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《Ride On The City》救星の明るい夜 Part4

競技巡回編Ⅲ


カイナシティ
ヒトとポケモン、そして自然が行き交う港。

ハギ老人のボートでボクたちはカイナシティへと到着した。
6号が海の家にあるサイコソーダのキャッチに引っかかって、1ダースも抱えて持ってきやがったので残った9本はひとりでイッキ飲みしてもらったが。

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グレアット「ここにおられるお方達はっ、太陽をよく浴びてらして素晴らしいですねっ。祝福あらんことをっ……」
ゆん「勧誘しちゃだめですよ」
モンスメグ「わー!なにあの博物館おもしろそー☆」
6号「げふっ……待ってください……」
アリス「お前が悪い。ほらメグ、そっちに用事ないから突っ込むなー

ポケナビゲーターの情報曰くどうやらこの街にジムはないらしいし、さっさとキンセツシティという3つ目のジムがある都市に向かいたいところだ。
お祈りをすませたらしいグレアットがトコトコとボクの後ろをついてきた。
6号は、ゆんに介抱されながら二人三脚状態。この3人はいいとして、厄介事を持ってくるのはいつも……
モンスメグ「あー!アクア団の人たちー♪」
ほらいらんことしてきた。
もう知らん、ボクは無関係を装ってそそくさと出店が立ち並ぶエリアへ入るとグレアットが子供のようにキラキラダイヤモンドのように輝く瞳で商品を眺めだした。

グレアット「ほわー……っ」
アリス「なんかあったのか?」
グレアットの視線の先へ目をやるとそこには鈍い銀色に光る鈴が置いてあった。
アリス「これほしいん?」
グレアット「えっ、あ、いえっ!」
分かりやすく動揺するグレアット。
ボクはその鈴を手に取ると、店員さんに会計してもらう。
グレアット「わ、悪いですよっそんなっ!」
アリス「いーよ2000円くらいなら。あのアホと違って良心的な値段だし」
あの支払いのせいで経済が一転してカツカツになったのは事実だが。宿泊代と食事代を財団が受け持ってくれていなければ野宿してたところだ。
会計を済ませると、ボクはグレアットの巫女服にやすらぎのすずを付けてあげた。
おお、めっちゃ似合うじゃん。
グレアット「あ……っ」
アリス「なんでもこれを付けてると、なつき度が上がりやすくなるんだってよ。まぁいまさらたうんって感じだけど」
グレアット「……うれしいっ」
ぎゅーっと精いっぱいの力でハグしてきたグレアット。
ボクはその暖かな抱擁に頭を撫でて返してあげた。

さて、済ませることも済ませたしメグちゃんを連れてきて……
6号「くくく、我がナンバーシックスとは世を忍ぶ仮の名。私に相応しき邪王真眼がこの先に」
アリス「姓名判断士のとこ寄ってる時間とかねーから行くぞ」
ずるずる
6号「あー!待って、待ってください!私の真名が解放され」
6号を引きずりながら、メグが駈けていた博物館へ行くと確かにアクア団員たちの群がりが出来ていた。

モンスメグ「はーい、並んで並んで♪」
なんか彼女を中心にした行列になってた。
え、アイドルの握手会かなにか?
メグは、アクア団員たちになにやら色紙を渡しているようだ、ほんまにアイドルやないかい!

アリス「なにやってんのお前」
ボクは群衆シミュレートしながらかいくぐるとメグの隣に立って質問を投げる。
モンスメグ「あ、ありすちゃん☆メグはこの地方でアイドルマスターしちゃうのだ♬」
パッションアイドル確定だな。
アリス「プロデュースしねえからな。てか何でこんなことに」
6号「すごいですよ、男女問わずこの人気……これにあやかれば私の備忘録のページも分厚く!」
ゆん「なりません」
6号「ガガントス!」
グレアット「これだけ信者様がいらっしゃれば、私の信仰力もっ

