉しか届かない。話半分に聞き流してこいつをベッド代わりにしてやろうと画策して背中を預けて全身を脱力させた。鬱陶しいから頭を撫でるな。
アリス「トラウマ?まさか……
むしろ感謝してるよ、ボクに消えない幻想をずっと抱かせてくれてな」
シロ「それをトラウマと呼ぶのですよーーー
ふぅ。この点においてはブルーの方が優秀でしたかーーー」
アリス「ブルーは天才だ。最初の血族だけあって正義感にも使命感にも溢れているしそれに伴う実力と頭脳もある。後のことはブルーがやってくれるよ」
藪から棒にブルーの名前を出してきてイヤミか貴様?
シロ「ですがーーー
困難に打ち克つのみが優れたトレーナーではありませんーーー
ブルーになくあなたが持っているものがありますーーー」
アリス「問答ならばスイ相手にしてこい、お主は話の前座が長すぎる」
スイは会えずともべつに1mmぽっちも名残惜しく感じないが、スイのような者が2人も3人も現れるとただただ疲れるだけだ。
まだエキセントリックなメグが増えたほうがマシまである。
シロ「過程を経ずして結果は出ぬーーー
あなたの言葉ですよーーー」
アリス「それは実技の話だたわけ、会話は分かりやすく要点を纏めるんじゃい」
なんか脳内にマナのキレ顔と文句が浮かんできたが見なかったことにしておいた。
シロ「結論から申し上げますとーーー
あなたは必ず、そんな夢物語を言うでない!
と仰りますよーーー」
アリス「見えている罠に釣られん。申してみぃ」
シロ「ビアンカをーーー
ビアンカを連れ戻せる方法はありますーーー」
純白から言い渡された透明の言葉は、
ボクの瞳に使命という輝きを宿すのに充分すぎた。
アリス「そんな夢物語を言うでない!」
頭が真っ白になった。力量でも体格差でも敵わないというのに、気づけばボクはシロに掴みかかって押し倒していた。
違う。こうなると読んでいて、ボクの気が済むようにわざと抵抗しないで自分から押し倒されに行ったのだ。やり場のない怒りにも似た、もやもやとした昏い感情をぶつけさせてくれるために……。
転がるシロは動転していたボクの頬を両手でふんわりと包んで、不器用なほほえみを浮かべた。遥か大昔から人間と接した機会は数えるほどしかなかったであろう彼女から芽生えたての感情を間近に見せられたら、我に返るしかないと本能に訴えられる。
アリス「……ごめん、取り乱した」
希望を提示してくれた道標に謝り、体勢を戻そうと上半身をバネのように起こそうとする。そのとき胸倉をグイっと引っ張られ、ぽふんと布の擦れあう音とともに純白の両腕に抱きしめられたのだった。
バニラアイスの匂いがくすぐってきた。
シロ「当たりましたねーーー」
宇宙の誰よりも年上だというのに、ボクと変わらない子供みたいにいたずらな表情を浮かべて誇らしげに告げてくるシロ。取り留めのないように思えるこの一連のやり取りに、ボクは救われてしまった。
導のないこの原初の世界の中じゃ、シロであっても例外なく運命の予定調和は存在しない。
彼女は自由意思で、自分の心のままにボクと仲間であることを選んでくれていた事実を実感した、そのうえであまつさえボクのためだけにビアンカを連れ戻そうと声を掛けてくれたんだ。ボクは彼女の胸元に抱かれた頭を上げると全身を使ってよじのぼり、彼女への信頼の証としてそっと口づけをしてあげた。
アリス「……それで、どうやってその夢物語を叶えようっていうんだ?お主といえどもはじまりの掟を自ら破れんだろ」
誰の提案か知らないけどボク好みのファンシー模様のベッドのうえに、ふたり並んで座って話の続きをする。
シロ「まず話を戻しましょうーーー
あなたにあってブルーにないものからーーー」
アリス「その様な問いかけをされてもボクはあいつに詳しくない、黙って聞いてやるから思うように話せ」
情報なくては意見は出せん、意見なくては行動に移せん。