グレアたんお前もか。
このままじゃラチがあかない、ボクはメグの腕をつかむと集団の外へと連れ出した。
モンスメグ「きゃ、ゴーイン♪みんな、まったねー☆」
アクア団したっぱ「メグメグ、デビューシングルまってるよー!」
ダメだこの悪の組織、早くなんとかしないと……。

110ばんどうろ

6号「ほう、カラクリ屋敷とな」
ゆん「ろくちゃん、悪い勧誘に引っかかりそうですね」
アリス「もう引っかかったけどな」
グレアット「寄り道していかれるんですかっ?」
アリス「んにゃ、さっさとジムを巡る。伝説のポケモンの手がかりを知るには、バッジ揃えたほうが何かと都合いいからな」
モンスメグ「ちがうよ!メグちゃんのコンテストがドリーム☆」
6号「ちゃうわい!」

キンセツシティ
明るく輝く楽しい街

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全然明るくないし楽しくなさそう!
アリス「なんか聞いてた情報と違うな……」
6号「うーん、私が居たころは確かに栄えてましたけどこれほど大きくは」
グレアット「財団の影響でしょうかっ?」
アリス「それも考えたけど、これまで来たところはあまり手が加えられてないと思うんだよな」
ゆん「探偵!ロケットスクープですね」
モンスメグ「複雑に入り組んだ現代社会に鋭いメス入れちゃうよー☆」
誰かツッコミ役を派遣してくれ。カムバックカルマ。

とりあえず街中を散策していくことにしよう。
商店街のような作りとなっており、ゲームコーナーからサ店、トライアルハウスやヒルズまで立ち並んでいた。うわ、リフレもあるのかここ。
タマムシシティとの共通点の多さに、デジャヴを感じる。
6号「見てくださいこのレストラン!私の好物であるコイル焼きがありますよ!」
アリス「5000円もすんのかよ!却下!」
モンスメグ「ねーねーありすちゃん、このリボンかあいい~♡」
へー、なかよしリボンなんてあるのか。ご利益ありそう。
アリス「って、ゴージャスロイヤルリボン999999円!?」
モンスメグ「メグちゃん自分のお金で買うよー?」
アリス「めっちゃブルジョワだねメグちゃん!」
グレアット「見てくださいっ、なつき度MAXならほのおのちかいを覚えられるみたいですよっ!私たちならお似合いかもしれませんっ……きゃ♪」
アリス「御三家限定だけどな」
ゆん「あら……あちらに見えますのはミツル様?」
アリス「ん?」
ゆんが指差すほうを見ると、ジムらしき建物がありその前にミツルの姿があった。
ジムに用事があることだし、ボク達はそこへ向かうことにした。

ミツル「よーし、いよいよ挑戦するぞ……」
モンスメグ「みつるんやほやほ☆」
ミツル「わ、モンスメグさん。それにありすさん達も」
ゆん「ジムへチャレンジなさるんですか?」
ミツル「はい、せっかくだから腕試しがしたくて」
6号「ラルトス1匹で、ですか?」
ミツル「うっ……でも、一生懸命育てたんだ!」
グレアット「その志は立派ですが、お気持ちひとつだけで上手くいくほど甘くはないですよっ」
見れば確かに、モンスターボール1つしか腰につけていない。
療養と聞いていたから、おそらくこの近くに住んでいるのだろう。だとすればミノリさんだったか、その人に送迎してもらったと考えるとあまり育成はしていないように思える。ラルトスが進化していないことも先ほどの会話で裏付けが取れているし。
ミツル「……グレアットさんがそういうのなら、そうかもしれない……わかったよ!ぼくもっとがんばってきます!だからその時はお相手お願いしますね!」
アリス「うちの子たちは強いぜ?」
ミツル「はい!あなたの背中とグレアットさんの翼を追いかけていきます!」
溌剌とした声でそう言うと、彼はダッシュで立ち去って行った。

グレアット「きっと、あの子は強くなりますっ。私信じていますからっ」
ゆん「ええ、まっすぐな眼差しをしていましたもの」
そこふたり、どうしてボクの目を見ながら喋る。
モンスメグ「ねーねーはやく行こっ☆」
アリス「ああそうだな……って、あいつは……?」
周囲を見渡せば、6号の姿が見当たらなかった。
勝手な行動はとっても、勝手に失踪はしない程度の礼節はわきまえてる奴だからなおさら不可解に思えた。
ゆん「あら、先ほどまで居ましたのに」
グレアット「そういえば、アイスがどうこうって呟きながらうろうろしていましたっ」
アリス「アイス…………?まぁいい、とりあえず悪いけどゆんは6号を探しに行ってくれないか?」
ゆん「かしこまりました。ご武運を」
羽根を広げて、大都会の渦へと翔んでいくゆん。
アリス「じゃあテッセンのとこに……」
ジムのドアを開こうとすると、メグがいつになく真剣なトーンで啖呵を切った。

モンスメグ「いいよ。メグちゃん1人でやれるから」
グレアット「で、ですが万が一ということもっ」
モンスメグ「グレアたんでんげきでイチコロ☆でしょ、ろっくんのオトモダチなら探しに行ってあげて」
確かにそれもそうかもしれない、それにメグの自信過剰は実力と実績から積み上げられた性分。ボクは、彼女の提案に賛同することにした。
アリス「……んー、わかった。グレアット、6号を頼んだ」
グレアット「は、はいっ!必ずや見つけて参りますっ」
翼を広げるとちりんちりんと鈴の音を鳴らしながら、大都会へ飛んでいった。
心配が残るがここは2人に任せよう。気を取り直して、振り返ると一瞬メグの口元がにやけているように感じたが、この子はいつもマイペースなので気にすることなくキンセツジムへと挑戦しにドアをくぐった。

キンセツジム

室内は広場と一本道だけのように見えるが、電流の走るゲートが障害物となって立ち塞がっていた。おそらくあちこちに配置されているスイッチを使って切り替えていく仕掛けなのだろう、まずは法則性を見つけて……。
モンスメグ「えーいっ☆」
メグの指先から放たれた電撃ひとつで、電流の供給がショートしてしまい仕掛けをブレイクスルーしてしまった。
モンスメグ「えっへへー、すごいでしょ☆」
メグは誇らしげそうにはにかみながら、ボクの腕を組んで絡めてくる。
その一瞬の出来事にたじたじしながらも、とりあえず一言だけ軽く褒めておいた。
モンスメグ「むー……ま、いいや♪さーレッツゴー☆」
メグに引っ張られていく形で、ジムリーダーのもとへと直進。
待ってお前の足に合わせられたらボクの足が浮くんですけどちょっと。

テッセン「がっはっは!よくぞ参った!わしはニューキンセツのプレジデント・テッセン!その雷雲、ライコウと見たぞい!」
モンスメグ「おじちゃんでんきタイプに詳しいんでしょ?だったらいさぎよく参ったって降参してほしーな☆あ、さっき言ったか~♪」
テッセン「ジョークが上手いのう!さすがはジョウトの聖獣といったところか。そのセンス、わしの下で光らせる気はないか?」
いきなり引き抜きと来たかこの社長。
おそらくこの街をリフォームしたのは彼で間違いないだろう、その手腕は本物だろうがポケモントレーナーとしてはまた別でっせ。

モンスメグ「ピカピカするのは、ピカチュウちゃんとおじちゃんの頭だけで10ぶんボルトだよ★」
テッセン「偉大な相手というのは輝いて見えるものじゃぞ!」
モンスメグ「まぶしい理由のほうは聞いてないけどー?」

 

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テッセンは ビリリダマを くりだした!
モンスメグ「バクタンボールだー☆」
あったなそんな図鑑説明。