ペースを委ねてやるとどう受け取ったのか、ボクを持ち上げて向かい合わせになるようにして自分の膝の上にちょこんと座らせると頭を撫でだした。思うようにってそういう意味じゃなくってな。
シロ「あなたにはーーー
状況を打破する知恵、知恵を実現させる勇気、勇気をお仲間に与えられる絆がありますーーー
もちろんそれはブルーにも伴っております、それゆえにあなたたち二人にはわたしと逢う権利があるのですーーー
ではーーー決定的な違いとは何かーーー」
翡翠色の瞳が揺れ、あたりにミルキーウェイの星屑が降り注ぎだした。
シロ「アリス。あなたがーーー
最初の血族が生まれるよりも前の一度滅びたこの星でーーー
うゅみが生み出した人間の生き残りだからですよーーー」
そのカミングアウトを聞いた瞬間。時間が止まり、空間が歪んだ、世界が反転してしまったかのような、鈍くて強い衝撃が走って錯覚にとらわれていた。
アリス「な、なにをバカげたことを申しておりますの……?ボクは生誕して9歳の少女なんですのよ……?それに……」
パニックのあまりに、かつて育ての親代わりだったエリカお姉様みたいな口調になっていしまっていた、身を焦がされたように熱い何かが込み上げてくる。
シロ「まさしく星が落下しようとする寸前にーーー
あなたは現在のマサラに当たる場所で命を宿しましたーーー
萌えもんとトレーナーをより発展させるべく、気まぐれにうゅみが落とした生命の種から芽生えた最後の人間としてーーー
わたしはその奇跡を守るべくーーー
命の宝玉を星に授ける前にあなたをうゅみの元へ預けて秘密裏に守っていたのですーーー
来たるべき日まで、あなたの時間を止めてーーー」
アリス「っ……!?」
シロ「本来でしたらまだあなたは眠らせるつもりでしたーーー
しかしあなたの秘密を知ってしまった者の手によってーーー
あなたは導なき世界ではなく、その者がわたしを通じて願いを叶えたある箱庭で生まれてしまうことになってしまいましたーーー
その箱庭こそあなたが育ったあの箱庭ーーー
そしてその者は願いを永遠とすべく、えいこうのいただきを制しましたーーー」
アリス「その者とやらが、ボクを必要としたからか……?」
シロ「あなたには道標のチカラを与えられない以上、わたしは見守ることしか出来ませんーーー
そうして物心のついたあなたは想像の常識を超えた速さで成長していきーーー
遂に正しい手順を踏んでわたしと邂逅しましたーーー
わたしはあなたと逢う時をどれほど待ち望んでいたことかーーー」
アリス「……どうしてそいつはボクを願いを叶えた世界に呼びたかったんだ?いったいボクには何があるっていうんだ!?」
シロ「元々はただの少女としてありふれた一生を送るだけでしたーーー
しかし、うゅみはあなたを我が子のように寵愛しておりましたーーー
きっと滅びる瞬間に生まれてきたあなたに同情したのでしょうーーー
うゅみはある才能をあなたに種として仕込みましたーーー
いつか自らの手によって開花するかどうかを見極めてーーー
もし芽生えなければ切り捨てるつもりだったかもしれませんねーーー
その才能とはーーー」

うゅみ「おしゃべりねぇ、アンタ」
シロが言い切る直前に、十中八九タイミングを計算してきたであろう話題の張本人が虚空からシャボン玉のような物体をぷかぷかと宙に舞わせながら登場してきた。
趣味なのか魔法少女みたいな恰好を纏ったうゅみはシロの背後に着地し、シロ越しにボクと視線が合うようにして不敵に微笑んだ。
アリス「うゅみ……!」
シロ「相変わらず良いお趣味ですねーーー」
うゅみ「この子と会った時に自分のモノにしようとしていたアンタにゃ言われたくないわぁ。おハロー、アリス、いい子にしてたかしらぁ」
アリス「いい子もなにも……ずっと見ていたくせに」
うゅみ「当たり前じゃなぁい、あたしはアンタとマナのふたりはずぅっと見てあげてるわぁ。たぁいせつな子供なんですものぉ」
こうやってまともにしゃべるのはいつ振りか思い出せないものの、相も変わらずどこまでが本当でどこからが冗談なのか判別しきれない、独特な言い回しは健在だった。
さっきまで衝撃の事実のオンパレードで混乱していたが、うゅみを見るとなんだか頭がすっきりしてきて、初日の出を眺められた時くらい気持ちが穏やかになっていた。
アリス「あっそ。聞きたいことはいっぱいあるけどもそれはまたの機会だ。シロが言おうとしていた続きを聞かせてくれ」
視線を合わせていたのもつかの間、うゅみは宙に浮きだすと嘲笑うようにくるくると部屋中を舞いながら質問に答えた。
うゅみ「アンタには”希望”を叶えられる才能があるのよぉ」
アリス「希望?」
シロ「まどろっこしいですよーーー」
うゅみ「シロちゃんとはいやぁ~なとこばっかり似ちゃうわねぇ。ん~そうねぇ……アンタが今日まで歩んできた物語はぁ、希望に満ちていたはずよぉ」
そう告げられて、ボクはゆんたちと大団円……もといやぶれたせかいに旅立ってからの冒険と、帰ってきてから七英雄を巡る冒険、そしてこの導なき世界に還ってからの冒険を映画のフィルムのように思い返してみた。
それに連なるようにして、いつかメグとも話をしていたボクが大好きな絵本のストーリーを重ねながら……。
アリス「自分で自分を振り返ってこういうのもアレだけど……紆余曲折あれどその紆余曲折のおかげで最後はまるく収まっている気がしないでも」
うゅみ「それはぁ、ぜ~んぶアンタの希望ある行動がもたらした結果よぉ。形や思想こそ違ってもぉ、アンタと接してきた子達はみ~んなあぐれしっぶな活力に満ち満ちていたんだものぉ」
それはライバルとして立ちはだかってきたギンノを主に指しているつもりか。その中にサトミやヒガナといった奴等も含まれてるだろうが、最後にでかいでかい大物をしょっ引きだしてきたのは、確かにギンノ本人には違いない。
それにギンノだって最初はただシンプルに強さに磨きをかけ続けるエリートトレーナーの一端に過ぎなかったはずだが、ボクと出会ってからはその強さに意味を見出すようになって、最終的には野望までもを引っ提げて目の前に現れてきたくらいで。
もちろんそれも、ひとつの希望。
…………待て。だとすれば、どうしてもやはり一つ引っかかる。
ビアンカのことではない、ビアンカに対してはボクの主観でこそやる瀬のない悲しさが一番前に出てきてしまうけど、あいつ本人にとっては、希望をしっかりと胸に抱かせて在るべき世界へと戻っていけたんだ。
疑念を確信にするために、ひとつ質問を重ねてみる。
アリス「えいこうのいただきについて教えてくれ」
ここまで全くのノーヒントの癖して地名だけはたびたび頻出するこの名前。今のままならば、別にそこへと行く理由が見つからない。
シロ「その名の通りわたしと出逢えるほどの正しさとーーー
ユリから認められた強さを手にした者のみが入れる秘境ですーーー」
アリス「……それだけ?」
シロ「元来はそれだけなのですがーーー
アリス。あなたがビアンカと再会を果たすにはーーー
そこへと向かう必要がありますーーー」
長かった話題の遠回りもここで本題へと収束してきたか。
ボクが最も気になっている部分だ、ただビアンカと再会できるといえば簡単だけどそのためには導なき原初の箱庭をこれまで通り守ったうえで、これまでボクが過ごしてきたあの箱庭にも前の騒ぎみたいな不都合を起こさない必要がある。
果たしてそんな都合のいいやり方が実在しうるのか?
シロ「なぜならーーー
あなたの存在を知ってわたしを通じーーー
自身の願いを叶えた者がいるからですーーー」
アリス「だからそれがどう繋がるんだって」
もったいぶる言い方をするシロに対して、うゅみが口を挟んで代わりにとんでもない答えをぶつけてきた。
うゅみ「その子の願いはぁ、この最初の宇宙と自分が住んでる宇宙を繋げちゃってその宇宙にアンタを送り込む、なぁんていう途方もない願いだったのよぉ」
アリス「規模」
何を言っているのかスケールが壮大過ぎて思考が追いつかなかった。
え?ここは導なき原初に創られた星だから手を出せないんじゃないのか?