テッセン「こやつはスピードに秀でておる!仕事とは速さが命!」
モンスメグ「速さ比べなら負っけなーい♪」
メグは、ジムのフロアに一撃パンチを与えると、さらに1/75秒の速さで二撃目のパンチを送ることでフロアの抵抗を中和し、衝撃を完全に伝え地面越しにビリリダマへとばくれつパンチをお見舞いした!
なるほどこの方法なら、命中50×2で100ってわけだ!
アリス「なかよしバッヂ越しでなきゃ見逃しちゃうね」
ビリリダマは物理防御が低いポケモン、確実にこれで落とせるはずだ。
テッセン「身を削ってこそ労働と呼べるのじゃ」
ビリリダマに衝撃が伝わった瞬間、それを引き金に丸い体が発光し始めた。
やばい、あれは!

ビリリダマの じばく!

アリス「やろう、自分の手下をなんだと思ってやがる」
爆風が晴れていく。メグの傷が気がかりだったが、まるでダメージを受けていなかった。
モンスメグ「きゃは☆ろっくんのエクプロのほうが5000兆倍すごいけど?」
ファインプレーだぜ6号!
本人不在のときに出番が来るとはオチ担当を全うしてるな!
テッセン「使えんのう。行けいレアコイル!」
3匹のコイルが連結したことにより、水分を乾燥させるほどの強力な電波を発信できるようになったポケモンだ。こいつが近寄るとなかよしバッヂの通信機能が麻痺するんだよな……。
モンスメグ「あれあれー?メグのさっきのアタック見えてなかったのかな?やられ役ってとこかな☆」
テッセン「時に使い捨てる勇気も経営者の器じゃ」
あなたさっきからすごい発言してません?

モンスメグ「ふーん、シークレッツ☆デュアル!」
さっきの新型ばくれつパンチってそんな技名だったんだ。
だけど賢いぞメグ、自分の技の命中率とともに威力まで倍増させちまう、まさにロマンチックなやり方じゃないか!
テッセン「がはは、よいスパーキングじゃ!行ってこいライボルト!」
長いたてがみに常に充電させることによって、筋肉に伝わる電気信号を加速させて戦うポケモン。こいつがテッセンの切り札だろう。
モンスメグ「むむー……パワー切れかも」
アリス「どうしたんだ?もっかいさっきのシークレッツなんたらを打ち込んでやりゃ」
テッセン「その編み出した技は一度に二回ばくれつパンチを放つのじゃろうて。ばくれつパンチのPPは5じゃ。つまりもうその技は打てん」
アリス「!」
ただポケモン捨て駒のように切り捨てているだけかと思っていたが、そんな秘密に気付いていたなんて……さすがはジムリーダーを務めるだけはある!

モンスメグ「メグメグのうたをきけー♫」
モンスメグの うたう!
ライボルト「?」
テッセン「ユニークな人材はわしの会社に要らん。与えられた任務を忠実にこなす犬こそ理想の部下じゃ」
ライボルトの どろかけ!
こうかは ばつぐんだ!
モンスメグの めいちゅうりつが さがった!
アリス「まずい!」
ただでさえフィフティ・フィフティなのに、ここで目潰しされちまうとしまいにゃ攻撃が届かなくなっちまう。
虎視眈々とこのチャンスを狙っていたわけか!
モンスメグ「うっとおしいなーもー!」
身についた泥を磁力で取り除いていくメグ。
そうか、肌に残る怪我や直接触れられて付く汚れと違ってこういうのは持ち前の雷魔法で除去れるからキレたりはしないのね。
基準がなんとなく理解できてきた。
モンスメグの ほたるび!
とくこうが ぐーんとあがった!
テッセン「ノルマまで泥をかけ続けい、ライボルト!」
くっ……必ず成功するバフを積んではいるもののこのままではジリ貧だ。
今のメグちゃんに必要なものを考えろっ。
速さではない、命中でもない、ロマンですらない。
本当に任務を遂行するにあたって欠かせないものはなんだ?
テッセンのいうような無茶はもってのほかだ。

ーーーそのとき、ボクの神経に電撃が走る!