もう何から何まで破綻しまくっていて支離滅裂じゃないか。
うゅみはぽかーんとしている様子を見てくすくすと笑いながら続けた。
うゅみ「勘違いしてないかしらぁ?あ・く・ま・でぇ、シロちゃんが自分の手は付けないって掟を課してるだけなのよぉ。願いをかなえるっていう形のこれだったらうまぁくすり抜けられちゃうしぃ、なによりも不思議に思わなかったのかしらぁ?
アンタの仲間たちは最初のお星様で誕生してるのにぃ、アンタと一緒に違う宇宙でもおんなじよ~うに両立していることぉ」
おいおい……常識を逸脱しただとか前提からして間違っていただとか、そんなちゃちなモンじゃあ断じてねぇ、もっと恐ろしいものの片鱗を見せられている。
奇妙なことにそんな無茶で道理が引っ込んでくれれば、ぜんぶ辻褄が合う。
まずここに最初の宇宙がある、そしてもうひとつ宇宙がある。
それぞれ萌えもんが住んでいる星がひとつずつあるとしよう。
その宇宙と星は別個で繋がるわけがないのだが、そいつの願いが叶えば
組み合わさったひとつの宇宙に、もともとあった星2つが出来る。
もちろん星同士を繋げることはできないが、この宇宙で起きた"宇宙規模"の歴史や事変は2つの星に共通して影響が発生する。
するとどうなるか?
たとえば一つの星に一個体しか現存しない萌えもんがいたとする。
じゃあその萌えもんがその星からいなかったら異変か?
ノー。萌えもんにはデオキシスやジラーチみたいに宇宙に存在する個体が実在する以上、星に住むトレーナー目線からすればそういう生態の萌えもんと認知されているから。
例を変えて萌えもんではなくって人間だったらどうだ?
その人間は当然一つの星に一個体しか現存しない。
しかし宇宙が繋がった以上もう一つの星にも同一人物が現存する。
その人間同士は記憶や経験が合致した同個体か?
ノー。それぞれの星の人間にはそれぞれの人生がある。
そう、まるで平行世界のようにね。
というか無秩序に生命の息吹を与えられた萌えもんと違って、人間に関してはもうひとつの星にはそもそも存在していない可能性もある。
その例は萌えもんにも当てはめられる。
そして人間・萌えもん・すべての生命体にも通ずる。
例外があるとしたら全宇宙に一個体しか存在していないシロやユリのような超越された存在だけで、そいつらはこの宇宙と星そのものを創造した張本人だから。
萌えもんトレーナーに不都合が起きないように自分に似たコピーをそれぞれの宇宙に配置させているが、そいつらはあくまでも依代であってそういった能力は持っていない、ただの萌えもんたちと同列の存在だ。
ゆんが並行された宇宙を旅して出会ったというボクもまた、きっとその依代みたいな存在でうゅみあたりが適当に用意しておいたのだろう。
というかそれについてはうゅみが適当な存在しない記憶を面白半分で流しこんだ可能性も高いし、信憑性は皆無。議論の余地なし。
ともあれその願いが実現されたのが真実であるんだったら、今まで抱いていた疑問点は解消された。ボクは生を受けた星こそ此処だけれど冒険をしてきた星はもうひとつの星というだけで、願いによってあくまでもこの星に還ってきただけに過ぎない。
ゆん、グレア、メグ、アークもそれに同列。
ビアンカに関しては生を受けた星があっちなんだ。そしてギンノ達と会ったのもあっち、ボクと冒険をしていたのもあっち。完全にあっち側の存在。
だから”同じ宇宙に共存する”この星に来てしまうこと自体がイレギュラーだった。
だったら解決方法は非常にシンプルかつスマート。
この願いを叶えた本人の口からこの願いを取り消してもらったらいいだけ。
さすれば宇宙が切り離されて収束される。
ビアンカだけでなく、ギンノとクオーレもこの導なき世界の一員として迎え入れてもなんら不都合はなく整合性も図れるようになるんだよ。
そしてそんな願いをシロに要求した人物は見当がついている。
”ボクの冒険そのものを希望としていたトレーナーがいる”