アリス「メグ!」
モンスメグ「☆☆☆」
え、なにその発音。気が狂いそう。

アリス「人は誰でもくじけそうになるもんだ!ボクだって、今だってそうだ!叫ばなきゃやりきれない思いを捨てるんじゃねえ!お前は伝説としてのプライドが邪魔してヒトに優しくしてもらえなかったんだろ!ボクが言ってやる!でっかい声で言ってやる!
聞こえるかあぁー!
ガンバレーーーッ!


 

 

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モンスメグの でんじほう
きゅうしょに あたった!
あいての ライボルトは たおれた!

テッセン「ガッハッハ!やりおるの!わしの降参じゃ、こいつをやろう!」

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ダイナモバッジを受け取った。
テッセンは、気さくにみえながらも裏表が見え隠れする明るい笑顔と大声を絶やすことなくその場から見送ってくれた。
あー、この恰幅の良さがプレジテントたる器なのだろうな。

アリス「よし、んじゃあいつらでも……」
モンスメグ「あーりすちゃんっ♪」
目の前にくるっとやってきて、彼女よりも背の低いボクに目線を合わせるように少し屈んだ姿勢で見つめてきた。
モンスメグ「メグ、がんばったでしょ☆」
アリス「あぁ、ボクの応援がなくてもだいじょぶそうだったな」
そう口に出すと、あからさまに不満そうに唇を尖らせる。
モンスメグ「ね、ありすちゃん。このままデートしよ?」

珍しく甘えた声色で誘いながらボクの両肩に手を置くメグ。
こんなタイミングじゃなければ最高のお誘いだった。
ボクは、彼女の手をそっと引き離すと首を横に振って断った。
アリス「今はそういう時じゃない」
モンスメグ「あ!さっき良い喫茶店みつけたんだよ☆言質直葬・ヒウンアイス置いてるとこなんだって!ね、それくらいならいーでしょ!」
なんか現地直送の発音が穏やかじゃなかった気がするが、まぁここまで順調にバッジを集められたのも事実メグの功績だ。店頭でアイスを買ってやるくらいなら探すついでにもなるし。
アリス「しゃーねぇなぁ」
モンスメグ「やーりぃ♪あっちあっち!」
メグはボクの手首を掴むと、はしゃぎながら駆けてゆく。
わがままな癖に、自分から改まってわがままをお願いしてきたのははじめてだ。

ヤマブキの近未来的な大都市とは対照的な、キンセツの産業的な現代都市を彼女と巡っていく。その風景は、閃電のように瞳に映って見えた。
モンスメグ「あ、あれ……が……。チッ
目的の喫茶店らしき建物を一目見ただけで通り過ぎていくメグ。
アリス「おい、ここじゃないのか?バニリッチのメニュー表が」
モンスメグ「メグちゃん気が変わっちゃった☆あっちの純喫茶うたごえでメロディー弾んじゃおっ♪」
急に気分がコロコロと変わるのは今に始まったことじゃないが、どうもおかしい。
ボクはちらりとガラス越しに店内を覗くと見慣れた翼を持つ少女2人と、迷子の主犯格の姿が視界に飛び込んだ。
アリス「なんだここにいたのか、ったく」
茶店の入り口を開けようとした途端、稲妻の如くボクを引き留めてきた。

 

モンスメグ「行かないで」

 