アリス「スズランが、いるんだな」

うゅみ「ご名答ぉ。アンタの物語はぁ、あの子の手で始まったのよぉ」
シロ「これ以上の改変は看過できませんーーー
あなたの生まれた意味をーーー
あなたが証明させるのですーーー」
うゅみとシロに促され、自身の決意を固めたその瞬間
ばたばたばた、とドア方面から雪崩れこむ音が聞こえてきた。
予想していた。ボクの愛する仲間たちだった。
モンスメグ「《本を閉じて、とっておきを着てドア開け飛び出そう、
恋する少女を、世界はきっと待ってる。》」
話をぜんぶ聞いていたのか、ボクの大好きな絵本の最後を飾る一節を口にするメグ。そうだな、物語の行方はボクが決めてやる。
6号「私が栄光を手にした暁には、この爆裂魔法を世界に広めて差し上げましょう」
やめてくれ。超新星でも起こす気か。
グレアット「神様を騙すような不届き者には、粛声の炎で罰してあげますっ!」
神様として正当に扱ってるのお前だけだから、シロが泣いて喜んでいるぞ。ここまで感情を豊かにさせてあげられるなんてやっぱ最高の巫女だよ。
カルマ「あーあー、このぼくのことも騙しやがって。ぜってぇ泣かす」
そういえばオーレ地方でお前と出逢ったっていう件も、あれ結局自分の目的の為に利用したってことになるよな。どんまい。
ゆん「アリスちゃん。あなたと私の希望はずっと一緒よ。あとで、ティータイムにしましょうね」
……好き。
うゅみ「あたしも戦ってあげるわぁ。アンタへの責任はぁ、ぜぇんぶあたしの責任だものぉ……身を挺して子供を守るのが親の役割よぉ」
一片たりとも親だなんて思ったことないしこれからも思わない。
でも……ボクの生命を護り続けてくれて、さんきゅ。
シロ「アリスーーー
わたしは、あなたのおかげでーーー
変わることが出来ましたーーー
この星を、宇宙を、皆様をーーー
あなたを愛しておりますーーー」
美白よりも純白なその肌がほんのり赤くなったのを見逃さなかった。
アリス「みんな!
この戦いは……この思いは……今までみたいに振り回されたり流されるがままの行き成りなんかじゃない。誰かのために尽くすわけでもない。
これは、はじめてのボクの戦いだ!
ボクのために戦ってほしい!」
意気揚々と立ち上がってエプロンドレスを正すと、金色のおさげを揺らしながら、みんなに向かって決意を表明した。
ボクの気持ちを、皆の気持ちを、ひとつにしてほしい!
そう宣言して意気込むと、誰からともなく笑い声が漏れてきて、次第にわらわらとボクを囲んで、みんなして笑顔で包みこんできたではないか。
アリス「え?……ふぇ、ボクなんかへんなこと言っちゃった?……うぅ」
急に肩の力が抜けてきて自信が消えていきそうになった。
今から決戦だっていうのに緊張感はカケラも残っていない。
ゆん「なに言ってるのよ。私たちはずっとアリスちゃんのために戦ってきているのよ。言われなくたって、絆で結ばれてるんだから。ね?」
グレアット「私はアリスちゃんだけの巫女さんですよっ」
6号「爆裂をさせてくれるのはアリスさんだけですからね」
カルマ「時を渡ってでもあーたんを守るじゃんよ。言わせんな恥ずかしい」
うゅみ「ほーらぁ、お子様はお子様らしくしてればいいのよぉ」
などなどみな三者三様に持て囃されしまった。もみくちゃにされるなかで、こういったやり取りを一番好みそうなエキセントリックスターは、亜麻色に光り輝く髪をふぁさりとほどいて仲間たちのなかに割って入ると、ボクの手を握って走り出した。
モンスメグ「行こ☆」
これまで見せたことのない表情に、目を離せないで魅せられていた。
アリス「……うん」
音速で駆け出していくメグを追うようにしてみんな思い思いに飛び出してきた。
モンスメグ「言ったでしょ。メグがいちばんって」
アリス「言われたかな」
モンスメグ「じゃあいま言ってあげる」
メグは手を引いているボクをそのまま片手でひょいっと宙に持ち上げて、お姫様ごっこの要領で持ち運ばれてしまった。
モンスメグ「メグがいちばん!宇宙で可愛くて☆強くて☆速くて☆
いちばんアリスを愛してる」
アリス「そっか。ボクも愛しているよ」
モンスメグ「…………やっと言えた」
アリス「なんか言ったか?……ところであいつらはシロが案内するからいいとしても、先頭切って場所知ってるのか?ボクはえいこうのなんたらなんてどこにあるか」
後ろに目をやってもこいつのダッシュ速度が異常すぎて、空中を飛べるはずのゆんとグレアですら姿形も豆粒すら観測できなかった。
モンスメグ「なに言ってるの?このまま~、メグと愛の逃避行☆敢行ツアー☆」
ご丁寧に逃避行にランナウェイと後付けでルビを振ったりしちゃっておちゃめ機能がついてるんだなぁ~……。
アリス「お前が何言ってんだ?アホ言ってないでさっさと合流しろ」
意識が逸れたおかげでいま気がついたけど、そういえばグレアから渡されたやすらぎのすずのペンダントが首に掛けられていなかった。ひょっとして落としちゃったのかもしれない、なおのことさらブレーキをかけてUターンボードしてもらうよう催促する。
アリス「待て、お前がいきなり走り出すから落とし物した、マジで怒るぞ。いかりのボルテージMAXになる」
モンスメグ「これ?」
お姫様ごっこしながら猛ダッシュしている最中っていうのに器用に指先からやすらぎのすずを見せるメグ。なんだ、ちゃんと保管してくれていたのか。
アリス「それそれ、返せ」
けれども一向に返してくれる気配は無く、その鈴をスカートのポッケへ仕舞いこんでしまう。気がついたら、トキワシティに到着していたようだった。
タマムシからダッシュでその間だいたい数分、なんつー出鱈目なしんそくだ。
ここに来てようやく、メグは足を止めて見慣れているトキワの筈なのに見覚えのない川の通るフェンスへ腰を掛けた。ボクとの手は繋がせたまま。
アリス「……なあ」
どうしてここに来たのかは読めない、そもそもこいつの思考は全く持って読めない。
うゅみですらメグの思考ルーチンは解読不能に違いないだろう。
とにかく合流したいという気持ちとメグが何を思っているのか知りたいという気持ちが合わさって焦燥感に追われていた。
モンスメグ「安心して。ラストダンジョンはカントーとジョウトの境目だってメグちゃんアイが告げてる☆」
アリス「マジかい」
それが本当なのかどうかは知りようもないけど、メグはボクを本当に困らせるような真似だけはしない、それだけは確証を持って言える。
アリス「メグ」
モンスメグ「これってグレアたんからもらったの?」
チリーン、と涼しげな音を鳴らしながら指でつまんでぶら下げるメグ。風鈴じゃないんだからそんな粗末な持ち方をするんじゃない。
アリス「あぁ」
モンスメグ「へぇ……エレエレしたら怒る?」
アリス「絶縁」
モンスメグ「絶縁体かぁ。電気が通るように考えなくっちゃね」
アリス「……メグ?」
ふと目を覗き込んでしまった。
覗かなければよかった。
深淵を潜むとき深淵もまた……なんてよく言ったものだ。
いつも眩しいくらいにキラキラ輝いているメグの瞳が、
吸い込まれてしまうそうなほど真っ黒だったから。
恐くなって顔ごと視線を背けてしまった。
ドクンドクンと心拍数が急上昇しているのが分かる。
こんなメグを見るのははじめてだった……。
読めない。分からない。知りたくない。
……どうしちまったんだ?
それもこれから大切なバトルが控えているこの局面で。
モンスメグ「ねえ」
彼女の口ぶりから電波じみたトーンは消えていた。
真剣に向き合うシーンに出す大人の女性の声だ。
エリカお姉様やナツ姉の声色ですら子供っぽく感じてしまえるほどの。
かといってスイやクノエジムの人たちのように妖艶でもなくって。
ギンノやカンナみたいに冷たい印象がするわけでもない。
理解しているつもりだ、このメグこそ本来のモンスメグ。
三聖獣のひとりであることにプライドを持つ伝説の萌えもんの姿。
でも……なんでいまそうなっちゃうんだ?