出会ってから、何か月か一緒に過ごしてきて一度も聴いたことのない声。例えるならリリコ・スピントに近い、重量感のある声が耳に残り、思わず止まってしまった。

モンスメグ「わたし、頑張ったんだよ?全部ひとりで試合を制してきたんだよ?」

いつものメグのようなおどけた雰囲気はそこには無かった。
いや、おそらくこれが素のモンスメグだと気付いた。
ロマン砲主義に見えて、実は理知的かつ冷静に勝ちを掴んでいく姿勢と戦術。
ふざけた台詞で場を盛り上げながらも、時折漏らす真理に近いひとこと。
それらは、伝説の三聖獣としてジョウトを駆け巡っていた頃の彼女こそが本当の彼女だとすればピースが当てはまる。
メグは、電波キャラなどではない。
気高く聡明な、れっきとした大人の女性なのだ。

モンスメグ「マサキも言ってたでしょ?対価には報酬を、報酬には対価を。そしてわたしの理念はね、全は一・一は全。言ってる意味、わかるよね?」
あいにくカオス理論とフラクタルは専攻してない。
モンスメグ「ねぇ、ありすちゃん。ありすちゃんにとって私たちってなに?」
アリス「決まってるだろ……仲間だ」
モンスメグ「都合のいい概念で誤魔化さないで!」
雷鳴とともに大きな風圧を感じたと思うと、目を開けばそこはキンセツシティの郊外まで移動していた。メグが持つ閃光の脚力によって瞬時に連れていかれていたのだろうか、周りには人が見当たらなかった。
モンスメグ「だったら、どうしてグレアたんばかり贔屓するわけ。ううん、隠さなくてもいいよ、グレアたんは恋人に近い存在なんでしょう。曖昧な関係。そう、ありすちゃんはいつだって曖昧。仲間とか、パートナーとか、そんな虫のいい言葉と甘い言葉で言い表そうとする。そこに平等性はあるかしら、かと言って本気と呼べる感情は生まれるかしら」
ボクはなにも答えられなかった、図星だから。
ボクはなにも考えられなかった、無力だから。

モンスメグ「……ねぇ、もうわたし疲れちゃったよ」
またしてもはじめて見せる姿だった、儚げに俯く潤んだ瞳。
モンスメグ「いい加減言葉聞かせてよ。答え見つけてよ。このまま旅を続ける気なら……わたし死ぬから」
アリス「それだけは絶対だめだ」
モンスメグ「そんな言葉は求めてない」
そうだ。こんな一匙の幸福など、何の意味もない。
メグが欲しい言葉は、答えは、決意と納得だ。
わかってる、わかってるつもりなんだけどなにもできない。

モンスメグ「わたしね、本当に嬉しかったんだよ、さっきエール送ってくれたこと。すっごく心躍っちゃった。だってわたしヒトなんて劣等種にしか思ってなかったからさ。そんな中ありすちゃんと出逢って。どうせそこら辺のトレーナーだと思ってたけれど、全然違った。一切命令を出さないトレーナーなんて前代未聞だもの、それにわたしがやりたいようにやっても落胆も罵倒もしなかった。むしろ個性だって褒めて伸ばそうとしてくれた。それでね、ありすちゃんにだったらわたし対等の立場でいれるって実感したわ。だから、さっきのがんばれって励ましがすっごく胸に響いたんだよ」

モンスメグ「でも、舞い上がってたのはわたしだけだったかな。ありすちゃんはわたしのこと……ううん、ろっくんもかるるんもうゆたんのことも見てないよね。舞い上がる炎の翼、神々しき現身、グレアたんにあなたは目を奪われてた。知ってるんだよ、セキチクの砂浜で何してたか。キサラギとの戦いでグレアたんだけ抱いてたこと。朝にカイナでやすらぎのすずを贈ってたこと」

モンスメグ「わたし、がんばる意味ないじゃない。最後にはグレアたんだもの……どうせ、うゆたんを救うのだって仲間を大事にしてるってグレアたんにアピールしたいだけなんでしょ!」