モンスメグ「返事は?」
アリス「ひゃいっ」
モンスメグ「……はぁ」
メグちゃんに従っておこう。アリスは考えるのをやめた。
こいつの気分が晴れるまでとことん付き合おう。
モンスメグ「ちっ、これGPSあんの」
なんか舌打ちが聞こえてきたけど気のせいだろう、アイドルを目指すメグがそんなはしたない真似なんてしないもんね、うん。くわばら……。
モンスメグ「なに怯えてんの。きみを取って食べるわけないでしょ」
アリス「みゅー」
モンスメグ「うざ。ちょっと話あるから聞いて」
うざ!?きょうびガラル育ちミニスカートのギャルでも言わないのに!?
あれ、ひょっとしてメグってガールフレンドになったら素を出すタイプ?
NEEDY GIRL OVERDOSE 超めぐちゃんなの!?
突っ込んでる場合じゃない、迅速に返答をしなきゃ……。
アリス「いいよ……」
モンスメグ「勝算ある?」
アリス「スズランに?」
モンスメグ「勝算なんてなくたってかまわないとかやめてね」
危ない、生返事ひとつで10まんボルトを落とされかねないとこだった……。
ボクはスズランのバトルを振り返ってみた。
はじめはハナダシティでの一戦。それとギンノとの初戦。あとは……ボクが居ないところでこいつらが見てきたかもしれない。
繰り出した萌えもんはたった一匹。
パティエ・ローレルとニックネームのついたロコン。
ギンノいわくデルタ種の特別なロコンらしい。
あのパティエの戦闘力は正直いって格が違う。
平然と同時に異なる6本のエネルギーを帯びた波動砲をぶっ放すどころか、威力単位でみてもメグのエレエレ、グレアのおくりびに匹敵するかそれ以上の攻撃が6本それぞれに込められていて、総合力で見ればエクスプロージョンレベルだろう。
……それだけでも厄介だが、あの抜群なコンビネーションも見事だ。
あの知性からするに、たとえスズランがおらずともミッションを遂行できるのは想像に難くない。伊達にカルマやシロを圧倒してはいないだろう……。
これまでは味方に近い中立として助けられてきたが、敵として立ちはだかった場合、突破口を見出さなければならない。
それこそシロにとてつもない願いを要求するほどの行動力と頭の回転の速さを誇るスズランの虚をつけるような、正攻法ではとてもじゃないけど無理かもしれない。
モンスメグ「あーもういいや」
アリス「ふえ?」
モンスメグ「考えこんでる時点でおわおわり。みんなを信じてるとか、まやかしの希望持たせんなってゆーの」
アリス「……」
泣きたい。もう泣きそう。表面張力ぎりぎりまで涙目になっちゃった。
急になんなんだよぉ。ボクはぎゅっと自分のスカートの裾をつかんで涙を流すのをこらえた。
モンスメグ「あのね。自分のバトルって胸を張るからには、ぜ~~~~~~~~~~~~~~~~~~ったいに負けちゃダメ」
アリス「負けるなんてひとことも」
モンスメグ「黙れ。アリスちゃんはね、いままでずっとみんなに甘えて任せっきりのバトルしかしてきてない。ルール無用とか奇策とか盤外戦術で乗り切ってきたつもりなんだろーけど、あれふつうに反則だからね。トレーナーカードパクられるって」
ぐさーっ!
ここにきて正論すぎる正論を叩きつけられて、ぐうの音も出なかった。
あと黙れって言われた。
アリス「でも」
モンスメグ「でもじゃないロリガキ。でも今まではそれでやり過ごせてきたから、次もそうやって勝ちを拾うって言うつもりだったら、もう二度と口きかないから」
アリス「ろりがき……」
モンスメグ「相手がはじめっからトレーナー精神に則らない輩だったり、そういう変則試合を許可してくれてたバトルだったら、メグも好き放題にやってあげてたよ?
だからメグは公式ルールに則ったバトルはしっかりとトレーナーシップに則って戦ってきた。アリスちゃんの顔を立てるためにね」
思い返すと確かに何回か機会のあったターン制のバトルでは、ボクは具体的な指示命令は出してきていなかった。メグやみんなに委任して、ボクがしてきたことといえばメグ不在のみかんとの公式ルールにおいても虚をついて勝利を得たものの、ジャッジのスイが特例を出してくれたから許してくれていた話だ。事実あのあとにスイから修行を課せられたし……。
それに伝承者のヒガナとも形式上は公式ルールだった。途中で竜騎士としてヒガナ側がそのルールを破ったからこそ、こっちも意表を突く戦術を取れたようなもの。あのまま最後までしっかりと続けていればどうなっていたか……。
記憶に新しいケミカルでの研究員ナガタとのバトルでもメグは公式に則り続けていた。
もちろんすべての試合においてメグは独自のオリジナルわざを披露し続けていたが、萌えもんのわざは日に日に研鑽され続けて増えていくいわば進化のようなカテゴリだ。そのような指摘など重箱の隅を楊枝でほじくるようなもの。
モンスメグ「自分の戦いにはね、ポリシーがいるの。絶対に負けないためのポリシー。今のアリスちゃんじゃ、トレーナーとしては0点。補習組。免許剥奪」
アリス「そこまで言わなくても」
モンスメグ「いいや!"限界"だっ、言うねっ!」
文字の額面通り、くろいまなざしをこちらへ向けるメグにすくみっぱなしだったボクはがまんしていた涙が決壊して、泣きじゃくってしまう。
それでもメグは真剣な顔色を一切変えないまま、助言をしてくれた。
モンスメグ「泣いても逃げてもいいよ。ただ諦めないで。
メグがアリスちゃんを一人前の女の子にしてあげるから」
めちゃめちゃ苦しいはずなのに、ふいになぜか勇気とパワーが湧いてくるのは、めちゃめちゃ厳しい発言をしてきたメグが不意に見せた、優しさのせいだったりするのかもしれなかった。
アリス「メグ……」
モンスメグ「アリスちゃんは賢い子だから、絶対だいじょうぶだよ」
涙を拭ってメグと向き合った。
メグの瞳は、いつものように煌めいてはいなかったがさっきまでの底の見えない暗さでもなく、ただ真摯に一点の未来を見つめる情熱の赤に光っていた。
グレアット「あっ!やっぱりここにいましたっ!」
ゆん「探したのよ~!」
6号「グループの輪を離れるわるいごはいねが~」
カルマ「かったりぃ……」
ボク達を探してくれていた様子で4人が駆けつけてきた。いつの間にやら首元に視線を落とすとグレアからもらったやすらぎのすずのペンダントが掛けられている。シロの姿が見えないが、先に目的地で待ってくれているんだろうか。
アリス「みんな!」
手を振って声に応えると、メグは手を振っていたほうの腕をつかんで制してきた。
モンスメグ「ちょい待ち☆」
ゆん「どうしたのよ」
6号「この期に及んでなんですか」
モンスメグ「あっちでアリスちゃんを一流のトレーナー補完計画☆
名付けて愛と勇気の大作戦☆彡」
メグは川の水源らしき地下へと続く洞穴を指差してボクの稽古づけを高らかに提案した。普段と違っていたって真剣な面持ちのメグを見て、みんな腕を鳴らして答える。
グレアット「素晴らしい讃美ですっ!」
カルマ「しゃあねぇな~」
6号「アリスさんの甘ったれた根性をビシ!バシ!叩きなおしてあげましょう!」
ゆん「覚悟はよろしくて?」
アリス「…………にげるコマンド!」
モンスメグ「勝負の最中に背中は向けられない☆」
かくしてボクは本物の萌えもんトレーナーとしてはじめての自分の戦いへ向けて、仲間たちとアンダーグラウンドでいちから出直すことになったのだった……。
シロ「本当にーーー
素晴らしい仲間をお持ちになりましたねーーー」
part49へつづく!

スズラン(アリスたん。本当にキミは、私の天使なんだよ)