彼女は、大粒の涙をこぼしていた。
感情が、大幅に揺らめいて爆発していた。
ボクの頭に、こびりついたあの言葉が蘇る。

《度の過ぎた信頼は過信となって必ずどこかで綻びを起こす》
《同じ無駄なら立ち向かってください。最後まで命を煌めかせて》

あははー!おもしろーい、謝罪なんてカタチだけのものに本心も虚飾もおんなじなのにー♪

アリス「メグ」
ボクは顔を上げると、
10数センチ近い身長差から項垂れるメグの表情を見据える。
普段の彼女には似ても似つかない、曇天の雨模様に胸が痛くなった。
耐え切れずに、見出したインスピレーションを彼女へと渡す。

アリス「好きだよ」
せいいっぱいの背伸びをして、切ないあまくちの手付けを交わした。
求めていた答えかどうかは分からない、けれどもこうやってお互いにぶつかり合わない限り、すれ違う心と心は触れ合えるはずもないから。


モンスメグ「いいの?わたし、本気になっちゃうよ」
アリス「本気でも、いいさ」

メグに翳った渦雷は過ぎ去り、晴れ渡ったようだった。
メグの胸には気高き強さを、頬には一滴の涙を伝う。
メグは離れようとしなかった。ふたり身を重ねる。

~~~

アリス「そろそろ行くか。戻らねえと今度はボクたちが迷子扱いされちまう」
モンスメグ「このまま愛の逃避行-ランナウェイ-」
アリス「どこに行ってもエリカ様の目はごまかせないっつーの」
モンスメグ「わたしがこの世界の電気と電波を止めてあげる」
アリス「本気か?」
モンスメグ「ロマンティックでしょ」
アリス「あぁ、夢見すぎだ。アリス・イン・ワンダーランドは案外リアリストだぜ」

グレアット「みつけましたっ!アリスさーんっメグちゃーんっ!」

背後から、ボクたちを呼ぶ声が聞こえてきた。
隣に目配せすると彼女は振り返っていなかった。

ボクは、メグの腕をがっしりと掴む。
そして。
アリス「行こうぜ」

そのまま声がするほうへ振り向くと、メグを引っ張ってグレアットのもとへと走り抜けた。
モンスメグ「…………くすっ」

グレアット「もうっ、ジムから出たなら言ってくださいよっ、私ポケギア持ってるんですからっ!」
アリス「おーごめんごめん、6号は見つかったか?」
グレアット「喫茶店でゆんちゃんと特大パフェに挑戦してますっ」
アリス「なー!あんにゃろう心配かけさせたら次は迷惑かけさせるつもりかよ!」

モンスメグ「すーっ……。ろっくんってば、くいしんぼうさん☆次のサロンはカビゴンコスにイメージチェーンジ♪」

メグは、いつものメグへと戻ってくれたみたいだ。
ボクは、安心しながらもどこか寂しい気持ちが両立していた。
グレアット「えーっ、今のハクリューちゃんコスがいっちばんですよっ!」
モンスメグ「マルノームとかもベリーキュート☆」
アリス「いや問題はそこじゃねえだろ」

こうして、ボクとモンスメグのロ~~~マンティックな夢は幕を閉じた。

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~~~♪~~~

チャーミングな翼を引き下げて登場
無敵で素敵な衝撃 刺激的な少女
誰もが自然と回りだす神様だって踊りだす
揺れる会場燃える会場ほら案の定
Peace Enjoy!

僕ら時々日々の隙間に彷徨うことだってあるだろう
そんなときパッと目の前そっと照らしてくれるある光
つまらないネタばっかり寄付してちゃつまらない
そんなにハマって抜け出せなかった昨日までの僕ら

爪なんてなくてもいいのさ
空なんか飛べなくていいのさ
僕らこのパーティがあればそう何にでもなれるのさ!

Come On!

Magic 君の紡ぐ魔法は
Burning 僕を熱くする
Playing それはちっぽけなんだ
だけども世界に花を咲かすさ

Ride On 闇を駆け抜けてく
Supreme 愛と空すべて
受け取るすべてがまるでメッセージ
照らしていてよ最後まで

握った手のひらから伝わるのさ君が好き

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